毎週日曜日、夜8時から生放送中の『岡田斗司夫ゼミ』。11月4日の放送では、宮崎駿監督作品である『紅の豚』の解説が行われました。

 この中で、パーソナリティの岡田斗司夫は、冒頭10分で展開される「主人公ポルコ・ロッソと空賊マンマユート団との戦い」を細かく解説し、本作の企画当初にあったコンセプトを説明した上で「このシーンの裏には“中年オヤジ的なギャグ要素”がある」と指摘しました。

岡田斗司夫

─あわせて読みたい─

本当は子供に見せられない『もののけ姫』。無防備なサンとアシタカに何があったのか問われた宮崎駿「わざわざ描かなくてもわかりきってる!」

「飛ばねぇ豚はただの豚だ」粘土で『紅の豚』のジオラマを作ってみた。カッコイイとは、こういうことさ


『紅の豚』は疲れた中年オヤジを癒やすために作られた

岡田:
 この作品は、もともとJAL国際線の中で上映される短編映画として作られる予定だったので、当初は「疲れて脳みそが豆腐になったオジサンを楽しませる」といった目的で作られていました。なので、この冒頭10分は「そういったオジサン好きそうな、ちょっとエッチなコントを見るんだ」という目線で見ると、かなりわかりやすくなると思います。

 宮崎駿が狙った“オジサンギャグ”というのが、実はこの中にはかなり入っているんですけど、普通に見ているだけではよくわからないんですよね。

紅の豚
画像はAmazon『紅の豚 [DVD]』より

 実はこのアニメ、こういう言い方をすると、ちょっと誤解を受けちゃうかもしれないんですけども、スケベなんですよ。漢字の「助平」じゃなくて、カタカナの「スケベ」。まあ、“東スポ”みたいな夕刊紙の風俗欄のような、中年のオジサンが電車で読んでるエロ記事があるじゃないですか。ああいうノリが詰まっている。どちらかというと「中年オヤジとは、こういうことさ」というアニメなんですよね。

 実はこの『紅の豚』の面白さの本質というのは、そこなんですけど。そういった中年オヤジのちょっとスケベな感じが入ってるということが、あまり女子供にはバレていないんですよね。今夜は、それについて「こっちの見方した方が絶対に面白い!」といった、楽しみ尽くすための見方について話そうと思います。

不可解なことの多いポルコの秘密基地

岡田:
 まず、最初にタイプライターの音と共に字幕がカチャカチャと出てくると、次のシーンではいきなりポルコの秘密基地が映ります。

 注目すべきポイントは、ポルコの赤い飛行艇の右にある、小さいボートなんです。この小さいボートについて、僕も最初は「飛行艇が飛ばせない時や、エンジンの調子が悪い時に、街まで出かける用のボートなんだな」と思ってました。だけど、これは、ちょっと違う感じなんです。

 さて、次は音楽が掛かり始めて、浜辺で寝ているポルコが映されます。ここでは、ポルコが寝そべっている椅子の隣になぜか敷いてあるバスタオルに注目してもらいたいと思います。さらには、椅子の脇にはさりげなくバケツが置かれ、シャンパンが突っ込んであります

 ほんの少しだけ見えるボトルの首の先が大きくなっているので、これはシャンパンであることがわかるんですけど。ポルコは、シャンパンバケツの中で冷やしているんです。まあ、もう氷も溶けちゃってるんでしょうけど。

 ポルコは、ここで「CINEMA(シネマ)」とうい雑誌を顔に載せて寝ています。ただ、このシーンで皆さんに注目してもらいたいのはポルコの首のネクタイなんですね。ここでのポルコはちゃんとネクタイをしてるんですよ。

 これについても、最初は「ポルコ・ロッソというのは、僕らが思ってるより仕事熱心なのかな?」って思ったんですよ。なぜかというと「マンマユート? 安い仕事はやらないぜ」なんて答えながら、足で机を近くに引きずり寄せて、ラジオを切るんです。もう、この仕事をやる気満々だからです。

 おまけに、キッチリ航空服を着込んで、シャツにネクタイまで締めて、手袋までしてフル装備なんです。じゃあ、普段からこんな戦闘服を着て、用意バッチリで昼寝しているような男なのかというと、そうじゃないんですよね。

 後に出てくるポルコの普段着というのは、タンクトップショートパンツというだらしない格好なんですよね(笑)。

 つまり、この冒頭の蔵でのシーンのポルコは、もうすぐ出撃要請の電話が掛かってくることがわかっていたんですね。それを知っていたから、戦闘服を着て、ネクタイを締めて、手袋までして、そして、なぜか砂浜にバスタオルを敷いた上で、シャンパンまで用意して、電話が掛かってくるのを待っていたんです。

 しかし、ポルコの予想よりずいぶんと電話が掛かってるのが遅かったから、いつの間にか寝てしまった。というのが、このシーンの真相なんだと思います。