11月3日(土・祝)まで開催されている第31回東京国際映画祭で29日、映画文化の最新動向を紹介する文化庁映画週間の一環として「日中映画製作の新展開」をテーマにしたシンポジウムが開催。第1部ではジョン・ウー監督作品を手掛けてきたプロデューサーのテレンスチャンが「日中共同制作現場の成長と今後」を、第2部では北野武監督作品のカメラマンとして知られる柳島克己が「国際共同プロジェクトの現状」について語った。

近年急速に拡大した中国の映画市場。今年5月には日本と中国の間で日中映画共同製作協定が発行され、今後これまでよりも多くの文化交流と、両国間で協力し合っての映画製作が増加していくことが期待されている。プロデューサーとして40年以上のキャリアを積み、香港や中国のみならず、台湾や日本、韓国、ハリウッドなど幅広い国々で製作を務めてきたテレンスは、国際共同製作の上で最も重要な事柄は「コミュニケーション」だと語る。

「相手の文化や慣習を尊重することが大事。人々が違う考え方を持っている時には、尊重し尊敬しながらやらなければならない。それでもコミュニケーションの問題は起こるが、相手が自分と違っても気分を害してはいけない。お互いを理解することが重要だと思います」。

テレンスがプロデュースを務め、日本でも大ヒットを記録した『レッドクリフ』が公開された10年前には中国国内には3000スクリーンしかなかったが、現在では40000スクリーンと増加。若い世代の観客が大多数を占め、観客の趣向も洗練されるようになったと明かすテレンスは「どんな言語でも、質のいい映画を観たいと欲している。内容そのものがよければ、それだけ人気は高くなる」と語る。

そんなテレンスは、先日日中合作映画『Wings Over Everest』を製作。同作では今回の東京国際映画祭で特集が組まれている日本を代表する俳優のひとり、役所広司が主演を務めた。「この作品では、主役の国籍はどこでも良かった。でも私は役所広司さんの大ファンで、彼のことを世界で一番優秀な俳優だと思っていたので、いつか一緒に仕事がしたいと思っていました」と、役所を配役した動機を明かす。そして、実際に撮影現場で見た役所の様子について「ファンタスティックだったよ!」と顔をほころばせ「非常にプロ意識が強い方。彼には天才の素質がある。常に役にハマり、見事な役者だと思います」と手放しに大絶賛した。

続いて登壇した柳島は、昨年秋に中国の内モンゴルへと渡り撮影監督を務めた作品と、今年夏に撮影した日中合作の大作映画の現場の違いをはじめ、労働時間や宿泊環境など日本の現場と中国の現場との大きな違いなどを明かす。さらに、今後多くの日本人スタッフが慣れない中国の映画業界で活躍していくための注意点として「30日以上滞在する場合は一度警察に届けなければならない。それに気付かなくて、撮影が終わって街に降りてきたらホテルに止まれなくて大騒動になった」と自身の体験談を笑いながら、ビザや契約の課題について語り「いきなり大きな製作費の作品を進めていくのは大変なので、まずは経験値を作ったほうがいい」と、着実に切磋琢磨していくことを重要視した。

またシンポジウムの終盤には来場者からの質疑応答に答えた2人。中国の映画界にいまだに残る検閲の問題や、共同製作国間でのパワーバランス、そして海賊版の問題について実例を挙げながら丁寧に回答。最後にテレンスは「私自身も可能性を常に模索しながら共同製作を通してあらなことを学んでいきます。日中の共同制作を推進していくことは、日中双方に大いなる機会となるでしょう。活発にやっていきたい」と意気込みを語り、柳島も「いままでにない流れが来ることになるでしょう」と期待感をつのらせた。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)

日中の映画共同製作の未来を語るシンポジウムが開催!