アメリカの中間選挙では共和党民主党が熾烈な争いを展開したものの、トランプ政権の対中国政策に関しては党派間の対立点にはならず、基本的には超党派的に支持されているというのが現状だ。

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 トランプ政権の対中国政策の基本姿勢は、大統領選挙期間中、大統領就任後しばらくの期間、北朝鮮ミサイル危機の緊張が高まっていた時期、そして北朝鮮危機が去って以降と二転三転している。だが、現在幅広く支持されている基本姿勢は、10月4日にペンス副大統領ハドソン研究所(保守系シンクタンク)で行ったかなり密度の濃い演説の中で繰り返し強い言葉で示された「中国との戦略的対決」姿勢である。

明確に変針、「協調から対決へ」

 ペンス副大統領の上記演説以前にも、本年(2018年)1月にペンタゴンが公表した「国防戦略概要」において、アメリカの基本的国防戦略が「国際的テロとの戦いに打ち勝つ」ための戦略から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略に移行することは明言されていた。要するに、アメリカの主たる仮想敵は国際的テロリスト集団から、軍事大国すなわち中国とロシアに転換しなければならない状況に立ち至っていることが宣言されていたのである。

 その後、米中関係は悪化の一途をたどっており、経済面においてはいわゆる米中貿易戦争といわれる状況に立ち至っている。経済関係の悪化とともに、トランプ政権による南シナ海や台湾海峡を巡ての対中軍事牽制は強硬になりつつあり、軍事的な米中対決の構図すなわち米中冷戦に突入したと考えられる状況に立ち至っている。

 ただし、米中貿易戦争はアメリカ産業界にとっては好ましい話ではない。したがって、トランプ政権としても何らかの妥協を図る可能性がないわけではない。しかしながら、米中貿易戦争が沈静化したとしても、米中冷戦は、かつての米ソ冷戦のように、どちらかが軍事的に立ちゆかなくなるまで継続する可能性が高い。なんといってもアメリカ産業界の大黒柱は、自動車や個人向け電子機器などの民生部門ではなく、軍需部門である。そしてそれらの巨大資本にとっては、相手がソ連であれ中国であれ冷戦構造の継続は決して悪い話ではないのだ。

 いずれにしても、トランプ政権が主導して米中貿易戦争、そして米中冷戦を引き起こしたわけであり、まさに米中関係は「協調から対決へ」と明確に変針した。そのような政策転換を強い言葉を持って明言したのがペンス副大統領10月4日におけるスピーチであった。

日本は「競争から協調へ」

 トランプ政権が「協調から対決へ」という対中姿勢を再確認するのと前後してアメリカ軍もその方向に向かって対中圧力を(若干)強化した。南シナ海では以前から断続的に実施していた「公海航行自由原則維持のための作戦」(FONOP)を加速させるとともに、南シナ海と東シナ海ではB-52爆撃機を中国側に接近させる威嚇飛行を実施した。

 もっとも9月下旬に南シナ海で実施したFONOPに対しては、中国海軍側も強硬手段に訴え、あわや米海軍駆逐艦と中国海軍駆逐艦が衝突寸前という事態まで引き起こした。このような中国海軍による反撃に対抗するためペンス副大統領が対中強硬姿勢を示したのである。そして、米海軍はさらに強硬なFONOPを11月に実施するとの計画をメディアに漏らし、10月22日には、アメリカ海軍ミサイル巡洋艦アンティータムとミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバーが台湾海峡(台湾を中国大陸から隔てている海峡)を北上した。

 当然のことながら中国政府は、米軍艦による台湾海峡航行を中国に対する軍事的脅迫行為かつ台湾問題という中国の内政問題に対する不当な干渉と非難した。それに対してアメリカ海軍は、台湾海峡の航行は公海上を航行しただけであり、何ら中国に非難されるいわれはなく、今後もアメリカ海軍艦艇は台湾海峡を航行するであろう、と応じている。

 このように米中関係は経済面のみならず軍事的にも目に見える形で悪化し、まさにトランプ政権が名実ともにスタートさせた「協調から対決へ」という米中関係が現実のものとなった。

 その矢先に、中国を訪問した安倍首相によって、日中関係を「競争から協調へ」という方針が打ち出されたのである。中国海洋戦力との最前線に立たされているアメリカ海軍関係者の間から“同盟国”日本に対する不審の念が表明されても、不思議なことではない。

日本こそが米中冷戦の「正面」

「大国間角逐に打ち勝つ」「協調から対決へ」などの標語によって突入した米中冷戦は、純軍事的にはかつての米ソ冷戦と違って、地上戦力ではなく海洋戦力が主たる対抗戦力となる(もちろん、全ての現代戦はサイバー戦力と宇宙戦力が大きな役割を担っており、海洋戦力も陸上戦力もそれらが弱体では機能しない)。

 そのため、南シナ海や東シナ海で接近阻止態勢を固めアメリカ軍を待ち構えている中国軍と対峙するアメリカ軍の海上戦力や航空戦力、それに長射程ミサイル戦力などの海洋戦力にとって、前進拠点を提供してくれる日本やフィリピンなど同盟国の存在は極めて重要である。

 米ソ冷戦の時期においても、日本の航空基地や海軍基地は米軍にとって重要な拠点であった。しかしながら、米中冷戦におけるその重要性は、かつての米ソ冷戦の時期の比ではない。なぜならば、米ソ冷戦での「正面」は、あくまでもヨーロッパの地上戦域であり、日本周辺の西太平洋海域は、ソ連の「背面」を牽制するための存在という位置付けだったからだ(もちろん、「背面」や「側面」が重要でないというわけではなく、「正面」のほうがより重要である、という意味である)。

 ところが、米中冷戦においては、まさに日本周辺海域こそが「正面」の一角となる。アメリカ軍は日米同盟をフルに活用して、日本に存在する航空施設、港湾施設を軍用機や軍艦の出撃・補給拠点として使用するのである。

 それだけではない、中国沿岸海域や空域に接近を企てる米軍艦艇や航空機を撃破するための強力な接近阻止態勢を固めている中国軍に対して、アメリカ軍は海洋戦力に加えて地上部隊による長射程ミサイル攻撃を併用せざるを得ない状況に立ち至っている。すなわち、中国領域や中国軍機それに中国軍艦を攻撃するための対地攻撃長距離巡航ミサイル弾道ミサイル地対空ミサイル、地対艦ミサイルなどを日本列島上やフィリピン諸島上に展開させて、中国を威圧する態勢を固める必要に迫られているのだ。

 このように米中冷戦の開幕に伴い、日米同盟はアメリカ軍にとっても実質的に必要不可欠な軍事同盟となった。その流れの中で、これまでアメリカの軍事力にすがってきた日本が日中関係を「競争から協調へ」と転換しようというのである。安倍政権にはさぞかしアメリカ側には思いつかないような深慮遠謀があるに違いない。

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