「今、どんな気持ちだ?」
「楽しい。面白い」
「その気持ち、それは光だからな」
「光?」
「ああ、一輝の中にある光だ」

高橋一生主演のドラマ『「僕らは奇跡でできている」。変わり者でマイペースな動物行動学者・相河一輝(高橋一生)と彼をとりまく人々の姿を描く。脚本は『僕の生きる道』シリーズの橋部敦子。

冒頭の会話は幼い頃の一輝(岩田琉聖)と陶芸家の祖父・義高(田中泯)とのもの。「楽しい。面白い」と思う気持ちは輝くばかりの光であり、その光は他の人たちも照らしていく。

先週放送された第5話のサブタイトルは「女ゴコロと虫歯のナゾ!?」。タイトル通り、歯科医師の育実(榮倉奈々)に焦点があてられたエピソードだった。高橋一生はインタビューで「このドラマの妙は、気づきを得るのが、主人公ではなく、その周囲の人々」と語っていたが(リアルサウンド 10月1日)、一輝の放つ光は育実まで届くのだろうか?

働きアリの生態と“願い”
第5話では「アリ」が象徴的に使われていた。少年時代の一輝が夢中になっていたのはアリの遊園地づくりで、大人になってからもアリに見とれて授業に遅刻し、事務長の熊野(阿南健治)にこっぴどく叱られる。

一輝の授業も「アリの生態と繁殖」について。当初、学生たちにほとんど無視されていた一輝の授業だったが、いまや「面白い」と噂になって聴講希望者まで出るほどの人気になっていた。学生たちは一輝の話に目を輝かせて聞き入っている。

「昔、生物は繁殖に有利な個体だけが生き残ると考えられていた時代がありました。その時代、働きアリという存在は大きな謎でした」

働きアリは全員メス、つまり女王アリの娘たちだ(知らなかった!)。卵を産まないのに途絶えることがなかった働きアリの存在は大きな謎だと考えられていたが、実は大きな理由があった。働きアリは自分で卵を産むよりも、より多くの遺伝子を残す方法を知っていたのだ。

アリの血縁度(どれだけ遺伝子が合致しているか)は、母娘(親子)より姉妹(同じ働きアリたち)のほうが高い。自分で卵を産むよりも、姉妹たちを育てたほうがより高い血縁度の遺伝子を残すことになる。だから、働きアリたちは女王アリに尽くし、妹たちを育てるのだ。

「働きアリは繁殖行動をしなくても、後世に遺伝子をつないでいくという自分たちの“願い”をかなえているんです」

“願い”はこのエピソードのキーワードだ。一輝に気のある学生の琴音(矢作穂香)が質問する。

「先生の“願い”はなんですか?」
「ないですね」
「何も?」
「今は思いつきません」

ふたりの働きアリ
このドラマには働きアリのような女性がふたりいる(そういえば働きアリもメスだった)。

ひとりは歯科医師の育実。父から受け継いだ歯科医院を経営しつつ、銀座の審美歯科にも勤めている。さらに仕事の幅を広げるために中国語の勉強を始め、地域に貢献するために子ども向けの歯磨きイベントも企画している。まるで働きアリだ。

もうひとりは一輝の家に住み込みで働いている家政婦の山田さん(戸田恵子)。食事、洗濯、掃除と、いつも一輝の世話で忙しそうにしている。さらに一輝の人間関係(女性関係含む)がうまくいくかどうかヤキモキしている。今は育実のことが気になるようだ。偶然出会った一輝の恩師・鮫島(小林薫)にこんなことを言う。

「マイペースで、自分の世界の中だけで生きてるようなところがあって、なかなか人と親しく付き合うなんてなかったですから」
「大丈夫だよ、あいつは」
はい。生徒さんとも楽しそうにやっているみたいで。人とのつながりもでき始めてるのかなぁ、って」

山田さんの心配は家政婦の仕事の範疇を超えている。自分の子どもを産まなくても(たぶん、山田さんは子どもがいない)、人は人を育てることができる。その原動力は“願い”だ。一輝が健やかに育ちますように、一輝が楽しく毎日過ごせますようにという願い。鮫島の言う通り、まさに母親がわりだ。

では、育実の“願い”は何だろう?

