2017年にデビューした「ドリームスリーパー東京大阪号」や「ドリームルリエ」を皮切りに、にわかに注目を集めた2列シートの豪華夜行高速バス。ところがその後、なかなか普及していません。2列シートの変遷を振り返り、今後について考えます。

豪華2列シート高速バスの歴史は、『どうでしょう』のあの路線から

夜行高速バスのシート配列は4列または3列が一般的ですが、近年、車両の両側に1列ずつ座席を配した2列シートのバスが登場しています。なかにはパーテーションなどで座席を仕切り、個室タイプを売りにした豪華なものも。2017年初頭から春にかけてデビューした「ドリームスリーパー東京大阪号」や「ドリームルリエ」を皮切りに、そのような2列シートを備えた豪華夜行バスが、にわかに注目を集めました。

ところがその後、2列シートはなかなか普及していません。なかには車両の老朽化などを理由に運行を終了する事例も出てきています。2列シートの変遷を振り返るとともに、今後について改めて考えてみます。

日本で初めて2列シートを採用した夜行バスは、1995(平成7)年に弘南バスが品川~弘前間夜行バスノクターン号」に投入したスーパーシート車でした。車内後部を1人掛けワイドシートの6席とし、個室カーテンや液晶テレビを装備したのが特長で、スーパーシートの乗車には、通常運賃のほかに3870円(当時)を追加で支払う必要がありました。

このスーパーシートを備えた「ノクターン号」は、かつて北海道テレビのローカルバラエティ番組『水曜どうでしょう』の企画「サイコロ6 ゴールデンスペシャル」にも登場したバスですので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。しかし、車両の老朽化などの理由により、2012(平成24)年12月1日品川発を最後に、スーパーシート車は運行を終了しました。

その後、2006(平成18)年4月には、西日本ジェイアールバスが東京~大阪間「ドリーム号」の豪華版として「プレミアムドリーム号」の運行を始めました。当時は、旧高速ツアーバスと熾烈な運賃競争、サービス競争が繰り広げられており、高速バスの一大ブランドである「ドリーム号」の付加価値を高める目的で設定されたのです。既存の2階建てバス(三菱エアロキング)を改造し、うち1階部分にリクライニング角度最大約150度を誇る幅広リクライニングシート「プレミアムシート」を配置。シートピッチを通常の座席の約1.5倍確保することで、寝台に迫る居住性を実現したほか、各座席には地デジ対応液晶テレビを装備しています。

「プレミアムシート」は、2階席(3列スーパーシート)の運賃にプラス1300円という安価で乗車できることが利用客にうけ、超人気シートに成長。2007(平成19)年と2010(平成22)年にリニューアルが実施されましたが、「寝返りがうてるシート」として、現在も高い人気を誇っています。

その後、同様のタイプのシートは、ジェイアールバス関東ジェイアール東海バスジェイアール四国バスウィラー・エクスプレス「エグゼグティブ」(2018年中に運行終了予定)などで採用されたほか、2009(平成21)年12月に登場した西日本鉄道はかた号」(福岡~東京間)の初代プレミアムシート車では、2階席最前部4席を「プレミアムシート」として設定し、豪華シートによる寝心地の良さと2階建てバスならではの眺望の良さを売りにしていました。

パーテーション付きの豪華夜行バス登場 そして「完全個室型」も

夜行バスどうしの運賃競争、サービス競争が繰り広げられるなか、「周りを気にせずに眠りたい」というニーズに応えるべく、やがてシェル型シートやパーテーション(仕切り)付き夜行バスが登場します。

2008(平成20)年にデビューしたウィラー・エクスプレス「コクーン」は、座席を包み込むように固いシェルが設けられた2列シートを斜めに配置することで、足元の広さとシートのリクライニング角度(最大140度)を確保。コンセントやプライベートモニター、靴収納スペース、身だしなみチェック用ミラーなど充実した装備が特長で、女性客を中心に好評を得ていますが、車両の老朽化などの理由で2018年中に運行を終了する予定です。「コクーン」で培われたノウハウは、2017年にデビューした3列シェル型シート「リボーン」に受け継がれており、ウィラーは今後、「リボーン」を同社のフラッグシップとして販売を強化していくとしています。

2011(平成23)年に運行を開始した海部観光「マイフローラ」(東京~徳島間)は、パーテーション付き2列シート夜行バスのはしりといわれています。わずか12席の座席を、徳島県産木材でしつらえたパーテーションで1席ずつ仕切っており、カーテンを閉めればほぼ個室感覚で休むことができます。車両後方にはパウダールーム付きトイレが設けられ、着替えや化粧に利用できると女性客を中心に好評。各座席にはコンセントや小型テレビを装備するほか、アメニティも充実しており、豪華な車内設備とサービスの充実ぶりは、「平成の寝台車」といわれるほどです。

