疼痛(とうつう)とは医学用語で「痛み」の意味です。長く続く痛みは、心身に不調をきたすこともあります。本来、「痛み」は怪我や病気を知らせる危険信号としての役割を果たしており、痛みそのものは病気ではありません。しかし、原因となる怪我・病気が治ったあとにも続く慢性疼痛の場合は、「痛み」そのものが病気であり、治療を必要としている状態なのです。長く続く痛み「慢性疼痛」のしくみをみていきましょう。

「痛み」の役割

そもそも「痛み」はどういったメカニズムで起こるのでしょうか。最近どんなときに「痛い」と思いましたか?指を切った、やけどした、足の小指をぶつけた、風邪で喉が痛い、体を変に捻った…など、1日に1回くらいは痛みを感じているのではないでしょうか。

こういった痛みは急性の痛み(急性痛)で、体に何らかの刺激が加わったときに起こります。この刺激は「今、体が傷つきました!」という情報となり、神経を伝って脳に届きます。脳がその情報を認識することで、「痛い!」と感じることができるのです。

痛みは嫌なものですが、自分を守るための信号でもあります。痛みを感じないと体の危険を察知することができず、病気や怪我への対処が遅れてしまう可能性があります。「痛い」と感じているのは脳なので、老化や神経疾患により痛みの感覚の伝達速度が遅くなっていたり、正常に伝達されなかったりすると、痛みを感じるのが遅れたり痛み自体を感じなかったりすることがあります。

例えば、糖尿病の患者さんに起こる糖尿病性神経障害は、高血糖による神経細胞の破壊や体の末端の細い血管が侵されることにより足先などの感覚が鈍くなります。感覚が鈍くなることでちょっとした怪我に気付くことができず、血管が侵され怪我の治りが悪いことも相まって、ひどいケースでは足が壊死してしまい切断を余儀なくされることもあります。

「慢性疼痛」ってどんな痛み?

慢性疼痛とは、「急性疾患の通常の経過あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて持続する痛み」と定義されています。原因となった怪我や病気が治ったあとにも、あるいは治るために通常必要な期間を過ぎてもなお痛みが続いている状態のことです。「疼」の文字を省いて、慢性痛と表現することもあります。

「治るために通常必要な期間」とはどのくらいでしょうか。この点については3ヶ月以上とする考え方もあります。しかし、慢性疼痛において注目すべきなのは、原因となる怪我・病気が治っているはずなのに痛みが続いていること、怪我・病気の治り具合からは考えにくい程度の痛みがあることなので、痛みが継続している期間はあまり重要ではありません。

上で説明したように、痛みは本来体の危険を知らせる信号の役割を果たしています。しかし「慢性疼痛」では、その危険が無くなったにも関わらず、信号が発信され続けてしまうのです。

慢性疼痛が起こるメカニズム

本来危険を知らせる信号であるはずの「痛み」ですが、危険がなくなったにも関わらずなぜ信号が発信され続けてしまうのでしょうか。まずは、痛みがそもそもどのようなきっかけで起こるのか痛みの分類を確認したうえで、慢性化の仕組みを見ていきましょう。

痛みの3つの分類

痛みは主に次の3つに分類されます。

1.炎症や刺激により感じる痛み(侵害受容性疼痛)

末梢神経にある「侵害受容器」という部分が刺激されて起こる痛みです。前述のように、体が傷つけられるとその部位に炎症が発生します。するとサイトカインなどの情報伝達物質が発生し、その物質が神経を刺激することで痛みを感じます。この痛みは急性の痛みに該当するものが多く、怪我・やけど・打撲などの外傷、胃炎、各種の関節炎、歯の痛みなどによって起こる、身近にある痛みです。

2.神経の障害によって起こる痛み(神経障害性疼痛)

外傷、炎症、圧迫、代謝疾患などが原因で知覚神経(感覚を伝える神経)が障害されて起こる痛みのことです。よく耳にするものでは、坐骨神経痛があります。帯状疱疹後神経痛、というものも耳にしたことがあるでしょうか。

ほかには、脳卒中や脊髄損傷の後遺症としてみられる痛みなどがあります。実際には、傷もなく炎症もなく原因が分からない痛みがある場合に、神経が原因となっていることがあります

3.心理社会的な要因による痛み(心因性疼痛)

