顧客からの暴言や暴行など「カスタマーハラスメント」の報告が相次いでいる。11月12日放送のNHK「クローズアップ現代+」では、産業別労働組合「UAゼンセン」が2017、18年に行なったアンケート調査の結果を詳報した。回答者約8万人のうち、およそ7割に被害経験があるそうだ。

「お客様第一」が裏目になっている側面もあるといい、ゲスト出演した米国出身のお笑い芸人・厚切りジェイソンさんは、「(企業やスタッフが)なぜそこまで対応し続けるのか分からない」と話していた。

今や、「社会インフラ」と化したコンビニもカスタマーハラスメントが多い職場の1つだ。しかも、フランチャイズ(FC)という仕組みが取られているため、より毅然とした対応が取りづらい側面があるという。

FCのコンビニは、店の「看板」をかりる代わりに、利用料(チャージ)を払う仕組み。本来、各店舗は独立しているから出禁(出入り禁止)など、問題客への対応はオーナーの判断ひとつだ。

だが、実際はトラブルになると、客は本部にクレームを入れる。「加盟店が本部に逆らえないことを、客はよく知っている」とオーナーらは言う。

●「客はオーナーが本部に逆らえないのを知っている」

コンビニオーナーらが執筆し、このほど出版された『コンビニオーナーになってはいけない』(旬報社)には、オーナーアルバイトが出くわした問題客の様子が描かれている。

車の灰皿の中身を駐車場に捨てていく、トイレットペーパーや芳香剤などの備品を持ち帰る、携帯電話を持っているのに「タクシー呼んで」とゴネるーー。

しかも、注意すると、殴ったり、暴言を吐いたりすることもあるという。年々、便利さが増す中で、勘違いした客が生まれているのかもしれない。

「『本部に言うぞ』といってくるお客さんは多いですね」。こう話すのは、セブンイレブンFC店オーナーで、コンビニ加盟店ユニオンの副執行委員長・吉村英二さんだ。

「この間も、トイレのためだけに入ってきた人から、『清掃時間が長い』と怒鳴られました。公衆トイレでだって、そんなこと言わないじゃないですか。しかも、本部にもクレームがいきました。コンビニの店員は下に見られているんですよ」(吉村さん)

吉村さんによると、本部に届いたクレームは、担当社員によって店舗に伝えられる。多くは言いがかりのような内容だが、「対処方法」を書かなくてはならないという。

「本部は『対等な関係』と言うけれど、本部とオーナーの力関係は違う。本部から『どういうこと』と言われて、強く言えるオーナーはあまり多くないでしょう。だったら、客に怒鳴られても謝ってやりすごした方が良い、という発想になりますよね」

別の大手コンビニの元オーナーも、トラブルになった客を出禁にしたところ、クレームを受けた本部社員からしつこく連絡を受けた経験があるという。

●「独立した事業者」と「ブランドイメージ」の衝突

本部にしてみれば、客のクレームはブランドイメージの毀損につながりかねない。店側に非がある可能性も否定できない以上、対応は慎重にならざるを得ない。ブランドイメージを守ることは、オーナーの契約書にも記されている。

加えて、当事者でない本部がいきなり対応を決めるのは難しい。クレーマーの溜飲を下げるため、下手下手に出てしまいがちなことは理解できる。

とはいえ、コンビニオーナーは「独立した事業者」だ。問題客をどう扱うかは、フランチャイズ(FC)がはらむ矛盾の1つといえるだろう。

●「サービスにはコストが発生」なぜか当たり前が通じないコンビニ

前述の『コンビニオーナーになってはいけない』には、万引き犯を捕まえたオーナーが、本部社員から「万引き犯もお客さん」と言われたという話が出てくる。ちなみに万引きされた商品はオーナーが補填するので、本部の利益につながるそうだ。

「本部はチャージを取るだけで、接客はしないから、『とにかくコンビニは便利ですよ』ということでPRしてきた。結果として、本部もお客さんもサービスにはコストが発生するということを忘れてしまったんじゃないでしょうか」(吉村さん)

「社会インフラ」と言えば聞こえがよいが、そのサービスを提供しているのは、最低賃金に近い労働者と、過労死ラインを超えて働くことも珍しくないオーナーたちだ。

クローズアップ現代+」では、過剰サービスがカスタマーハラスメントの原因の1つという分析も紹介されていた。

(弁護士ドットコムニュース)

コンビニでも「カスタマーハラスメント」、客の捨てゼリフ「本部に言うぞ」