育実のうわべの“願い”と本当の“願い”
「何気に上から目線って気づいてます? だからうまくいかないんですよ」
「彼氏さんのこと、仕事で埋めようとしてますよね?」

歯科衛生士あかりトリンドル玲奈)は自分のやりたいことを優先してやっている。だから、誰のためにやっているかわからない育実の仕事ぶりに疑問を感じてグサグサ直言するが、育実は聞く耳を持たない。

育実はひとりで準備した子どものための歯磨きイベントを開催する。イベントには一緒に森へリスの実験を見に行きたい虹一(川口和空)の母親・涼子(松本若菜)を説得するため、一輝もやってきていた(結局、涼子は不参加で空振り)。

子どもたちは正直だ。育実が語る正しい知識には興味を示さないが、一輝が語った楽しい発見にはガッツリ食いついて賞賛する。正しい知識も必要だが、子どもの頃は好奇心が勝る。好奇心を入口にして何かに熱中していくうちに、正しい知識を身につけるのだろう。余談だが、正しい知識を身につけずに(発見に見せかけた)陰謀論に熱中している大人の知能は子どもレベルである。

敗北感でいっぱいの育実を一輝は森に誘う。別に育実を元気づけようとしたわけではなく、単純にリスの実験のための人手が足りなかったのだ(学生たちが協力を申し出たが、熊野に却下されていた)。

急に雨がふってきて、一輝の小屋で雨宿りをするふたり。育実は一輝に「僕が新庄さんなら、作りません」という言葉の意味を問う。コンニャク農家の跡取り・新庄(西畑大吾)は家業を継ぐべきかどうか悩んでいた。新庄は一輝に相談したときの「僕が新庄さんなら、作りません」という言葉が頭から離れずに、通院したとき育実に漏らしていたのだ。父から歯科医院を継いだ育実にとって、他人事のようには思えなかったのだろう。一輝の答えはこうだ。

「主語が新庄さんじゃありませんでした」
こんにゃく屋を継ぐ理由の主語です。先生がこんにゃくをすごいと言ったから、親が喜ぶと思ったから、と言ってました」

「それだってちゃんとした理由だと思いますけど」と反論する育実。

「親が積み上げてきたものを引き継いで、より一層歯科医として多くの人たちに貢献することが、私の一番の“願い”ですから」
「それ、本当の“願い”ですか?」
「どういう意味ですか?」
「楽しそうじゃありません」

今回のキーワード、“願い”という言葉がここで登場する。別の場所で、新庄は偶然会った鮫島に一輝のことを尋ねていた。

「相川先生、“願い”がないって言ってました。それって満足してるってことですよね?」
「満足してるから“願い”がないってのは、ちょっと違うんじゃないかな」
「どういうことですか?」
「それはね……。目の前のことを夢中になってやっているうちに、“願い”がかなっちゃうんじゃないか? だから、いちいち考えないんだよ」

“願い”とは、その人が本当にやりたいことを意味している。主語はあくまで自分自身。誰かのために家業を継ぐのも、社会貢献をするのもいいのだけれど、それが本当に自分のやりたいことなのか、夢中でやっているのかは自問自答したほうがいい。本当に自分のやりたいことなら、苦しい過程だって楽しくなる。だけど、そうじゃなければ、どこかで折れてしまう可能性が高い。「楽しそうじゃない」と見抜かれた今の育実がそうだ。一輝はあちこちにやりたいことがあって、それぞれ夢中になるけど、とっ散らかったままだから、それをいちいち統合する言葉(“願い”)を考えていないようだ。

「私は……私は……愛されたい」

自問自答した育実が流す涙を見て、一輝はドッキリ。本日放送の第6話では、育実が胸中を一輝に打ち明ける。ちょっと理が勝ちすぎたような気がする第5話だったが、第6話はどうだろう? 今夜9時から。
(大山くまお

「僕らは奇跡でできている」
火曜21:00~21:54 カンテレフジテレビ系
キャスト:高橋一生榮倉奈々、要潤、児嶋一哉、田中泯、戸田恵子、小林薫
脚本:橋部敦子
音楽:兼松衆、田渕夏海、中村巴奈重、櫻井美希
演出:河野圭太(共同テレビ)、星野和成(メディアミックスジャパン
主題歌:SUPER BEVER「予感」
プロデューサー:豊福陽子(カンテレ)、千葉行利(ケイファクトリー)、宮川晶(ケイファクトリー)
制作協力:ケイファクトリー
制作著作:カンテレ

イラスト/Morimori no moRi