初回視聴率14.2%を記録するも、ついに4話で8.9%まで下がってしまった月9「SUITS/スーツ」。理由は、おそらく弁護士ドラマとしての見応えにあると思う。脱落してしまった視聴者は、意外で面白い法律の細かな知識や、ハラハラする裁判での逆転劇を期待していたのだろう。

2つの軸
第4話で甲斐(織田裕二)は、関節骨化症の特効薬「レミゼノール」を開発した「ナノファーマ」が訴えられてしまった案件を、鈴木(中島裕翔)は、マンションの管理状態が悪いせいで飼っていたウサギを亡くしてしまった友加里(生越千晴)の案件をそれぞれ抱えていた。

全く関係のないように見えるこの2つの案件が、別軸で同時進行していき、そして最終的に交わらない。一応共通点として被害者の会があるのだが、裁判物において被害者の会はよくあるものなので意外性は特にない。

それぞれのオチ自体は、人間のイヤな部分も垣間見えたり、誠実な1人の男に意外な真実があったり、それなりに見所があった。しかし、単純に1時間で2つの事件を扱っているのだから内容はどうしても薄くなってしまう。どうしても、ズッシリとした見応えは出ない。そういうところを求めていた視聴者が、離れていってしまったのではないだろうか。

ただ、このドラマ。“親近感の無さ”は、清々しいくらいに吹っ切っていると思う。

親近感がない代わりにあるもの
ここ20年くらいだろうか、視聴者はドラマ、映画、漫画に親近感を求めるようになったと思う。ありえないほどイケメンだけど実はオタクでしたとか、信じられないくらい小顔の美女だけど恋愛に臆病だとか。どこかで“どこにでもいる”感を演出する。キャラクター性に隙を作る。超壮大なファンタジーでさえ、リアリティがにじみ出るものが好まれるようになったと思う。ひたすらカッコよく、スターとしてドラマの登場人物を崇める時代は、たぶんかなり前に終わっている。

それなのに「SUITS/スーツ」は時代に逆行するように、イケメンはイケメンであり、美女は美女のままで居続ける。わけがわからないくらい良いオフィスで仕事をして、どういう金の巡り方でどれくらいの給料を貰い、どんな生活をしているのか想像がつかないくらいカッコイイものであり続ける。

僕は、“寝ている姿を想像出来るかどうか”というのをキャラクターの親近感を測るバロメーターとして採用しているのだが、「SUITS/スーツ」の登場人物は寝る姿が想像がつかない。タクシーでウトウトはギリ想像出来ても、どんなベットで、どんな枕を使っているのかを想像させないほどの圧倒的な高みに存在し続ける。決して身近な存在ではいてくれない。

ファーム内の関係にも親近感はない。仲間のなハズなのに平気で仕事を奪い合い、嫌われてもいいのかこいつらってぐらい当たり前のように嫌みを言い合う。お互いを蹴落とそうとイヤな空気を発し続けるのに、それが前提なので決して居心地が悪そうには見えない。どういう心境なのか全く分からない。

だが、その嫌味セリフはシャレが効いていて面白みがあるし、演技も過剰なので見ていて飽きはしない。画的にもそうだ。鈴木保奈美の服がネットニュースになるほど衣装は毎回華やかだ。無造作に置いてある椅子なんかもちょっとしたものなのだろう。

制作陣は狙って、昔っぽくてカッコいいものだらけのトレンディドラマを、「SUITS/スーツ」で描いているのだろう。現代の流行りとは逆行した、雲の上の存在のスターとして憧れる登場人物を描いているのだ。

リアリティが好まれる時代だからこそ、「SUITS/スーツ」の存在価値が際立つのかもしれない。
(沢野奈津夫)

SUITS/スーツ」
月曜 21:00〜21:54 フジテレビ系
キャスト:織田裕二中島裕翔新木優子中村アン今田美桜、國村隼、小手伸也、鈴木保奈美など
脚本:池上純哉
演出:土方政人、石井祐介
主題歌:B'zWOLF
U-NEXTにて配信中

イラスト/Morimori no moRi