なぜストーカーによる事件は後を絶たないのか。ストーカー対策のNPO法人を運営し、これまで500人以上のストーカー加害者に向き合ってきた小早川明子氏は、「取り締まるだけではストーカー行為はなくならない。刑罰を恐れない加害者には治療が必要だ」と言い切る。ストーカーは犯罪であるだけではなく、「やめたくてもやめられない」という“疾患”だからだ――。(後編、全2回)

■「有能なビジネスパーソン」も多い

――ストーカーになる人の特徴はありますか?

執着心が強く、行動力があって「駆動力(刺激に対する反応の早さ)が高い」。頭がいい人も多いです。こうした力が仕事に向けられると、高い成果を挙げられますから、有能なビジネスパーソンなども珍しくありません。男女は関係ありません。

――小早川さんのケースのように、恋愛関係が発端ではないこともあります。

恋愛関係にあった人が加害者になるケースはもちろん多いですが、親子、上司部下、ご近所、医師と患者など、さまざまな関係で起きています。会ったこともない、SNSたまたま見た人に対して、一方的に執着して、すべてを知りたくなってストーカー行為をしてしまう。ブログの中で幸せそうな様子をしているのをたまたま見て、面識はないけれど嫉妬から攻撃してしまうというストーカーもいました。

――ストーカー被害にあわないようにする方法はありますか?

難しいですね。ストーカーになる人というのは、スイッチが入らなければ普通ですし、被害者はたまたま地雷を踏んでしまったようなもの。出会った相手がストーカーになる素質を持っていれば数カ月で問題が生じ、別れようとすればストーカー化してしまう。「こうしたら被害にあわない」というものは少なく、誰もが被害者になりえます。強いて言えば、顔の見えないSNSでの関係は深まる前に用心してほしいし、交際中に圧迫を感じたらすぐに別れる決断をしてほしいです。別れる決断をしたら計画を立てて慎重に実行します。それでも、別れた相手がストーカーになるのを防げないことはあります。

■8割は警察からの警告でやめられるレベル

――そうすると、ストーカー被害をなくすためには、加害者側に働きかけるしか手がないのでしょうか。ストーカーの加害者に対しては、どのように働きかけているのですか?

まずはこちらから連絡して、被害者が困っていることを伝え、直接の接触は避けてほしいと頼みます。その上で、言い分を聞きます。多くのストーカーは被害者意識を持っており、言い分は数えきれないほどあります。「一方的に別れられた」「約束違反だ」「誠意がない」「人として間違っている」「向き合っていない」「責任をとれ」などは、まるでストーカーの共通言語のように、耳にしないことはないくらいです。

言い分を聞きながら、私は次の3つのこと、「相手にはあなたを嫌う自由がある」「自分の感情の処理は自分でしなければいけない」「違法行為は絶対にしてはいけない」を手放さないで対話します。私流の鉄則です。初めは激しく対立しますが、この3つの常識(だと私は考えます)を受け入れることができれば、たいていの言い分は意味をなさなくなり、消えていきます。例えば、交際中に「浮気された」「バカにされた」「束縛や監視をされていた」などと、交際中のことを問題視するストーカーは少なくありませんが、それが事実がどうかよりも、そういう人と別れずにいた責任は自分にあることの問題性に目を向けさせます。「相手に金をだましとられた」「婚約不履行だ」などと、被害者の不法行為で損害を受けたという主張については、弁護士のところに連れて行って相談させることもあります。

こうして言い分をひとつひとつ消していくと、大半のストーカーは「相手は自分のために生きているわけではない、自分には相手に反省や変化を要求する権利はない」ことを理解して、ストーカー行為をやめるようになります。全体の8割くらいでしょうか。こういう「分かれば止められる」ストーカーは、おそらく警察から警告を受ければストーカー行為をやめられる人たちです。私はこれらの人たちを、相手に関心を持ちすぎるという点で、健康ではない=病態レベルストーカーだと呼んでいます。

――それでもストーカー行為をやめない人は?

