日本のメディアではハロウィーンほどの大きな扱いは受けないが、10月31日の世界の主要ニュースの一つは、世界銀行グループが発表するビジネス環境ランキングだ。

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 とりわけロシアでは関心が高く、今回は31位に上昇したため大きく取り上げられた。

2020年までに20位以内目指す

 今年の順位が特に注目された理由に、ウラジーミル・プーチン氏が2012年に大統領に返り咲いた際に出した「5月令」として知られる大統領令の存在がある。

(今年5月、4期目再登板時に提示された「5月令」については前回のコラムでも触れた)

 2012年5月7日大統領就任日に、プーチン氏は大統領令「長期的国家経済政策について」にて2012年から2020年までの経済政策の指針を提示した。

 その中で重要課題として掲げられたのは、ロシアの投資環境改善であった。

 ビジネス環境改善努力の目安として、世界銀行のビジネス環境ランキングにおけるロシアの順位を上昇させることが提示された。

 具体的には、2018年までにトップ20位以内へ引き上げるとの目標を示した。

 5月令発表当時、ロシアの同ランキングは120位であり、段階的に、2015年までには50位、そして2018年にトップ20位入りを果たすという目標が示された。

 世界銀行のビジネス環境ランキングとは何か――。

 世界銀行が毎年発表する「Doing Business(ビジネス環境の現状)」とは、世界190カ国を対象に企業の設立や経営に関するビジネス環境に係る10分野について、国内の中小企業が国内最大の経済規模を持つ都市において事業活動を行う際のシナリオを設定し、「事業活動のしやすさ」を比較する報告書である。

 評価される10分野は、起業(事業設立)、建設許可、電力事情、不動産登記、信用供与(資金調達)、投資家保護、納税、輸出入(貿易)、契約執行、破綻処理である。

 それぞれにランクづけがなされ、総合順位が算出される。

着実にランクアップを続けるロシア

 都市については、ロシアの場合はモスクワサンクトペテルブルクでの状況がモニタリングされる(日本の場合は東京と大阪)。

 このプロジェクトが開始された2003年版は186か国が対象となっていたが、2014年からは対象国も190へと拡大し、測定基準も改定された。

 表1と表2は、それぞれロシア総合ランキングと分野別ランキングの推移を示したものである。

 ご覧のとおり、ロシアは目標の20位には及ばなかったが、様々な投資環境改善策が進められた結果、着実にランクアップを実現している。

表1:ロシアの順位の推移(20092018

表2:ロシアの分野別ランキングの推移

 世界銀行によると、今年のランキングについては、ロシアにおける諸改革の中でも、建設認可の取得プロセスが改善されたことが特に評価されたという。

 手続きの数、時間(日数)、コストで測定される建設許可分野であるが、この1年の間に13日ほど時間が短縮されたこともあり、昨年の115位から48位へ上昇した。

 手続き上の問題については、文書の多くが電子化されるなどの改革が進み、7日で建設許可取得が可能になり、コストと時間的な負担が改善した。

不動産登記と電力事情に強み

 10分野の中で、ロシアに比較的強みがある項目は、不動産登記(12位)と電力事情(12位)である。

 その一方で、弱い項目として指摘されるのは、貿易(99位)と少数投資家保護(57位)である。

 実際、今回トップ20位以内に入れた分野は、(1)電力事情(12位)と(2)不動産登記(12位)と(3)契約執行(18位)の3項目であった。

 遅れているのが破綻処理(55位)と少数投資家保護(57位)の2分野である。

 つまり、ロシアにおいて、手続きの数や時間で評価される項目よりも、制度内容によって評価される項目の方が、改善が難しい現状を表している。

 少数投資家保護の項目は、コーポレートガバナンスの改善につながる測定項目から成っている。

 ロシアについては、取締役の責任(Extent of director liability index)において、10点満点のうち2点と、特に低い数字となっている。

表3:トップ10 & 日本 & BRICs

 今回、ロシアのメディアでは「20位という目標を達成できず」といった見出しの報道が目立った。

 他の旧ソ連諸国では、多くの投資環境改善策を講じたジョージアがトップ10入りしたほか、行政手続きの効率化を図ったアゼルバイジャン(25位)とカザフスタン(28位)がロシアより上位となった。

 BRICsの中でも、中国とインドの順位上昇が今年は注目されたが、ロシアが上位につけている。

フランス32位、スイス38位、日本は39位

 同時に、31位という結果は、フランス(32位)やスイス(38位)よりも高いし、表3に示すように、日本(39位)よりも高い。

 参考までに、日本が2016年に立てた政府目標は、2020年までに先進国中3位を目指すというものだった。

 ロシア政府は今回の結果に満足しているようだ。

 マキシム・オレーシキン経済発展大臣は「120位代からスタートしたことを考えれば、31位という結果は20位という目標から程遠いものでは決してない」と述べている。

 さらに、改革は現在進行中で、昨年から実施されているものが時期的に今年のランキングには反映されなかっただけで、それらが反映されていれば順位はもっと高かっただろうとの見解を示した。

 経済担当のアンドレイ・ベロウーソフ大統領補佐官も、2012年からの6年間で実現した投資環境改善の結果は素晴らしいものだ、と評価している。

 この世界銀行のビジネス環境ランキングそのものについては、算出の仕方など留意したうえで参照する必要があることは確かで、指標やその評価方法を含めて批判は常に存在する。

 ちなみに、今年のノーベル経済学賞ウィリアムノードハウス氏とともに受賞したポール・ローマー氏は、世界銀行在任中に発した指標に対するコメントがきっかけの一つとなり、今年1月に世界銀行のチーフエコノミストの職を辞したことは記憶に新しい。

 英エコノミスト誌は、影響力があるからこそ批判があるわけで、重要なリポートであることには変わりはない、といった論調を今年の報告書発行のタイミングで示した。

 ロシアの現状を理解することに関していえば、このランキングは、各年の推移や他国との比較がロシアのビジネス環境改善策の動向を把握する手助けになる。

 また、ロシアでも注目度の高いこのランキングをはじめ、その他の各種ランキング(例えば世界経済フォーラム=WEFの世界競争力ランキングなど)とも照らし合わせれば、より参考になるのではないかと考えている。

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出典http://www.doingbusiness.org/