レアル・マドリーは29日、フレン・ロペテギ監督の解任を発表した。直近の公式戦7試合1勝1分け5敗という低迷に加え、28日に行われたリーガエスパニョーラ第10節バルセロナ戦での1-5の大敗の責を問う形での更迭だ。

▽しかしながら、今シーズンのマドリーの惨状は果たしてロペテギ監督の手によるものなのだろうか。フロレンティーノ・ペレス会長を初めとするフロント陣の今夏の動きに疑問を呈したい。

◆2人のレジェンドの流出、サイクルの終焉

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▽今夏、指揮2年半の間にチャンピオンズリーグ(CL)3連覇を成し遂げたジネディーヌ・ジダン監督が退任した。また、時を同じくしてFWクリスティアーノ・ロナウドユベントスに移籍。マドリーで公式戦438試合450ゴールを奪ったストライカーと、歴史上でも類を見ない成功をクラブにもたらした指導者を、同時に失った。

ジダン監督は、退任の際に「変化が必要だった。3年間監督をして、クラブを離れるタイミングだと思った」、「私がこのまま監督を続けても、トロフィー獲得をより難しくするだけ」とコメント。選手時代にも慎重にキャリアを選んでいた人物らしく、鋭い嗅覚でサイクルの移り変わりを感じていたのだろう。

▽一方で、C・ロナウドは退団を振り返り「僕に対して加入当初のような見方は、もはやクラブ内に存在しなかった。特に、会長からはね」と、ペレス会長への失望を語った。また、「彼にとって、僕は不可欠な存在じゃなかった。それこそが僕を移籍に突き動かした理由だ」とも発言。ペレス会長次第ではC・ロナウドの退団は無かったかもしれず、結果論だが、深刻な得点力不足に陥っている現状を鑑みればこの損失は計り知れないものだろう。

◆“ラ・ロハ”瓦解がマドリー批判へ
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▽新時代幕開けの旗印としてマドリーが招へいした人物が、フレン・ロペテギ監督だ。ラージョ・バジェカーノで指導者キャリアを始めた同監督は、レアル・マドリー・カスティージャ(マドリーBチーム)やスペイン代表のアンダー世代で評価を高めており、U-19スペイン代表を率いていた2011年にはU-19EUROで優勝。また、2016年夏にスペインA代表指揮官に就任して以降も、GKダビド・デ・ヘアやMFイスコ、MFコケ、DFダニエル・カルバハルなど多くの若手を引き上げた。見事にベテラン世代との融合を成功させ、20試合14勝6分け無敗、61得点13失点という圧倒的な成績を収めている。

▽しかし、ロペテギ監督はロシアワールドカップ(W杯)開幕の2日前にスペイン代表を電撃解任されることに。その前日にマドリーがロペテギ監督の招へいを発表しており、スペインサッカー連盟(RFEF)のルイス・ルビアレス会長が激怒したためだ。

▽当然ながら、スペイン国内でマドリーやロペテギ監督を批判する声は大きかった。ペレス会長がルビアレス会長の決断に関して「馬鹿げたリアクションを見せた」と痛烈な批判を浴びせたことも、火に油を注いだだろう。こういった騒動の後、予選で素晴らしい成績を収めていた“ラ・ロハ”が世界大会でお披露目されることはなく、スペインは16強で沈没することとなった。MFダビド・シルバやMFアンドレス・イニエスタ、DFジェラール・ピケら功労者の最後のW杯に泥を塗ってしまったマドリーが、「ルビアレスは大げさだ」とスペイン国民に釈明する姿が好意的に受け入れられるわけがあっただろうか。

◆大エースが抜けただけの移籍市場
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▽ロペテギ監督体制下がスタートするシーズン、マドリーが獲得した即戦力はGKティボー・クルトワと、かろうじてFWマリアーノ・ディアスのみ。とはいえ、GKケイロル・ナバスが在籍していたことを考えるとクルトワの到着が劇的な変化に繋がることはなく、マリアーノもマドリーが切望していたような大エースには程遠い。つまり、“今シーズンの戦力”に限ればC・ロナウドが抜けた穴がぽっかりと空いただけの移籍市場だ。