こういった理性に働きかける対話(カウンセリング)をしても止められない人がいます。彼らの相手に対する接近欲求は格段に高く、思考が引きずられて欲求を正当化してしまうため、接近すべきでないと「分かることができない」、たとえ「分かったとしても、やめられない」ストーカーです。行為をエスカレートさせ、相手を傷つけて傷害罪などで服役した後も、また同じことを繰り返すことがある。以前はこうした加害者に出会うと、被害者を傷つけることがないよう、見張ることしかできませんでした。解決策(治療法)がなかったのです。

その治療法が、2013年の秋に、やっと見つかりました。千葉市の下総精神医療センターの薬物依存治療部長、平井愼二医師から声をかけていただき、カウンセリングだけでは治らないストーカーは行動制御ができない障害、つまり疾患であることを指摘されたのです。先生は「条件反射制御法」という治療法の開発者で、ストーカーも治すことができると提案してくれました。

※初出時、「条件反射抑制療法」としていましたが、正しくは「条件反射制御法」でした。訂正します。(11月12日11時15分追記)

カウンセリングと治療は異なります。カウンセリングは、意識(心境)にアプローチし、相手も自分も不足しているところがある、許しあおうという心境に立つところを目指しますが、治療は、無意識の脳の働きそのものにアプローチし、不足しているところを治すのが目的です。病態レベルを超えた、ブレーキ(行動制御能力)に障害があるストーカー=疾患レベルストーカーも治療可能になるという出口が見えたのです。

■画期的な「条件反射制御法」

――どういった治療法ですか?

これはもともと、薬物やアルコールなどの物質使用障害(摂取をやめられない障害)の患者に対する治療法です。

薬物でもアルコールでも、使用障害に陥った人は、自分では摂取する行動をコントロールできません。ちょうど梅干しを思い浮かべるだけでよだれが出てしまうのと同じで、手が伸びてしまうのです。ストーカーの場合も、相手のことを思うだけで、衝動的に会いに行きたくなってしまう。刺激と欲求の入出力、この反射連鎖が定型化すると連鎖の中断時に非常な苦しみに見舞われます。会いたくて仕方ないのに会えない摩擦は、ストーカーが抱えている大きな苦しみです。条件反射制御法は、脳トレによって定型化した条件反射を外します。欲求が低減するので行動制御が可能となるのです。

警察庁が国内外に向けて行ったストーカーに対する精神医学的・心理学アプローチの調査研究を見ても、ストーカーへの治療的アプローチはカウンセリング、怒りの感情をコントロールするためのアンガーマネジメント、感覚とイメージに働きかけるマインドフルネスなどの精神療法であり、確たる「治療法」は私の目には見当たりませんでした。

ストーカーの中には心理に関心がある人も少なくなく、自分でカウンセリングに通っていたり、マインドフルネスを被害者に勧めていたりするのを見ると、それらが決定的な効果があるとは思えませんでした。実際、私もやってきましたが、それでもストーカーをやめられない人はいる。そんな中で、条件反射制御法は世界に先駆けてストーカーを治す、まさに画期的な「治療」法だと思います。

平井医師のもとで入院治療を受けた元ストーカーの治り方は、カウンセリングで回復した人とは驚くほど違います。カウンセリングで回復した人は、「もう付きまとわないと決めました」「自分の感情をコントロールします」など決意を表明するのですが、治療を受けて治ったストーカーは「そういえば、そんな人もいたなあ、というくらいに関心が減りました」とか、「会いたいとは思わないですね」「怒りは消えました」と言うので、本当に驚きました。私が下総精神医療センターへの入院までつなげたストーカーは20名ほどですが、彼らのほとんどは、相手のことで頭がいっぱいになり、仕事や学校をやめていました。ところが治療を完了すると、被害者への関心と接近欲求が低減し、自然に思考のゆがみも正されて、13週間の入院と退院後の自宅での維持作業を継続している人は、全員、就職・復学できています。

■被害者の代わりになって話を聞く

――ストーカーの多くは、カウンセリングによって思考のゆがみを正していけば、ストーカー行為をやめられる。そして残りの、やめられないストーカーも、条件反射制御法という治療でほぼ治療できる。ストーカー規制法などで取り締まるだけでなく、こうした治療を受けさせることでストーカー行為をやめさせたり、再犯を防いだりできると。

それはそうなのですが、現状ではストーカー対策は取り締まりだけに頼っており、治療につなげるのが非常に難しいのです。警察庁2016年から警告を受けたストーカーに対して医師への情報提供を勧め、治療への道筋をつける試みを始めていますが、多くは治療につながらないのが現状です。私のところでも、ストーカー行為をしている本人に、ストレートに「カウンセリングを受けなさい」「治療を受けなさい」と言っても、まず受け入れてもらえません。もともと、自分は間違ってはいないと信じ込んでいる人たちです。ましてや警察から、「あなたは病気かもしれないから精神科医に診てもらうべきかもしれない」と言われて、素直に行く人はまれでしょう。

