柏崎「娘にとっては、芥川賞より『Pipin』のほうが価値があるんだ。笑えるだろ」

11月1日(木)深夜放送のドラマ『プリティが多すぎる』(日本テレビ系第3話
カワイイ”を追い求める原宿系ファッション誌『Pipin』の編集部に配属された元文芸編集者・新見(千葉雄大)は、この雑誌に価値を見いだせないでいた。

『Pipin』に価値を感じられないは、新見の元上司であり文芸部編集長の柏崎(杉本哲太)も同じ。
「中身のないこどもだましの記事の羅列」
「文化的意義ゼロのこのくだらない雑誌」
ならば、どうして新見を『Pipin』の編集部に異動させたのだろう。新見はまた“カワイイ”の森に迷い込んでいく。

カワイイものと不本意な異動。過去に縛られる新見
なぜ新見が文芸編集部に執着し、『Pipin』に一生懸命になれないのか。その理由がまたひとつ明かされた3話。
新見は、過去にプロサッカー選手の道をケガで閉ざされるという挫折を経験していた。そのときに、自分を救ってくれたのが本や物語だったのだ。

新見「自分が感じたことのない思いも、経験したことがないできごとも、本の中に入ればすべてが手に入る。本は人生そのものだって。だから僕は、文芸編集者でありたいんです……」

文芸編集という仕事への執着の裏には、自分を救ってくれた本との出会いという原体験があったのだ。何かに救われた経験がある新見が、『Pipin』に救われている読者たちの気持ちを想像してあげられないのが不思議。
でも、それにも理由がある。1話で、幼い頃に「カワイイ」とか「女みたい」とからかわれる新見の姿が描かれていた。カワイイものに抵抗を感じるようになってしまった。

カワイイものは屈辱で、不本意な異動も屈辱で。新見は過去の経験に縛られて、『Pipin』に心を開けなくなっている。元上司・柏崎の娘が『Pipin』のおかげで日々をイキイキと過ごせているという話を聞き、ようやく自分と読者たちの共通項に気づいた。

カワイイ”と仕事という、新見からしたらかけ離れた視点。その双方のアプローチを受けて、過去に縛られた新見が少しずつアップデートされていく。それは単純な成長というよりも、欠けていたピースをちょっとずつ集めていく、ゲームのレベルアップのような面白さだ。
いま嫌々やっている仕事があっても、新見を見ていると「別の視点から考えてみれば、面白く感じるかも」と考えてみたくなる。

カワイイ”は武装。だから“ありのまま”にも共感する
キヨラ(長井短)とライム(北澤優駿)が別れてしまい、失敗しかけたカップルデート密着企画。一度は無理矢理仲良しカップルを演じさせようとした新見だったが、読者が本当に読みたいものを改めて考えた。

新見「みんなが見たいのは、嘘がない自然体のキヨラ。キヨラも失恋する、それでいい。キヨラも自分たちと一緒で傷つきながら生きてるんだって思えれば、読者は安心する。だから今回は、キヨラがどう乗り越えられるのかってことで、もう一度撮り直させてほしい。お願いします」

自分と近い読者モデルたちの、傷ついたことやつらい過去を含めたありのままの姿を見たい。そんな読者の思いを誌面に載せ、世の中を驚かせた雑誌『小悪魔ageha』を思い出す。

小悪魔ageha』も、『Pipin』と方向は違えど女の子たちの“カワイイ”を追求している雑誌だ。2008年6月号に掲載された特集は「私たちの破壊と創造 私たちは人間だから病んでいる──age嬢24人の心の奥のほんの少しの本当の物語。」だった。
表紙には、「病んだっていいじゃん」という潔いコピー。誌面では、人気の専属モデルや読者モデルたちが、自分の抱えたつらい過去について語った。

「寝る寝る寝る…そんでお金だけ減ってく。あたしのひきこもり時代。」
「あたし裏切られてる? 裏切られてたとしても認めない。認めたら、あたしが壊れちゃうから。」
「死んだら楽になれる。だから死にたい。」

荒木さやか、桜井莉菜、武藤静香……読者にとっては憧れのそうそうたるモデルたちが、自分の「病み」時代を明かしている。普段はメイク特集や巻き髪特集など、自分をカワイく見せるテクニックを楽しみにしている読者たち。それとまったく毛色の違う「病み」特集が共感を集め、『小悪魔ageha』の信頼度をさらに高めた。

小悪魔ageha』の元編集長・中條寿子は、インタビューでこう語っている。

〈女の子が好きなものや共感できる事を載せるというのが基本なんですが、「病み」に関しても女の子として生きていれば誰もが通ってくる道ですし、人間だから病むのは当然。だから、病んでいるのはあなただけじゃないんだよって言う事をみんなで分かり合いたかったんです。〉
「小悪魔ageha」編集長にインタビュー、世の中には「かわいい」か「かわいくない」の2つしか無い/GigaZiNE

自分のための“カワイイ”を突き詰める『Pipin』や『小悪魔ageha』のような雑誌。男受けを狙わないというのは、ある意味スタンダードから外れることになる。王道に迎合できず、後ろ指をさされたり理解者がいなかったりという悩みを抱える。そんな悩みへの共感は、カワイイままで生きていくための支えになる。

自分のためにカワイく着飾ることを「武装」と呼ぶ女の子たちがいる。傷つくことやつらい悩みに負けないために、人生を楽しくするために、“カワイイ”を突き詰めて自分を守り戦っていく。
10月に刊行された書籍『だから私はメイクする 悪友たちの美意識調査』(劇団雌猫/柏書房)には、そんな戦う女性たちのエッセイやインタビューが生々しくもイキイキと綴られている。興味ないかもしれないけど、新見にも読んでみてほしい。

コンプレックスや悩み、つらい過去を払拭するための“カワイイ”と仕事。違う方向から同じゴールを見ている『Pipin』と新見は、きっともっとわかり合えるはずだ。

11月8日(木)深夜放送の第4話には、Pipinモデルの候補として武田玲奈が出演する。自分に自信のない女の子がスターになるストーリーをどう描くのか、楽しみだ。

(むらたえりか

▽配信サイト
Hulu

ドラマ『プリティが多すぎる』(全10話)
日本テレビ系 10月18日(木)スタート 毎週木曜24時59分〜
出演:千葉雄大、佐津川愛美、小林きな子、矢島舞美、池端レイナ、黒羽麻璃央、長井短、森山あすか、中尾明慶、堀内敬子、杉本哲太
原作:大崎梢『プリティが多すぎる』(文春文庫)
脚本:荒井修子、渡邉真子
音楽:西口悠二、Chocoholic
ドラマ「プリティが多すぎる」オリジナル・サウンドトラック
制作:千野成子、 池田健司
プロデューサー:小田玲奈、松永洋一(R.I.S Enterprise)、森有紗
演出:久保田充ほか
制作プロダクション:R.I.S Enterprise
(c)日本テレビ
公式サイト:http//www.ntv.co.jp/pretty/

イラスト/まつもとりえこ