民法の成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が6月に成立した。これにともない、少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げるかどうかについて、法務省の法制審議会で検討されている。

日本弁護士連合会(日弁連)は11月6日、東京・霞が関の弁護士会館で「少年法の適用年齢引下げに反対するシンポジウム」を開き、146人が来場した。研究者や元家庭裁判所調査官、少年院出所者などが登壇し、少年法の適用年齢を引き下げることに反対した。

少年法のおかげで「今がある」

少年院に入っていたことがある竹中ゆきはるさんは、会社の社長、保護司、協力雇用主(出所者らの就労支援をおこなう)として、多岐にわたり活躍している。前科がつかなかったことや少年院で取得した資格のおかげで「今がある」という。

「人を育てるのは人です。少年院の先生や少年鑑別所の法務技官、何十人もの人がいたおかげで、1人の人が育ったことを忘れないでほしい」と、竹中さんは強く訴えた。

また、当時17歳の少年が起こした西鉄バスジャック事件の被害者・山口由美子さんも登壇。被害者の立場として、「少年に再犯してほしくない。年齢が引き下げられれば、少年の再教育の場がなくなり、変わるチャンスを奪うことになる」と問題視した。

●18、19歳は「大人」とはいえない

山口さんは、少年院で自身の体験談を語る活動もおこなっている。「18歳は、大人とはいえない。事件を起こす子どもたちは虐待やいじめにあい、大切にされた経験が少ない」と、少年たちとのやりとりを通じて感じていることを話した。

約3500件の少年事件を手がけてきた伊藤由紀夫さん(元家庭裁判所調査官)は、「非行少年は18、19歳に大きく変化することが多い」と指摘。菱田律子さん(元浪速少年院長)は、「年長少年(18、19歳)は保護が必要な少年たち。少年院に来て救われたという少年や保護者は多い」と、少年院の教育で立ち直った18、19歳の事例を複数紹介した。

また、山下純司教授(学習院大)は、民法学者の視点から、「民法の成人年齢引下げは、若者の権利や自由を拡大するためのもの。若者自身が望む生き方と親の望む生き方が対立したとき、若者を優先させようとするものです。少年法とは目的がちがう」と述べた。

●「再犯防止にならない」

少年事件は、原則としてすべて家庭裁判所に送られる(全件送致主義)。家庭裁判所では、家庭裁判所調査官が少年と向き合い、保護者との面談や学校への訪問調査などをおこなう。裁判官は、責任の大きさや罪の重さよりも、少年の状況に応じて処分を決定する。一方、検察官に送致(逆送)され、成人と同じように刑事処分になる少年もいる。

「検察統計年報(2017年)」によると、少年事件のうち、18、19歳の年長少年が占める割合は約5割。少年院入院者は年長少年の占める割合(47.6%)がもっとも多く、少年鑑別所に収容されている年長少年の割合は男子が43%、女子が34.3%だ(「平成29年版犯罪白書」)。

山崎健一弁護士(日弁連・子どもの権利委員会)は、「たとえば、18、19歳の少年が覚せい剤を使用し、少年院に入ると、薬物教育や生活環境の調整などの教育的指導がおこなわれます。少年法の適用対象年齢が引き下げられた場合、初犯であればほとんどが執行猶予つきの判決となり、必要な手当てがなされないまま社会に戻ることになる。再犯防止にならない」と説明した。

●「最後まで反対する」

山口健一元副会長は、閉会の挨拶で「日弁連は、最後まで少年法の適用年齢引下げに強く反対する」と強調した。

また、刑事法の研究者28人が呼びかけ人となり、「少年法適用の上限となる年齢を引き下げるための法改正を行うことに反対する刑事法研究者の声明」を11月5日付で発表した。2015年に発表した「少年法適用対象年齢の引下げに反対する刑事法研究者の声明」には、呼びかけ人を含め114人が賛同したという。

平成29年版警察白書」によると、2016年の刑法犯少年の検挙人員は3万1516人(ピーク1983年の19万6783人)。人口比でみても、近年は右肩下がりとなっている。

(弁護士ドットコムニュース)

少年法「18、19歳は適用対象外」案への反論 「変わるチャンス奪う」日弁連シンポ