米アマゾン・ドットコムが昨年(2017年)公表した第2本社建設計画について、このほど米メディアは、2つの都市に分けて設置する方向で計画が進んでいると報じた。

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 その背景には、人材確保と、地域への影響の軽減という狙いがあると見られている。

「シアトル本社と同等のもう1つの本社」

 同社は昨年、米ワシントン州シアトルの本社を残しながら、新たに同規模のもう1つの本社「HQ2」をシアトル以外の都市に建設すると発表した。拡大し続ける同社に対し、シアトルという都市が手狭になったというのがその理由だ。

 そして昨年9月、第2本社の候補地を公募したが、これに238の自治体が名乗りを上げた。アマゾンは、今年1月、その候補地を米国とカナダ20都市に絞った

 2010年に移転した現在のシアトル本社には、その周辺の施設も含め、合計33棟のビルがある。これらの総面積は810万平方フィート(約75万2500平方メートル)と、東京ドーム16個分。その昨年までの7年間の設備投資額は、37億ドル(約4200億円)。

 同期間に従業員に支払った報酬総額は257億ドル(約2兆9300億円)。そして、地域経済にもたらした間接投資額は380億ドル(約4兆3300億円)に上る。

 北米の自治体は、こうした経済効果に期待し、こぞって誘致合戦に参加したというわけだ。

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2都市分割は、人材確保で有利に

 しかし、米ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンの幹部は、その選定過程で、第2本社を2つの都市に分割して設けることには、大きなメリットがある、という考えに至った。

 テクノロジー分野の人材を多く集めるためには、複数の拠点を持つことが有利だからという。

 失業率が歴史的低水準で推移している米国では、労働市場の競争が激化している。今や、ソフトウエアエンジニア、コンピュータプログラマー、AI(人工知能)の専門家などを雇い入れたいと考えるのは、アマゾンのようなテクノロジー企業だけでなく、自動車、金融、小売りなどのあらゆる業種。

 本社機能を持つ拠点を複数設けることでアマゾンは、より広範な地域から優秀な人材を集められる。中には、地元から遠くに離れて住みたくないという技術者もいるが、同社はそうした人々も雇える可能性がある。さらに、1つの地域でライバル企業と激しい人材獲得競争をしなくて済むというメリットもあるという。

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都市への影響軽減もアマゾンの狙い、ただし経済効果は半減

 ウォールストリート・ジャーナルは、これ以外にも地域への影響の軽減というメリットがあると伝えている。当初の計画では、アマゾンは1カ所の第2本社で、5万人の高賃金社員を雇用するとしていた。これに伴いその都市では、不動産価格の高騰、都市交通網、公共・商業施設の利便性低下といった悪影響が起こる恐れがある。アマゾンはこうした事態を避けるため、その都市で最大の企業にはなりたくないと考えていると、同紙は伝えている。

 同紙によると、新たな計画では、第2本社を2都市に分け、それぞれで2万5000人を雇用する。

 また米ニューヨーク・タイムズは、現在有力視されている2都市とは、首都ワシントン近郊のバージニア州クリスタルシティーと、ニューヨークロングアイランドシティーだと伝えている。

 アマゾンの当初の計画では、1カ所の第2本社に、向こう20年間で50億ドル(約5600億円)を投資するというものだった。5万人という従業員数は、シアトル本社の4万5000人を上回る規模である。

 つまり、候補地に名乗りを上げた自治体にとって、これらの魅力が半減することになる。ウォールストリート・ジャーナルによると、ある専門家は「自治体は、たとえ誘致を勝ち取ったとしても、勝利宣言はできないだろう」と話している。「それは事実上、シアトル本社と同等の“本社”ではなく、単に、支社やバックオフィスといったものになるだろう」と、この人物は指摘している。

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