▽「こりゃ混戦なんてもんじゃないわね」そんな風に私が呆れていたのは月曜日、せっかく一時は2位に上がったアトレティコが3位に落ちてしまったと嘆きつつ、よくよくリーガの順位表を眺め直していた時のことでした。というのも首位はバルサが何とか維持したものの、続くセビージャアトレティコ、アラベスの3チームは同じポイントでたったの勝ち点差1。5位のエスパニョールにしても3ポイントしか違わないため、各国代表戦週間によるパロン(リーガの一時停止期間)後の13節ではバルサワンダメトロポリターノに迎えてガチンコ対決になるアトレティコだけでなく、他3チームにも1位になる可能性があったから。

▽ちなみにその原因を作った先週末のリーガがどうだったかお伝えしていくことにすると。マドリッド勢の先陣を切ったヘタフェは土曜にバレンシアをコリセウム・アルフォンソ・ペレスに迎え、私がワンダメトロポリターノに向かうため、家を出るまではスコアレスドローで頑張っていたんですけどね。ホルヘ・モリーナやカブレラらにチャンスもあり、優勢に進めていたようですが、後半36分、ブルーノがエリア内でガメイロのユニフォームを後ろから引っ張って邪魔したのをVAR(ビデオ審判)に見咎められたのが運の尽き。パレホが決めたPKによる1点を最後まで返せず、0-1で負けてしまうことに。

▽それでも11位という落ち着いた位置にいるボルダラス監督のチームは別に心配しなくて大丈夫なんですが、今回も降格圏を脱出できなかったのはアトレティコの試合の後、ジローナとアウェイで対戦したもう1つの弟分、レガネス。いえ、スコアレスドローで勝ち点1は稼いだんですけどね。兄貴分も援護射撃をしてあげていたんですが、勝ち点では並んだものの、アスレティックを抜いて、17位に上がるにはあと一歩が足りませんでしたっけ。

▽え、それで「El gol del cojo!/エル・ゴル・デル・コホ(びっこのゴール)」というタイトルで幾つものスポーツ紙の一面を飾ったアトレティコの勝利はどんなだったのかって?いやあ、実はこれ、お隣さんのお株を奪うような根性のremontada(レモンターダ/逆転劇)だったんですよ。先週はCLドルトムント戦があって疲れていた彼らは前半、負傷から先発復帰したジエゴ・コスタもピリッとせず。それどころか、36分には不慣れなカンテラーノ(アトレティコBの選手)CB、モンテーロのサイドからアスレティックに侵入を許し、サン・ホセのシュートがポストに弾かれてゴールライン上に落下、それをウィリアムスに蹴り込まれ、先制点を取られてしまうんですから、困ったもんじゃないですか。

▽もちろんシメオネ監督も手をこまねいて見てはおらず、後半頭からコスタをビトロに代えて反撃に出ると、10分には「porque veiamos un partido mas para hombres/ポルケ・ベイアモス・ウン・パルティードー・マス・パラ・オンブレス(もっと本物の男のための試合だと思ったから)」(シメオネ監督)という理由でモンテーロを下げてジェルソンを投入。5年前、ラージョにレンタル移籍しての修業時代にCBも務めたサウールを守備ラインに回すという荒業に出ます。すると17分にはトマスがエリア外から放った一撃が決まり、同点に追いつくことができたんですが、この直後、間髪置かずにコレアをカリニッチに代え、一気に畳みかけようとしたのが仇となるとは一体、誰に予想できたかと。

▽そう、ゲーム再開から1分でカリニッチからボールを奪ったアスレティックがカウンターを発動。ムニアインのスルーパスに抜け出した俊足ウィリアムを追ったゴディンが左足に肉離れを起こし、その上、GKオブラクと1対1のシュートも決められてしまったとなれば、泣きっ面に蜂とはまさにこのこと?その後すぐ、ケガをしたゴディンが交代するつもりでキャプテンマークもグリーズマンに渡したところ、ここでもう枠が残っていないという過酷な現実に直面したから、さあ大変!

▽それが当人はシメオネ監督に「Quedate de delantero/ケダテ・デ・デランテーロ(前線に留まれ)」と言われ、まったく走れない状態ながら、「Intente hacer el minimo esfuerzo para que no se agravar/インテンテー・アセール・エル・ミニモ・エスフエウソ・パラ・ケ・ノー・セ・アグラバル(ケガが悪化しないよう、最低限の動きだけするようにした)」って、だってえ、これってただのリーガの試合なんですよ。何かの決勝でもあるまいし、どこからそんな執念が湧いてくる?