▽また、マドリー寄りで知られるスペイン最大手『マルカ』は、W杯直後にロペテギ監督が自らポルトMFエクトル・エレーラの獲得を進言したがフロントが拒否したと報道。あくまで報道は報道でしかないが、フロント主導のスター選手は獲得せず、指揮官の必要とする選手も獲得しないというのであれば、チーム作りは困難にならざるを得ない。とりわけ、ジネディーヌ・ジダンという圧倒的な求心力を備えていた人物の後とあっては尚更だ。

◆理想を追ったロペテギ監督
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▽そして迎えた新シーズン、UEFAスーパーカップアトレティコ・マドリーに敗北した以外、滑り出しは順調だった。変化が訪れたのは、初めの公式戦6試合を5勝1分けで終えて迎えたリーガ第6節セビージャ戦。強固な守備や躍動する前線に苦しみ、0-3の完敗を喫した。そこからはアトレティコ戦で引き分けて、アラベス戦、レバンテ戦で連敗。どちらもフィジカルを押し出したハードな試合を得意とするチームで、バルセロナのようなポゼッションスタイルのサッカーにも激しく対抗してきたクラブだ。中盤の連動を重視するロペテギ監督のフットボールからすれば、時間のかかる相手だろう。

▽もちろん、アトレティコを除けばタレントに明確な差のあるチームなのも確かで、敗北が許されない相手だ。そして、その後の“エル・クラシコ”で1-5の屈辱的大敗を喫したことも、解任に値する出来事に違いない。0-2で迎えたクラシコの後半に傷を最小限にするものではなく奪い返しに行くサッカーで勝負に出るなど、ロペテギ監督が“取りこぼさないサッカー”に徹し切れなかったことも明白に低迷を招いている。

◆エレガントさとは真逆の解任声明
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▽今か今かと待たれていた解任の“Xデー”となったのは10月29日クラシコで完敗した翌日だ。マドリーはクラブ公式サイト上に「理事会は次のバロンドール候補を8選手擁するというクラブ史において前例のない陣容と、ここまで手にした結果の間に大きな不均衡があると理解しています」という声明を掲載し、4か月前までスペイン代表で手腕を発揮していた指揮官の名声を破り去った。「バロンドール候補を8選手擁する」という文言は「フロントの補強不足ではない」という主張に他ならず、「手にした結果の間に大きな不均衡がある」とは、まさにロペテギ監督の采配やマネジメントに全責任を押し付ける声明だ。

▽だが、クラシコでPKを与えたのはロシアW杯でトロフィーを掲げていたDFヴァランであり、同点のチャンスを逸したのは同大会でMVPを獲得したMFルカ・モドリッチだ。どちらもバロンドール候補筆頭に躍り出る程の選手であり、本来の実力に疑いの余地はない。だが、トップ選手はどれだけ疲労を抱えていてもトップ選手で居られるのだろうか。特にW杯シーズンにトップ選手のパフォーマンスが落ち込むことは十分に予測可能なことであり、フロントの主張には疑問を禁じ得ない。

▽敗将に更なる屈辱を浴びせることが、ロス・ブランコスの度々掲げている“エレガントさ”という言葉に相応しいのだろうか。クラブとしての気品を最も失っているのは、フロント陣だという気がしてならない。

◆傷ついたキャリアの回復を
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▽「クラブはフレン・ロペテギ監督とそのスタッフの仕事とこれまでの働きに感謝しており、彼らのキャリアが今後幸運に満たされるものになることを祈っています」というマドリーの声明とは裏腹に、確実に傷付けられたロペテギ監督のキャリア。クラシコ直前まで選手への信頼を口にし、解任発表後にも「この機会を私に与えてくれたクラブに感謝を述べたい。プレーヤーたちの努力や取り組みにも感謝がしたい。クラブに雇用されている全員にも等しく感謝する」と誠意を示していた人物を糾弾する声が、止むことを願いたい。
《超ワールドサッカー編集部・上村迪助》
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