経団連11月5日、日本の社会が今後目指すべき姿を「創造社会」と名付けた提言書「Society5.0―ともに創造する社会―」を発表した。「創造社会」は、狩猟、農耕、工業、情報社会への変遷に続く5番目の社会のこと。経団連はAIなどの技術革新を見据え、企業活動・教育などの変革の必要性を訴えている。

5日に行われた会見で中西会長は、提言書について

「全体を通じて、自信を持って『日本はできる』という前向きな論調にしていることも特徴である。また、経済界の行動宣言という側面もあり、ただ提言をして終わりではない」

と自信を覗かせていた。しかしネットでは「既出な話題ばかりで創造的なことは何も言ってなかった」「ビジョンが全く見えない」など、批判的な声が相次いでいる。

「未来を切り開く鍵は『想像力』(イマジネーション)」

画像は経団連公式サイトのキャプチャ

「はじめに」では、「自分が世界を変えられると本気で信じるほどにクレイジーな人だけが、本当に世界を変えることができる」というApple社の広告スローガンを引用し、

「未来を切り開く鍵は『想像力』(イマジネーション)」
「世界で最も劇的な変化が起きる可能性を秘めている国が、日本である」
「山積する課題は課題解決の宝庫と言える」

と、希望にあふれる姿勢を見せた。提言については「創りたい未来のコンセプトを提示し変革を主動することで、社会の持続的な発展に貢献することこそが、日本が果たすべき役割」としている。

また、近年言われるSDGs持続可能な開発目標)についても

「文化的には、元来、近江商人の『三方良し』の心得のように社会に根差した商売を営み、『もったいない』という考えを持ち、自然と共に生きることを志向するなど、SDGs等に通じる思考を経済活動に内包してきた」

と強調。世界に先駆けて問題意識を持っていた、とアピールするかのようだ。

本文では、「Society 5.0」では、IoTやAI、ロボット、ブロックチェーンなどの技術が発展し、デジタル革新によって個人の生活や社会のあり方が大きく変わるとしている。この「デジタル革新」と「様々な人々の想像/創造力」が課題解決や価値創造になるという。

今後求められる人材「AI活用で課題解決」「多様なチームでリーダーシップ発揮」

中西会長が会見で「Society 5.0の実現に向けた課題を具体的に記している」と述べていた第2章「日本を解き放つアクションプラン」では、新興企業の育成や日本型雇用慣行の見直し、文理に分けた教育の見直し、デジタルガバメントの構築などが主張されていた。この時代に求められる人材は、

「AIを活用して自ら課題できる人材」
「果敢に挑戦し、社会の仕組みを一から創り直せるような人材」
「多様なチームでリーダーシップを発揮できる人材」

としている。

大学進学時の文理分けは、Society5.0の実現において「深刻な問題」としていて、

「全ての大学生に基礎的な AI・情報科学・数学・生命科学等を必修化し、文系を専攻する者も理数の知識を身につけ、理系を専攻する者も人文・社会科学や芸術・デザインなどの領域を学ぶなど、文理を隔てずリベラルアーツを学ばせる必要がある」

と述べている。

ネットではこれらの記載内容について「資料見てみたけど既出な話題ばかりで創造的なことは何も言ってなかった」「読んでもビジョンが全く見えない…」など厳しい声が多く寄せられている。ただ、「失われた30年を生み出した現実を直視して、その反省と総括をすべき」という人がいる一方、「まともなこと言ってるのでは?過去の償いではなく、未来の創造に注力する意思を応援したい」と評価する人もいた。

経団連は今後、経済界や行政、大学などと連携し、Society5.0の具体化に向けた都市モデルを作成する予定だ。提言書の中には「経団連自らも大きく変わらなければならない」とも書いていた。折しも、入会条件の純資産額を10億円から1億円に変えたと発表したばかり。創造社会の実現に向け、具体的な指針が出てくることに期待したい。