■「いっしクン」って何のこと?
奥さんから「陣痛がきた」と連絡を受けたとき、僕は仕事で京都にいました。予定日から4〜5日経っていて、毎日「今日か、今日か」と待ちわびていた最中でした。仕事を終えて、急いで新幹線に飛び乗ります。間に合うか、いや間に合わないか、と考えながらじりじり過ごした2時間のことを、今でもはっきり覚えています。病院側もけっこう頑張ってくれたらしく「あと、どのくらいで着きますか?」と、奥さんが助産師さんに聞かれて「あと1時間くらいです」と答えたところ「1時間は無理ですから、もう産んじゃいますね」と言われたそうです。あと20分くらいだったら、頑張ってくれたのかもしれないですね。お産には、奥さんのお父さんが立ち会ってくれました。病院に着いて、まずは奥さんの顔を見るために分娩室へ。その後、新生児室に向かいました。看護師さんから「いっしクンはこちらですよ」と案内されましたが、まだ名前を付けていなかった僕はキョトン。看護師さんから「第一子でしたよね?」と聞かれ、「ああなんだ、“いっしクン”ってそういうことか……」と、緊張が一気にほどけました。

「第一子」を「いっしクン」……そんなふうに呼ぶのかと驚きました。


■息子とのファーストコミュニケーション
産まれたばかりの息子と対面し、じーっと眺めていると、看護師さんから「手を洗って、赤ちゃんコミュニケーションを取ってみてください」と言われました。コミュニケーションって……産まれたばっかりの赤ちゃんと、どうコミュニケーションとればいいんだろう?と、頭の中は疑問符だらけ。 赤ちゃんはフニャフニャで、弱々しくて、ばい菌だらけの自分の手でどこまで触っていいのかもわからない。だから、そーっと指を近づけることしかできなかったんです。その指を、息子がふわっと握ってくれたとき「やばい、パパになったんだ!」という思いが全身をかけめぐりました。息子が産まれる前から想像はしていましたが、その存在を目の当たりにすると、改めて「人が産まれるって、すごいことだな」と思えたんです。まっさらな人間が目の前にいて、自分がちゃんとしなければ、こいつは生きていけないんだなって……。「20歳くらいまでに、社会に立ち向かえる人間にしなきゃいけない」「立派な男に育ててやるぞ」みたいな責任感が、フツフツと湧いてきました。そうやって一人で熱い思いをたぎらせていたんですけど、新生児室には、赤ちゃんが次々運ばれてくるんですよ。面会してまだ10分くらいだけど「もう後輩できちゃってるじゃん」って(笑)。新生児室が狭かったので、他のパパのためにも「場所を空けなきゃな」という雰囲気になってきました。そういうわけで、息子との初対面はわずか10分。その短い時間に、パパの自覚と責任感が芽生えました。人の心の持ちようを一瞬で変えてしまうなんて、赤ちゃんって、やっぱりすごいなって思います。

看護師さんから「コミュニケーションをとってみてください」という言葉に戸惑ったものの、初めて触れた小さな手に感動した。


■ベタのすごさを息子に教わる
息子が産まれてから、仕事への向き合い方が少しだけ変わりました。前は気にしていなかった言葉も「息子がそんなことを言う子になってほしくないな」と思うと、注意しなきゃと思います。今は、過去映像なんていくらでも探せる時代ですしね。お笑い芸人として仕事を始めて20年経ちますが、最近では、突き詰めれば突き詰めるほど、お笑いって難しくなっていくなという感覚がありました。賢いことを言わなきゃとか、センスあることを言わなきゃとか。得意じゃないのに、そういうことをやろうとしていたんです。でも、子どもって、「ばぁ」と言うだけで笑うんですよ。それを見たときに、笑いってシンプルでいいんだなという気持ちになりました。ベタのすごさですよね。小難しい笑いよりも「ひょっこりはん」みたいなことの方がたくさんの人にウケる。歴代の先輩たちが皆やってきたことっていうのは、やっぱり間違いないんですよね。ところで、息子が産まれた後、僕の最初の仕事は、なんと女装の仕事でした。ボートピア名古屋というボートレースのCMで、ロバートの3人がアイドル歌手という設定だったんです。その衣装のまま「おめでとうございます」って皆に言われたんですけど、「いやー、パパになりましたよ」という言葉がめちゃくちゃ浮いていましたね!

息子の寝顔を確認して、パパになったんだと実感! ただ、パパになってからの初仕事は……まさかの女装。



ロバート山本博のエッセイ連載がスタート!理想のパパはアノ先輩芸人

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掲載:M-ON! Press