ローカル線の運営会社というイメージがある「第三セクター鉄道」ですが、実際は比較的新しい都市部の通勤鉄道なども第三セクターが運営しています。この経営方式が地方から都市まで普及したのはなぜなのでしょうか。

国鉄ローカル線「引き継ぎ」で多数出現

鉄道関係のニュースを見ていると、ときどき第三セクター鉄道」という言葉が登場します。この字面だけではどのような鉄道なのか分かりませんが、多くの人は「ローカル線の運営会社」というイメージを持っているのではないでしょうか。

実際、第三セクター鉄道とされる鉄道会社は約80社ありますが、このうちローカル線の運営会社が半数程度を占めています。NHK朝の連続テレビ小説あまちゃん」の舞台のひとつとして有名になった三陸鉄道岩手県)も、三陸海岸沿いのローカル線を運営している第三セクター鉄道です。

『大辞泉』(小学館)によると、第三セクターは「国や地方公共団体(第一セクター)と民間企業(第二セクター)の共同出資によって設立される事業体」。「公営」「民営」のどちらでもない「第三の経営方式」を採用した半官半民会社で、その会社が運営する鉄道のことを「第三セクター鉄道」と呼びます。

ローカル線の運営会社に第三セクターが多いのは、国鉄の経営悪化を受けて1980(昭和55)年に公布された、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(国鉄再建法)が引き金になったといえます。この法律では利用者の少ない国鉄ローカル線を対象に、鉄道の代わりにバスに転換するか、あるいは鉄道は維持するものの国鉄以外の事業者に引き継がせるものとしました。

これにより国鉄ローカル線の83線が転換対象となり、このうち38線は鉄道存続の道を選択。青森県内の2線を除く36線は、沿線自治体と民間企業などが出資する第三セクターが新たに設立され、1984(昭和59)年から1990(平成2)年にかけて国鉄(1987年4月以降はJR)から経営を引き継ぎました。この時期に第三セクターの鉄道会社が多数設立されたため、第三セクター鉄道=ローカル線というイメージがついたといえるでしょう。

都市の通勤鉄道も「半官半民」

しかし、第三セクター鉄道はローカル線だけではありません。比較的新しい大都市の通勤鉄道(りんかい線など)やモノレール多摩モノレールなど)、臨海工業地帯を通る貨物線(京葉臨海鉄道など)の運営会社も第三セクターが多いといえます。

都市鉄道からローカル線まで第三セクター方式の運営が広がったのはなぜなのでしょうか。簡単にいえば「公」と「民」、それぞれのメリットを鉄道の整備と運営で生かしやすかったためです。

都市部は人口が密集していて土地に余裕がなく、鉄道の建設には膨大な費用と時間がかかります。財政規模が大きい国や自治体でないと、建設費を調達するのは困難です。すでに整備済みのローカル線を引き継ぐにしても、利用者が少ない赤字経営の路線なら民間企業が単独で手を挙げるはずもなく、自治体のような公的な機関が運営し、赤字は税金で穴埋めするしかありません。

しかし、公的機関は民間企業に比べて「効率的な経営ノウハウ」を持っていないこともあり、かえって赤字を拡大させてしまう場合もあります。それに自治体が鉄道を直接運営するなら、基本的には議会での議論と議決が必要で、効率的な経営手法を導入するにも時間がかかるのです。

こうして考えられたのが第三セクターによる運営でした。地方自治体が出資している第三セクターなら「公共性が高い企業」になりますから、鉄道新線の建設費やローカル線の運営費などに対する補助金を税金から出しやすくなります。

その一方、第三セクターに出資している民間企業から経営ノウハウを教えてもらえば、効率的に運営することも可能です。第三セクターは自治体から独立した企業として設立されますから、ある程度は議会での議論や議決に縛られることなく、効率的な経営手法をスピーディーに導入できるといったメリットもあります。

都市とローカル、将来の「可能性」には違いが

メリットだけでなくデメリットもあります。第三セクター地方自治体から民間企業まで出資しており、責任の所在が「公」にあるのか「民」にあるのか曖昧になりがち。そのため事業の見通しが甘くなったり、あるいは改善が必要な部分が放置されるなどして、経営をさらに悪化させてしまうこともあります。

もっとも、都市部の第三セクター鉄道は利用者がひじょうに多く、運賃収入も大きいという恵まれた環境にあります。仮に第三セクターのデメリットが原因で経営が悪化したとしても、再建できる可能性は高いといえるでしょう。

これに対してローカル線を運営する第三セクター鉄道の場合、経営の立て直しは厳しいものがあります。ローカル線の多くは沿線人口の減少に歯止めがかかっておらず、利用者や運賃収入も減り続けているためです。

会社運営を改善して経費を抑えても、収入が減り続ければ意味がありません。実際、北海道ちほく高原鉄道や神岡鉄道(富山県岐阜県)など一部の第三セクター鉄道は国鉄時代に比べ運営コストの削減を図っていましたが、それでも利用者の少なさに耐えられず廃止されています。

近年は自治体が線路や車両を保有して民間企業に無償で貸し付ける「公有民営方式」を導入し、ローカル線の経営改善を図る動きも増えてきました。しかし、この方式も利用者や収入が減り続ける限り、いずれ維持できなくなります。ローカル線の場合は運営方式をどうするかより、沿線人口を増やせるかどうかの方が大きな鍵といえるでしょう。

ちなみに、国際的には半官半民の組織ではなく民間の非営利団体(NPO)が英語で「the third sector」(日本語に直訳すると「第三セクター」)と呼ばれています。2017年に神岡鉄道のディーゼルカーを動態復元して走らせているのは地元のNPO法人ですが、このNPOも国際的な定義に従えば「第三セクター保存鉄道」といえるかもしれません。

【写真】10年ぶり復活! 神岡鉄道の車両

第三セクターが運営する鉄道路線はローカル線が多い。写真は国鉄ローカル線を引き継いだ岩手県の第三セクター・三陸鉄道(2016年10月、恵 知仁撮影)。