「ドナルド・トランプ大統領(以下トランプ)は紛れもなくウソをつくことを楽しんでいます」
米首都ワシントンで中間選挙を取材中、共和党の選挙戦略官ロン・クリスティー氏がつぶやいた。
安倍首相も呆れているはず・・・
2016年大統領選時から、トランプは何度も虚偽発言を繰り返しており、一向に収まる気配がない。本人はためらいもなく大胆発言を続けている。
トランプ政権の高官が匿名という条件で、トランプの言動についての取材に応じてくれた。
「トランプ政権に仕えていても、全員がトランプ支持であるわけではありません」
「トランプは数多くのウソをついていますから、周囲にいる政府職員はずいぶん落胆させられています。安倍晋三首相も本当は呆れているのではないでしょうか」
トランプのツイートを遡って調べるだけで、虚偽と呼べる内容をいくつも指摘できる。
だが補佐官たちを本当に困らせているのは、国家全体にかかわる発言やツイートである。
最近では10月22日、突如として中流層向けとして、10%の所得税減税を口にした時だった。
それは思いつきといったレベルでの減税案であり、中間選挙前に実施したいとの要望だった。
10%の所得税減税が実際に行われるとしたら、莫大な財政負担になる。
常識では考えられない10%減税だが・・・
米政府は昨年12月、所得税と法人税の減税を実施しており、米政府にはこれ以上の余裕はない。そこにきて10%の減税は常識では考えられない。
ホワイトハウスのスタッフたちは減税案がトランプの口から出た後、大慌てだった。
「大統領、そんなこと聞いていませんよ」と言いたいところだったようだが、トランプの発言を無下に否定するわけにもいかない。
ホワイトハウスに詰めている記者たちは、10%減税の詳細について補佐官たちに詰め寄った。だが誰一人として満足に答えられない。
もちろん中間選挙前までというトランプの口約束は、実現不可能だった。
減税を正式に決定するには議会の承認が必要になるが、議会は中間選挙まで閉会されている。
ホワイトハウスが新たな減税案を公表するとしたら、経済諮問委員会のケビン・ハセット委員長が総括しなくてはいけないが、ハセット氏は何も知らされていなかった。
逆説的政策に見舞われているホワイトハウス
匿名で答えた高官は、ホワイトハウスではいま「逆説的政策」という流れに見舞われているという。
ホワイトハウスが新たな政策を発表する時、これまでであれば職員が関連部署などと協議をしながら骨子を作った。
そして議会の担当議員とも調整しながら政策が練り上げられて大統領が公表するという流れが一般的だ。
だが「逆説的政策」では、まずトランプによる発案があり、それを高官たちが政策として肉づけしていくというのだ。
10%減税案も数週間の期間があれば、政策として練り上げられないことはないが、現実的ではない。
過去の大統領は米国の最高指導者という立場を意識し、公の席で話をする時には細心の注意を払ってきた。一言の暴言によって、運命が変わることさえあるからだ。
だがトランプは相変わらずがさつな言動を繰り返す。中米から数千人が米国の国境を目指すキャラバン(遠征)について、こう述べた。
「キャラバンの中に中東出身のテロリストや犯罪者が紛れ込んでいる」
不用意な発言だった。
報道官も即座に「間違いなし」
トランプはキャラバンを構成する人たちを熟知しているわけではない。テロリストがいることを確認したわけでもない。
単に、数千人の不法移民たちの入国を許可したくないためにでっち上げの理由の口にしたに過ぎない。
ホワイトハウスの記者たちはトランプの発言後、すぐにサラ・サンダーズ報道官に「犯罪者やテロリストが紛れているのか」を質した。
同報道官は言い放った。
「アブソリュートリー(もちろんです)」
そう言わざるを得なかった。だが犯罪者とテロリストが紛れている確証はない。ホワイトハウスはすぐに情報を公表できなかった。
米テレビ局の記者たちはキャラバンの中に入って、「トランプが犯罪者やテロリストがいると言っているが・・・」と行進をしている人たちにマイクを向ける。
トランプの嘘を糊塗する高官たち
もちろん彼らの答えはノーだ。
するとホワイトハウスは、1日に平均10人のテロリストが米国内に入国しているという統計数字を探しだしてきて公表した。トランプの発言の正当性を保つための行為だ。
こうした話はいくつもある。
今年2月、トランプはワシントン市内で軍事パレードを実施すると発言した。フランスで行われたパレードを観て、同じことを考えたようだ。
トランプは今年11月のベテランズデー(退役軍人の日)に実施したい意向だった。
しかし国防総省との綿密な打ち合わせの末に打ち出されたアイデアではなかった。
コストが100億円を超えるとの試算と同時に、ワシントン市内の道路が軍事車両の通過に適さないとの理由もある。
何ごとも最初は思いつきから始まることが多いが、思慮のある指導者であれば発表する前に細部を調べさせる。
ある程度具体的な計画が整ったところで公表とならなくてはいけないが、トランプはまず口にしてしまう。
中国や日本への関税もただの思いつき
中国や日本からの輸入品に対する度重なる関税も、トランプの思いつきからスタートした公算が高い。
この件では裏が取れていないが、スティーブン・ムニューシン財務長官とウィルバー・ロス商務長官は相手国との貿易交渉を進めているにもかかわらず、トランプに頭ごなしに追加関税をかけられた可能性がある。
トランプのこうした破天荒な言動が、ほとんど直感と呼んでさしつかえない地点から発信されていることがお分かりかと思う。
それを考えると、中間選挙で全米各地においてトランプが行う遊説の中身がいかに虚しいかが分かる。
トランプの口約束の尻ぬぐいをさせられている最大の「被害者」は、サラ・サンダーズ報道官かもしれない。
トランプ擁護の姿勢を貫き通す姿勢は、滅私奉公の鏡とさえ言える。
すでにトランプの化けの皮は剥がされているか思うが、トランプ信者たちの信じる力はいまでも強いのが悲しい現実である。
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