「長い間、放置され行政府の長として申し訳ない。法定雇用率を満たす形をつくるため、各省庁に工夫を凝らすよう指示している」

安倍晋三
photo by Miyuki Meinaka CC BY 4.0
 安倍晋三首相は11月2日の衆院予算委員会の基本的質疑で、中央省庁の障害者雇用水増し問題に関して陳謝しました。

 さらに、民間はさまざまな工夫をして法定雇用率達成に努力していますが、通常の試験による採用だけでは、中央省庁の法定雇用率は達成できないと述べました。

 障害がある人たちの働く機会を保障するため、障害者雇用促進法に基づき、今年度から民間企業の障害者の法定雇用率が2.0から2.2%に引き上げられ、精神障害者の雇用も義務付けられました。

 国や自治体は模範となるべく、4月に民間企業より高い2.3%から2.5%に設定を引き上げましたが、中央省庁では障害者雇用の3700人もの水増しが明らかになったのです

中央省庁は民間企業ほどの努力をしてきたのか?

 ある障害者雇用関係者は今回の中央省庁の水増し問題について語りました。

「民間の企業だって、元は障害者雇用という仕組みについて完全に理解している会社はほとんどありませんでしたが、今ではその精神を理解して一生懸命努力しています。

 例えばハローワークを通しての指導。これが民間の場合にはかなり行われてきたという歴史があります。否応なしに教えられてきたため、守らざるを得なかったということもありますが、その理念を汲み取って企業の目標になったという歴史があるんです」

 そのうえで「役所の場合、同様なことを行なっていたのか、非常に疑問です」と苦言。「ハローワークがあちこちの役所に出向いて、民間の企業と同じように指導したっていう話を聞いたことはありませんからね」(前出の関係者)。

中央省庁の本格的な障害者雇用が始まった

 中央省庁で障害者雇用数が水増しされていた問題を受けて、厚生労働省が各府省庁の職員を対象に、障害について正しい知識を学ぶ講座を初めて開いたのは10月29日でした。

 東京の霞が関の厚労省の講堂で開かれた講座には、各府省庁から計約580人が参加しました。

 そして初めて同省の北條憲一雇用開発部長が「学んだことを職場に持ち帰り、障害者の応援者になって雇用を進めて欲しい」と投げかけました。

 法定雇用義務化当初から遅れること42年、ようやく中央省庁の本格的な障害者雇用が始まったところなのです。

中央省庁「障害者雇用数の水増し」驚愕の実態

障害者
※画像はイメージです(以下、同じ)
 法定雇用率のペナルティーがない行政にとっては、民間企業がどれほどの努力をしてきたかを学ぶべきでしょう。

 10月22日に公表した弁護士ら第三者による「検証委員会」の調査報告書の内容は驚愕する内容でした。水増しされていたのは28機関の3700人。このうち91人は在職歴はあるがすでに退職しており、うち少なくとも3人は死亡しているとも

 採用内定者などで在籍したことがない人も2人いました。また、7割に当たる2579人は障害者手帳の所持が確認できない上、健常者や実際の健康状態が確認できない人、対象障害者でない人だったのです。

 10年前に辞めた人や、人事担当者の見た目で精神障害者と数えたり、裸眼で0.1以下の人を視覚障害者に数えたりしている例も多数あったということで、なんとも杜撰な数合わせで、結果として国税庁1103人、国土交通省629人、法務省512人、防衛庁332人、農林水産省219人の順で不適切な計上が多くありました。

「身内の甘ったれみたいなものもあった」

 ある障害者雇用関係者はこう語ります。

「霞ヶ関の中央省庁で、厚生労働省の担当課が、各省庁の担当者を集めて説明をするという機会が初めてだったということです。身内の甘ったれみたいなものもあったような気がしますね。民間の場合にはペナルティーを科されることもあってやっているわけですよ。

 役人が来て、民間企業を律するわけですから。地方の自治体だって、多分労働局からの解説があったくらいでしょう。だから教え足りなくて、しかも真剣に聞いていないということを42年間続けてきたという話じゃないですかね」

 政府は全国の自治体で計3809.5人(短時間雇用者は0.5人と計算)の不適切な障害者雇用数の算入があったとの再調査結果を発表。

 中央省庁のみならず、牽引しなければならない行政機関で水増しが横行していた実態が鮮明になった発表でしたが、国の行政機関は半分以上が水増しだった一方で、自治体では1割以下にとどまりました。

33都道府県で不正算入。最多は山形県

 都道府県の機関別(教育委員会、市町村除く)では、33都道府県で不正算入があり、山形県の76人が最多で、愛媛県63人、島根県45.5人となっています。

 河内新報によると「山形県の障害者雇用の不足数は、民間企業であれば7900万円を超える納付金を徴収される規模だった」(10月30日)とのことです。

 民間企業の従業員が45.5人以上いる場合、法定雇用率2.2%を上回ることが求められています。従業員100人超であれば、定められた目標より1人不足すると、原則月5万円の納付金が課せられ、雇用に消極的な企業名は公開されることもあるのです。

「結局役所には障害者を雇う仕組みがなかった」

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 また別の障害者機関関係者からはこのような声も挙がっています。

「怒りますよ。ただ怒ったところで42年間も水増ししてきたのですから、今、急にどうこうという問題じゃ解決できることではありません。しっかりとやり直してほしいと思います。

 まず役所に障害者雇用の理念から勉強してもらわなければ話になりません。ノーマライゼーションっていうのは何なんだと。個人個人の障害者が自分で自立して生きていくためにはどうしたらいいんだと考えてほしいですね」

 そして、その方法として「やっぱりもっとも優れた方法は雇用による収入です」と言います。

「収入がなければ自立なんかできませんから。民間企業が障害者の雇用に協力してやっているのに、結局役所には障害者を雇うという仕組みがなかったということですね」

「知的障害者とか精神障害者は採用したくない」

 ただ一方で、ある行政機関に勤める障害者の方からは「障害者雇用は、公的機関じゃなくて民間だけでいいんじゃないかって思います」という意外な声も。

「例えば普通にバリバリ働いている人が転職して来るっていうのは問題ないのでしょうが、来るのが障害者だったら、採用する側も躊躇するんじゃないかなって思いますよ

 私の場合は民間企業で働いていたし、身体の障害もそんなに重くないので、法定雇用率が引き上げになり、障害者の人も増やさなければいけないなか、配慮しなくて良い雇用者だったので入れたのだと思います」

 その障害者は「本音としては軽度の身体障害者はいいけれども、知的障害者とか精神障害者は採用したくないという気持ちなんだろうと思います」とも言っていました。

 障害者雇用で法定雇用率を達成できなかった民間企業が支払う納付金の制度を巡り、政府は2日、小規模企業への対象拡大を見送る方針を固めました。

 努力をしてきた民間企業に対しては当然の対応ですが、行政への批判が高まっており、企業の理解を得るのは難しそうです。

 多様性を認める社会を目指し、一億総活躍社会の実現を掲げるのであれば、障害者雇用の在り方について、改めて政府は自分たちの足元から見直すべきでしょう。

<取材・文/ジャーナリスト・草薙厚子>

【草薙厚子】

ジャーナリストノンフィクション作家。元法務省東京少年鑑別所法務教官。著書に『少年A矯正2500日全記録』(文春文庫)、『ドキュメント発達障害と少年犯罪』(イースト新書)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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