▽そのゴディンの根性にようやくチームメートが報いてくれたのは35分、丁度、その日は一時帰国して金曜にはマハダオンダ(マドリッド近郊)の練習場も訪問していた昨季までのキャプテン、ガビがパルコ(貴賓席)で見守っていたおかげもあるんですかね。その背番号14の後継者、ロドリトマスの蹴ったCKを長身を生かしてヘッドでネットに叩き込み、再びアトレティコは同点に持ち込みます。そしてロスタイム、ゴディンがウナイ・ニュネスにエリア正面でファールを受けると、またしてもトマスがFKのキッカーに。高く舞い上がったボールはゴール前右側にいたサウール、そしてグリーズマンを経由し、反対サイドにいたゴディンがヘッドで決勝点に変えているとなれば、もうドラマとしか言いようがないじゃないですか。

▽いやあ、最初はオフサイドだったジャッジも、古巣から100試合以上出場した選手に贈られるプレートをその日、キックオフ前にもらっていたラウールガルシアが前にいたため、VARでゴールが認められ、おかげでアトレティコは3-2と逆転勝ち。シメオネ監督も「ウチは93分に決勝を負けたり、引き分けられたりしたから、よくわかっている。サッカーにはプレースタイルや形式を越えて、感情的な面があるってことをね」といたく満足していたんですけどね。大変なのはこの先で、自分で「Puedo tener una rotura en los isquiotibiales de 20 dias o un mes/プエド・テネール・ウナ・ロトゥーラ・エン・ロス・イスキオティビレス・デ・ベインテ・ディアス・オ・ウン・メス(全治20日、もしくは1カ月のハムストリングの肉離れだろう)」と言っていたゴディンを始め、バルサ戦を控えたアトレティコには本職のCBが1人もいないという恐ろしい事態が発生。

▽そう、大体がして、ゴディンも負傷明けだったにも関わらず、サビッチ、ヒメネス、リュカが欠場しているため、ムリした面もあったかと思うんですが、いくらこの日は臨時にサウールトマスがCBコンビを務めたとて、果たしてバルサの攻撃陣相手に通用するものかどうか。コケとレマルもまだ復帰していませんしね。今回、常に心配の種となる各国代表戦で出向する選手は11人から6人に減ったとはいえ、すでにケガをしているから、呼ばれていないだけって、ちょっと笑うに笑えないかと。

▽そして翌日曜はエスタディオ・バジェカスにラージョを応援に行った私でしたが、近辺のバル(スペイン喫茶店兼バー)のテラスは試合前にビールで喉を潤しながら、バルサ戦を見るサポーターで大賑わい。ええ、丁度終盤に差し掛かっており、しかも3-4でベティスが勝っていたせいですが、この兄貴分たちにとっての朗報もラージョには全然、関係ないんですよね。おまけビジャレアルとの一戦も前半33分にチュクウェゼに奪われた先制点をハーフタイム入り直前にラウール・デ・トマスが挽回、更に後半20分にはアルバロ・ガルシアのゴールで1点リードしながら、守備が脆弱な彼らには耐えることができず。

▽ええ、前節にバルサに土壇場の逆転負けを喰らった時よりはマシですが、34分、途中出場のサンソネにエリア前から決められて、結局、2-2の引き分け、ホーム未勝利のままでは、最近の定位置となってしまった19位を脱出できなくても仕方なかったかと。ちなみにレガネス、ラージョのマドリッド勢降格圏組はどちらも今週、水曜に親善試合を実施。前者は午後7時からブタルケで現在、首位グラナダと同じ勝ち点で2位につける、リーガ2部の弟分アルコルコンを、後者はバジェカ杯でスイスグラスホッパー午後8時30分に迎えます。1部リーガの試合は来週末までないですし、チケットも格安のため、観光ついでに覗いてみるのもいいかと思いますが、とりわけ次節、2位グループの一角であるアラベスと戦うレガネスには早く勝ち癖をつけてもらいたいですよね。

▽え、バジェカスなんかで私が時間を潰しているなんて、もしや首位争いに関係ないとして、レアル・マドリーの扱いが軽くなっていないかって?いやあ、それでも急いで戻ったため、セルタ戦の後半は近所のバルで見ることができたんですが、どうやら前半の間、彼らも負傷禍に苦しんだよう。19分にはウーゴ・マージョのタックルで足首を痛めたカセミロがセバージョスに交代、レギロンもハーフ直前に筋肉系のケガでカンテラーノ(RMカスティージャの選手)のCB、ハビ・サンチェスと代わっていたんですが、23分にはモドリッチのパスを絶妙にトラップしたベンゼマが先制点を決めているんですから、まあいいじゃないですか。