実は、私とのやり取りもストーカーはカウンセリングとは思っていないのです。私はストーカーたちが執着している対象である「被害者のカウンセラー」であり、そのカウンセラーには関心が持てる、だから対話が始まるのです。関係は私と被害者の関係が切れても続きます。2カ月、3カ月、半年とやっているうちに、被害者を追いかける意識・姿勢が、自分自身の内面をサーチする意識・姿勢へと転換していくのです。

■ストーカーをやめさせるには治療が必要

――警告したり、罰したりするだけでは、本当の解決にならないのですね。

そこが問題です。2000年に、ストーカー規制法ができたのは本当によかったですが、相談や対応する機関が警察しかないというのは、やはり不十分だと思います。

ストーカーには「犯罪性」と「疾患性」という、2つの側面があります。ストーカー規制法という法律ができて警告や処罰ができるようになりましたが、「疾患性」という側面はまだ十分には理解されていません。ストーカー対策のゴールは、加害者が無害になることだと私は考えています。ストーカーは、被害者への過剰な関心を持ち続けるという病態であり、それをやめたくてもやめられない場合は疾患です。無害になるとは止められるようになることで、そのためには治療が必要です。

重要な課題は、どうやって治療に結び付けるか、どういった治療に結びつけるのかの2つだと思います。治療命令が出せない日本の司法においては、ストーカー規制法の警告が出た段階で、都道府県公安委員会が認定するカウンセラーが、警告を受けた者と面談することを義務付ける法改正や条例を作ることができないかと考えています。警告を受けただけでは心理的な危険度が下がらない加害者が多く、危険度を把握でき、感情の処理、立ち直りのサポート、医療に導入する会話ができるのは警察官ではないと思うからです。

――警察が、治療のための相談窓口にはなりえない?

本当は警告を受ける前に、加害者やその家族が相談できる場所があると良いのです。加害者側は取り締まりを行う機関には、なかなか相談には行けません。取り締まり機関と医療機関の連携、役割分担が必要だと思います。例えば、薬物依存症の問題は保健所に相談窓口がありますし、児童虐待は児童相談所、DV(ドメスティックバイオレンス)は配偶者暴力相談支援センターなどがあります。そうした専門窓口がストーカーに関してはありません。ストーカー行為がエスカレートする前にカウンセリングと医療機関の情報を得るだけでも道が開けてくるでしょう。

被害者を傷付けたくなるほどストーカー行為がエスカレートする前の、初期の段階で、被害者だけでなく加害者も相談できる仕組みを作るべきなのです。エスカレートする前であれば、カウンセリングなどで対処できます。

■加害者の親や周囲は一人で抱え込まない

――ストーカーの加害者が、自分から相談に行くことは少ないと思いますが、周りの人が気付くことはありますね。

親が、「息子/娘がストーカー行為をしているのではないか」と気付くことはよくあります。警察に相談には行きにくいかもしれませんが、多くの警察は医療機関と連携しているので、どの病院に行ったらいいか、情報を教えてくれるはずです。法テラスでも情報を得られると思います。医療機関やカウンセラーのところに連れていくのもいいですが、本人が抵抗するでしょうから難しいかもしれません。本人に影響力を持つ人に相談して、カウンセリングに行くよう説得してもらうとよいでしょう。

また、ストーカーは、自分が被害者だと思っていることが多いので、「それなら一度弁護士のところに相談に行こう」と言って、弁護士に相談しに行くのもいいでしょう。対応の過程で、治療を受けるよう話してくれる弁護士もいます。弁護士会でも最近はストーカー問題に熱心に取り組んでくれています。

――もしストーカーの被害にあった場合は、どうしたらいいでしょうか。

とにかく一人で抱え込まないことです。警察や法テラス自治体のDV相談窓口などに相談してください。被害者は、「自分が悪かったからではないか」と自分を責める人も多いですが、そんなことはありません。過去がどうであれ、違法行為の被害者にならなくてはならない道理はありません。

----------

小早川明子(こばやかわ・あきこ)
NPO法人「NPOヒューマニティ」理事長
1959年生まれ、中央大学文学部卒業。ストーカー問題、DVなど、あらゆるハラスメント相談に対処している。1999年に活動を始めて以来、500人以上のストーキング加害者と向き合い、カウンセリングを行う。著書に『「ストーカー」は何を考えているか』(新潮新書)、『ストーカー -「普通の人」がなぜ豹変するのか』(中公新書ラクレ)など。

----------

小早川明子氏