「普通だったよ、ヤッてみたけど。あれぐらいの男ならそこらへんにゴリョゴリョいる」
「ん?」
「ん?」
「ん?」
「ん?」

京谷(田中圭)が呉羽(菊地凛子)とヤッちゃった! しかも、京谷の恋人・晶(新垣結衣)にバレちゃった! 晶と恒星(松田龍平)も一夜をともに過ごしちゃった! 京谷が恒星を殴っちゃった! 晶が京谷の部屋に住みつく朱里(黒木華)に会いに行っちゃった!

すっかり新垣結衣困り顔に見慣れてきた野木亜紀子脚本の水曜ドラマ『獣になれない私たち』。ダメな5人の男女の関係が複雑に絡み合いつつ、グググッと話が動いた先週放送の第4話は面白かったんだけど、日本シリーズの影響で75分も繰り下がってしまった不運。視聴率は6.7%だった。冒頭の会話は、呉羽が京谷と寝たことを晶にあっさりバラしたシーンのもの。呉羽のあっさり具合は常人じゃない。

クラフトビールの泡が意味するもの
晶と朱里のことで言い争った京谷は、帰る方向が一緒だった呉羽と一夜をともにしていた。バレたのは、京谷がスマホを呉羽の部屋に忘れたから。クラフトビールバー「5tap」に偶然居合わせた恒星を通して、スマホの所在を知った晶は呉羽のもとへ受け取りに行く。そこで呉羽が事実を告げたというわけ。

動転した晶は、恒星の事務所にやってくるなり、

「どういう人なんですか、呉羽さんって。結婚したんですよね? 金があって、新婚で。何なんですか、京谷とヤッ……。どうして? 何がどうなって……※▲□%!」

とまくしたてる。あの恒星がなだめる側にまわっているのが驚き。すぐさま、呉羽のところに向かって真相を突き止めようとするのも驚き。「ヤッた」かどうかの真相ではなく、なぜ「ヤッた」かの真相を知ろうとしていた。呉羽は晶に踏ん切りをつかせるためだと言っていたが、京谷が「いいカラダ」していたからと本音を言う。

呉羽はやっぱり獣だ。恒星も酔っ払って女性に声をかけたりはしているが、本物の獣に比べるとどう見ても普通。誘われて寝ただけという意味では、京谷と同じ「そこらへんにゴリョゴリョいる」男だ(相性は良かったらしいけど)。第1話で晶を誘って断られたとき、「バカになれたら楽なのにね」と言っていたが、実は自分も「バカ」になりきれない。ここでいう「獣」と「バカ」は類義語である。監査の仕事をしているとき、謎の告発文を見てポツリとこう漏らしていた。

「なんで人間はバカなことしちゃうかなぁ」

これこそ彼が「バカ」になれない証拠である。人間には理性を超えて行動してしまうときがあって、そういうときに善悪は関係なかったりするのだ。

長めのアバンタイトルのラストで印象的な会話があった。恒星とラーメン屋の岡持三郎(一ノ瀬ワタル)、「5tap」店主のタクラマカン斎藤(松尾貴史)がビールの泡について話していた。三郎の店ではビールに泡をたっぷり入れるが、「5tap」ではほとんど泡を入れずに飲む。斎藤によればクラフトビールの泡には雑味が多いからだ(実際には諸説ある模様)。

その後、話題は晶と京谷の関係にスライドするが、そこで登場するのが「雑味」である。

「えっ! 彼氏いるのに『恋したい』ってどういうことスか!」
「いろいろと」
「いろいろって何スか!」
「いろいろ! 余計な雑味が含まれてる」
「雑味わかんないっス!」
ググれよ」

「雑味」をググると「飲食物のなかに入りまじって、本来の味を損なう味」と書かれている(デジタル大辞泉)。呉羽のように行きずりで男と寝たりすることは、人生にとって不必要な雑味だ。恒星は要領よく必要なものだけをピックアップして雑味を取り除いた人生を送っているように見える。斎藤は恒星にあえて泡多めのインサイダーのIPAを出した。人生の雑味を恒星にも味わってもらいたいということなのだろうか。

