英ロンドンに留学中のタレント・ウエンツ瑛士さん。米ブロードウェイと並ぶミュージカルの本場ウエストエンドの舞台に立つ夢をかなえるため、10月から日本を離れました。バラエティーなどに引っ張りだこの中、退路を断っての大決断。芸能界に衝撃が走りました。

 最近、多くの俳優が現在の活動に「行き詰まり」を感じ、さらには「海外」に目を向けるケースが増えてきました。そこには、どんな背景があるのか、さらには俳優界の今後の展望も見ていきたいと思います。

小栗旬三浦春馬福士蒼汰佐藤健

 9月25日の「火曜サプライズ」(日本テレビ系)で、ウエンツさんと対談したのが小栗旬さん。ウエンツさんに「なんで良い時期にそんなこと(留学)するの?」と疑問を投げかける一方、自身も俳優としての現在地を述懐。「このまま俺、日本にいてもこれ以上、上がることもそんなにない」「ゆっくり下って行く時間をどう急降下せずにつなぎとめておけるか」などと語りました。

 小栗さんに関しては、来年をめどにハリウッドデビューを目指すという一部報道もなされています。

 同じく9月25日深夜、三浦春馬さんが「有田哲平の夢なら醒めないで」(TBS系)に出演。渡辺謙さんや大沢たかおさんがこの7月、ウエストエンドの舞台「王様と私」で共演した話題を挙げながら、「海外の土壌を視野に仕事をしていきたいと思っている」と野望を明かしました。

 彼らの悩みは尽きません。福士蒼汰さんも、自身の現状に危機感を抱いている一人です。10月19日の「アナザースカイ」(日本テレビ系)では、“イケメン俳優”という呼称について、「イケメンでしかない俳優」と冷静に客観視。さらには「ニューヨークで演技を勉強したい」と将来を見据えていました。

 佐藤健さんも、10月21日の「ボクらの時代」(フジテレビ系)で俳優業について「飽きているわけではないし、道半ばなのは重々承知だが限界を感じている」と言及。「オファーを頂き、面白そうだなと思うものに乗っかって、そこに人生をささげてやること。そのローテーションに限界を感じてきたのは正直あります」と、ルーティンになってしまっている歯がゆさを訴えました。

 佐藤さんは同番組で、「プロデューサーなど裏方に回りたい」とも述べていました。

人気俳優への一極集中

 俳優たちから相次ぐ、「積み重ねたキャリアへの疑問」「海外進出表明」には何が隠されているのでしょうか。それは、佐藤健さんの言葉で分かります。人気俳優ゆえのぜいたくな悩みでもあるのですが、オファーが引きも切らないことから、その“繰り返し”になってしまっていることに多少辟易(へきえき)しているのです。

 つまり、これはまた、定期的に同じ顔触れにしかオファーしないという、芸能界の体質、さらに、それが招いた危機を示唆しているとも言えるでしょう。

 最近、よく聞くのは、「今年だけで出演作は」というフレーズです。黒木華さんは今年だけで6本、吉沢亮さんは8本、山田裕貴さんも5本の映画に出演しました。この山田さん、昨年だけでもなんと12本もスクリーンを彩りました。ただ、こうした役者のオファーの「一極集中」は本人を成長させると同時に、後に疲弊させてしまうという危うさも秘めているとも言えるのです。

人材不足が招く「永続的人気」

 そんな「永続的人気」は、役者の人材不足に起因しているという見方もできます。

 NHK朝の連続テレビ小説まんぷく」で、克子(松下奈緒さん)の長女・香田タカの14歳以降を、岸井ゆきのさんが演じています。岸井さんの実年齢は26歳。起用されたのは148.5センチという身長と幼い顔立ちなどの理由が考えられますが、他にも同じような例は枚挙にいとまがありません。

 小栗さんは2014年、31歳のときに「信長協奏曲」(フジテレビ系)で高校生役を演じていましたし、先の朝ドラ「半分、青い。」では、29歳の佐藤健さんが高校生役を好演していました。他の俳優を例にとっても、山田裕貴さんは28歳で高校生役(10月公開の映画「あの頃、君を追いかけた」)、賀来賢人さんは29歳、中村倫也さんは31歳で高校生役です(日本テレビ系連続ドラマ「今日から俺は!!」)。

 無論、こうした現象をすべて「人手不足」でまとめるのは早計ですが、1998年、学園ドラマ「GTO」(フジテレビ系)で高校生役を務めていた小栗さん(当時15歳)が、約20年たった今も高校生役でオファーされるというのはどうしても奇異に映ってしまいます。

 もちろん、主役の座をつかみ、ヒットドラマ、ヒット映画に恵まれるのは至難の業ですが、そうした安穏としたポジションから脱し、海外に刺激を求めるのはごく自然なことでしょう。

「才能」流出は再興のきっかけ? 危機の始まり?

 今や、野球界やサッカー界では「海外移籍」が常識となっており、そうした人材流出を危惧する識者もいますが、片や日本の競技レベルを引き上げているという声も聞かれます。芸能界では、人気俳優が続々と海外に転出していった先に何があるのでしょうか。

 可能ならば、次々と海外進出することで、アカデミー賞を常時狙える存在になったり、海外合作ドラマが次々と生まれたりするなど、より盛り上がる契機になることを祈りたいものです。また、渡辺謙さんの例を挙げるまでもなく、よりスケールアップした彼らを見たいものです。

芸能ライター 河瀬鷹男

佐藤健さん