その後、パーテーション付き2列シート夜行バスは、初代「ドリームスリーパー」(中国バス、2012年)、「サウスウェーブ」プレミアムシート車(和歌山バス、2012年)、「はかた号」2代目プレミアムシート車(西日本鉄道、2014年)、「ドリームスリーパー東京大阪号」(関東バス両備ホールディングス、2017年)、「ドリームルリエ」(ジェイアールバス関東西日本ジェイアールバス、2017年)、「ドリームスリーパー東京広島号」(中国バス、2017年)と、各地で運行を開始します。

なかでも、「ドリームスリーパー東京大阪号」と「ドリームスリーパー東京広島号」は、座席の仕切りが天井部まで達した日本初の「完全個室型」夜行バスとして注目を集めたほか、「プレミアムドリーム」の進化版ともいえる「ドリームルリエ」は、人気アイドルグループのメンバーを起用して広告宣伝を行ったことが注目を集めました。

リピーターもあるものの… 2列シートのメリット・デメリット

では、豪華2列シート車を導入することによるメリットとデメリットについて考えてみます。

最大のメリットは、やはり「周りを気にせずに休める」「プライベート空間を確保できる」という点に尽きます。利用者のなかには、その豪華さと快適さに満足して、リピーターになる人もいるほどです。また、バス事業者にとっても、フラッグシップ車として運行することになるため、会社のPRにもなるほか、同じ区間で3列シート便や格安4列シート便を運行している事業者にとっては、そちらへの集客効果も見込めます。

一方でデメリットは、格安4列シートや3列シートと比較して運賃設定が割高であることです。なかには、新幹線+宿泊費の合計金額とほぼ同程度、もしくはこれよりも高い金額に設定されている路線もあり、一般的に高速バス利用者の多くが「安さ」を求める傾向のなか、利用客の立場からすると、乗りたくてもなかなか手を出しにくいというのが実状です。

また、バス事業者にとっても、「車両価格が高い」「付帯サービスの提供にもそれなりの費用が発生する」といった初期投資・コスト面でのデメリットがあるほか、運賃設定のバランスが難しい(安すぎるとすぐに座席が埋まってしまう反面プレミアム感が薄れる、逆に高すぎると利用客に敬遠されて座席が埋まりにくい)、座席数が少ないために採算ラインを高く設定せざるを得ないといった問題もあるといえましょう。

さらに近年では、バスの車体自体の車両価格が上昇しており、導入コストが上がっているほか、複数グレードのシートを設定することで採算ラインにのせることが可能であった2階建てバスの車両代替が、国産2階建てバス(三菱エアロキング)の製造中止により事実上できなくなっています。

この影響で、JRバス「プレミアムドリーム」「プレミアムエコドリーム」が減便を続けているほか、不定期運行に切り替えたり、通常の3列シート車および格安4列シート車に代替したりする事例も。ウィラー・エクスプレス「コクーン」「エグゼグティブ」のように、車両老朽化・安全対策強化を理由に運行を終了する事例も出てきています。そのためか、全席2列シートの夜行バスが広まるかと思いきや、なかなか普及していないのが現状です。

追随は難しい? カギを握るのは、ある新型車両

先述の通り、一般的に高速バスの利用者の多くは「安さ」を求める傾向にあります。バス事業者の「採算面」という観点で考えると、豪華2列シート車を運行することのメリットが発揮されるのは、次のような路線に限られます。

・東京~大阪間、東京~名古屋間など、流動が多く乗客数も見込める路線区間
・かつ、複数の3列シート便や4列格安便を運行し、採算が確保できる施策が取れる路線

しかも、このような路線の運行ができるのは、現時点ではJRバスウィラー・エクスプレスなど大手の事業者に限られることから、これらのことを考慮すると、今後、豪華2列シート車で運行する路線が増えるとは正直いって考えにくいのではないでしょうか。

一方で、新たな動きも出てきています。国産2階建てバス(三菱エアロキング)の製造中止で、長らく2階建て高速バスの新車導入が止まっていましたが、2018年になって、外国製の2階建て高速バスが稼働を始めました。スカニア/バンホールの「アストロメガ」(高速仕様車は「InterCity DD」という名称)がこれにあたります。もし仮にこの車両が今後普及すれば、JRバス「プレミアムドリーム」「プレミアムエコドリーム」のように1台のバスで複数グレードのシート設定が可能になることから、豪華2列シート運行便が再び増える可能性も秘めています。

豪華なサービスでしばしば注目を集めてきた2列シートの高速バス。とかく高速バスのサービス内容は、景気状況や乗客のニーズに大きく左右されがちですが、現在運行されている車両が今後代替されるのか否かを含め、今後の動向に注目したいですね。

池袋~大阪間で運行されている「ドリームスリーパー東京大阪号」関東バス便。日本初の完全個室型夜行バスとして注目を集めた(須田浩司撮影)。