「バカになれたら楽なのに」
晶は京谷の不貞を問い詰める。いや、問い詰めたわけではない。スマホが「5tap」でなく呉羽のところにあり、自分が取りに行ったと事実を告げただけだ。京谷の全身の血がひいていくのが画面から伝わってくる。自責の念に駆られた京谷は口を開こうとするが……。

「何にも聞いてない。呉羽さんは何も言わなかった」と言う晶の表情が凄まじい。目は見開かれ、口元には貼り付けたような笑み。仮面のようにも見えるし、サイコパスのようにも見える。新垣結衣のたしかな演技力を感じる。

で、京谷が何を言ったかというと、「今まで一度だって、一瞬だって浮気なんかしたことなかった」「晶にもう振られるかもって、もうダメかもって思ったら、どうしていいかわからなくなって」という保身のための言葉だった。浮気をしたのも他人のせい。これは晶も飛び出しますわ。

「5tap」で恒星と並んでやけ酒のようにクラフトビールをあおりつづける晶。あらためて人妻である呉羽と恋人がいるのに人妻と寝てしまった京谷の関係を振り返り、頭を抱える晶。恒星はこう吐き捨てる。

「バカだな。バカ同士。バカバカしい」

恒星が注文したのはバーレーワイン。ワイン風の高アルコールビールで、フランスのワインに嫉妬したイギリスが対抗してつくったと言われているもの。「5tap」の1周年パーティーでふたりが飲み損ねたビールだ。

「バカになれたら楽なのに。本当そうですね」

恒星にかつて言われた言葉をかみしめる晶。たっぷりとした間が心地よくもドキドキさせる。

「……バカに、なります?」

こんなこと、い、言われたい……。ふたりは恒星の部屋に行き、ラムを口にしながら距離を縮めるが、恒星が寝てしまって何も起こらず。晶は朝までラムを飲み続けたという。晶は底なし女だった……。

結局、晶も恒星も「バカ」になれなかった。「バカ」とは浮気をしまくる人のことではなく、誰かが決めた常識やルール(あるいは「呪い」のようなもの)に縛られて動きがとれなくなっている人のことを指す。

登場人物みんながセックスの話ばかりしているようだが、奔放なのは呉羽だけで、京谷は呉羽に誘われて一夜のあやまちを犯しただけ(それが致命的なのだが)。恒星は女性を誘っても何もできていないことがわかってしまった。晶はバカになれなかった自分(と恒星)にホッとしているようにも見える。

謎のツイッターアカウント「上野hatu」
さて、本日放送の第5話では、恒星がついに呉羽の夫・橘カイジのことを検索する。視聴者の間では、実際に「たちばなかいじ」と検索すると現れる「上野hatu」というツイッターアカウントが話題だ。

「上野hatu」とは晶の会社にいるダメ社員・上野発(犬飼貴丈)と同じ名前である。つぶやいている内容は完全にドラマのストーリーに沿っていて、「ゴーヤの感想待ち。一人じゃ無理だったので感謝だー!」とか言っているのだが、注目すべきはその日付。アカウントがスタートしているのは放送開始前の8月9日。これだけで誰かがドラマを見てつくったものでないことがわかる。

「上野hatu」が「ゴーヤの感想待ち」とつぶやいているのは9月14日(第4話が放送されたのは10月31日)。15日には「感想来ない」とつぶやいているのだが、この日の晶は京谷のことで振り回されて、恒星の部屋に泊まっている。17日には「困った」ともつぶやているが、今年の9月15日、16日、17日は土曜、日曜、祝日の三連休だった。19日には「苦くなかった」と言っているので、結局上野は自分でゴーヤを食べたのだろう。

気になるのは、9月29日の「スマホゲームはやってたけどPCのはあんまやってなかった。面白いのかな。はまったら楽しいのかも。たちばなかいじ」というツイート10月1日の「アパート吹き飛ばなくてよかった」という最後のツイートだ。「たちばなかいじ」が何を表しているのか? 呉羽の夫・橘カイジは会社の上場を計画しているらしいのだが、ゲームの会社なんだろうか? そして上野のアパートで何が起こるのか? ドラマファンが大好きな時系列トリックも仕込まれている可能性がある。晶と恒星のなりゆきにも注目だが、「上野hatu」にも注目だ。今夜10時から。
(大山くまお

「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト:新垣結衣松田龍平田中圭黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン
主題歌:あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中

イラスト/まつもとりえこ