ストレスや不安などの心理状態は、痛みの感覚に影響を及ぼすことが知られています。こうした心理的・社会的要因が原因で起こる痛みは、心因性疼痛と呼ばれます。

それぞれの要素が組み合わさって起こる

このように、痛みは主に3つのグループに分類されていますが、全ての痛みが明確にいずれかのグループに分類されるわけではなく、実際にはいくつかの要素が組み合わされています。なお、侵害受容性の要素と、神経障害性の要素を併せ持つような疼痛は特に混合性の疼痛といいます。

「痛み」が慢性化される仕組み

痛みが慢性化するしくみは、詳しいメカニズムは明らかにされていません。現時点では、急性痛をきっかけに末梢組織や脊髄の機能に変化を起こすことが原因と考えられています。それでは、末梢組織・脊髄の機能変化とはなんでしょうか?私たちが体のどこか(末梢組織)を傷つけられ、急性痛を抱えている場面を想像してみましょう。

末梢組織脊髄に起こる機能的変化

このとき、傷つけられた末梢組織は、サイトカインや神経ペプチドといった情報伝達物質を発生させます。これらの物質は、傷つけられた末梢組織に炎症を起こすと同時に、電気的な信号が脊髄を通って脳に届くことで「痛み」を感じさせます。炎症を起こすことで傷の修復を促し、痛みを感じさせることで危険を知らせる役割を果たすのです。

傷は修復されると、瘢痕組織(はんこんそしき)とよばれるコラーゲンや結合組織によって埋められた状態になります。いくつかの研究によれば、末梢組織にできたこの瘢痕組織が、サイトカインや神経ペプチドの産生の増加などに関係していることが示唆されています。

また、脊髄は脳と末梢組織を繋ぐ中継地点であるとともに、末梢組織から受け取った情報を脳に伝える際に、情報を装飾する役割も果たしています。持続的・断続的に傷害を伝える信号が脊髄を流れると、少しの刺激にも敏感に反応するようになってしまうことが、痛みの慢性化に繋がっていると考えられています。

心理社会的な状況が痛みに与える影響

さらに、こうした機能変化に加えて心理・社会的な要因も痛みの慢性化・増悪に関与しています。痛みが慢性化してしまうと、痛みにばかり注意が向いてしまい、ますます痛みに囚われてしまう…という悪循環に陥ることもあります。このように、長く続く痛みがさらに痛みの原因になっている可能性があります。また、事故の後遺症による訴訟を抱えると、痛みが継続する傾向があるという研究もあるそうです。

慢性疼痛の治療

森林浴する女性-写真

以上見てきたように、慢性疼痛の原因は複雑、かつ明らかにされていない部分が多くあります。治療においては、鎮痛剤などの薬剤を投与しつつ理学療法や認知行動療法などの心理的治療によるアプローチも検討されます。

薬物

基本的には、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)、アセトアミノフェンといった鎮痛剤が使用されます。これらの薬の効果を見て、効果が不十分な場合にはオピオイド系鎮痛薬(麻薬性の鎮痛薬)を使用したり、抗てんかん薬、抗うつ薬、抗不安薬などの向精神薬や、ステロイド(炎症を抑えます)、麻酔薬を補助的に投与することもあります。

ブロック注射

トリガーポイント注射、星状神経ブロック、硬膜外ブロックなどがあります。痛みの元となっていると思われる神経に直接働きかけて、痛みを和らげる、というイメージです。

理学療法

電気刺激療法、運動療法、などにより、筋肉をほぐしたり、血行を改善します。

認知行動療法

自分の認識や行動と痛みの関係を観察することで、痛みがあってもできることを考えて行く方法です。「何か楽しいことをしている間は痛みが気にならなかった」「痛みはあったが、○分は歩いても痛みがひどくならなかった」など、気づきを増やしていくことで、痛みばかりに囚われないように練習する方法です。

まとめ

痛みの種類も、原因や治療も様々であるということから、組み合わせを変えて試しながらの経過になることが多いかと思います。自分に合った治療方法を見つけるまでに時間がかかることもあります。色々な方法を試して、痛みとの付き合い方を知ることも、改善に繋がるのではないでしょうか。

怪我が治っても続く「慢性疼痛」痛みのメカニズム