▽加えて後半11分には再びベンゼマが活躍、エリア内からのシュートはGKセルヒオが触れてゴール枠に当たったものの、カブラルの胸に当たってオウンゴールで追加点が入ったため、もう大丈夫かと思ったんですが…16分にはブライズ・メンデデスのクロスをマージョに流し込まれ、1点差になってしまうとは!そこへ25分にはレギロンの代わりに左SBに移っていたナチョがヒザの靭帯を痛め、3人目まで負傷で交代となるなんて、容易ならざる事態ですが、いやあ、予定通りアセンシオを投入。ルーカス・バスケスを右ならまだしも左SBの位置に置くとはソラリ監督、かなりいい度胸をしていますね。

▽おかげで前半のファールのせいで、交代を今か今かと待っていたベイルが「Gareth jugo todo el segundo tiempo con el tobillo muy hinchado/ガレス・フゴ・トードーエル・セグンド・ティエンポー・コン・エル・トビージョ・ムイ・インチャードー(後半全部、ひどく足首を腫らしたままプレーしなければならなかった)」(ソラリ監督)という貧乏クジを引いたんですが、お隣さんと違い、この試合のヒーローになったのは他の選手。ええ、38分にオディオソラがフンカにエリア内で倒され、PKをゲットすると、前節バジャドリー戦に続き、セルヒオ・ラモスがパネンカ風(緩いボールを中央に蹴る)でこれを決め、ロスタイムにはカセミロと代わっていたセバージョスもエリア外からシュートを突き刺してgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を挙げてくれたため、ブライズが最後に入れたゴールも焼け石に水となることに(最終結果2-4)。

▽おかげで勝ち点3が手に入ったマドリーは6位のままなんですが、バルサとの差が4に縮小。それでも1試合では引っくり返らないため、今回は首位争いメンバーがから外したんですが、いよいよこの週明けには暫定だったソラリ監督が正式なマドリー監督として、サッカー協会に登録されたそうですからね。ケイロル・ナバスとのレギュラー争いを制し、リーガとCLを担当することになったGKクルトワなど、「0-0の時、敵のシュートがポストに当たるとか、ツキが回ってきている。La calidad no ha cambiado, el equipo tampoco/ラ・カリダッド・ノー・ア・カンビアドー、エル・エキポ・タンポコ(選手の質は変わってないし、チームも変わってないけどね)」と言っていましたが、就任以来、4連勝、しかも15得点2失点という成績を挙げたソラリ監督の強運は決して侮るべきではないかと。

▽ただこちらもアトレティコ同様、カセミロは全治3週間、ナチョは2カ月、レギロンは肉離れがあるかどうか検査待ち、ベイルは速攻でウェールズ代表に行ってしまったため、よくわからないものの、負傷者が増えているのは痛いところですが、マルセロ、カルバハルはもう復帰秒読み段階みたいですからね。次のリーガは13位のエイバル戦というのも今の状態なら、あまり心配しなくて済むのはラッキー要因ではありますが…ちょっとファンとして気になるのはロペテギ監督に重用されていたイスコとアセンシオの出場機会がこのところ、めっきり減ってしまったこと。

▽そのいい証明となったのは翌月曜、私がラス・ロサス(マドリッド近郊)のサッカー協会施設にスペイン代表の唯一の公開練習を見に行ってみると、ここ9月、10月のセッション同様、日曜にプレーした選手たち、バライドス(セルタのホーム)で火花を散らしていたイアゴ・アスパス、ブライズとラモスバルサブスケツ、セルジ・ロベルト、ようやくルイス・エンリケ監督を翻意することができたジョルディ・アルバ、その他12名ぐらいは20分くらいロンド(輪の中に選手が入ってボールを奪うゲーム)をした後、ちょっとランニングしただけでロッカールームに戻って行ったんですけどね。同じ敷地内で練習をしているU21代表からヘルプに来てもらったマジョラル(レバンテ)、オジャルサバル(レアル・ソシエダ)、ペドラサ(ビジャレアル)らと一緒に最後までpartidillo(パルティディージョ/ミニゲーム)をしていたメンバーに、その2人のマドリー選手がいたから。

▽何せ今週、ネーションズリーグクロアチア戦では折しも相手のキャプテン、モドリッチがセルタ戦でかなりいい状態に戻っていたのもありますし、イスコとアセンシオには中心となって働いてもらわないといけませんからね。たとえ9月の対戦では6-0と大勝している相手とはいえ、勝ち点3を取らないと、現在グループ2位のイングランドに最終戦で追い越されるor並ばれて、直接対決のアウェイゴール差でファイナルフォー(準決勝)行きの切符をかすめ取られてしまう危険性があるとなれば、決して油断はできませんって。

▽そんなクロアチアvsスペイン戦は木曜午後8時45分(日本時間翌午前4時45分)からキックオフ。試合後、チームはザグレブ(クロアチアの首都)から、日曜にボスニア・ヘルツェゴビナとの親善試合のあるラル・パルマス(カナリア諸島)へ直接飛んでしまうため、もう来年の3月までラス・ロサスで彼らを見ることができないのもちょっと寂しいですよね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。
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