安倍晋三首相の最近の中国への接近に対して、米国のトランプ政権周辺から手厳しい非難の声があがった。中国の国際規則を無視する膨張に対して米国が断固たる抑止の政策をとり始めたのにもかかわらず日本が中国と融和しようとしているのは米国外交への妨害だ、とする非難である。

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 その非難には、安倍政権がこのまま米国の事情を無視して中国にすり寄るならば、トランプ政権は日米貿易交渉で日本の自動車への関税制裁などの厳しい措置をとるだろう、という警告も含まれている。さらには「トランプ大統領はもう安倍首相の友人ではなくなる」という威嚇の言葉も発せられた。

安倍政権非難はトランプ政権の意向を反映か

 この安倍政権の対中政策への非難は、10月末に出た米国の保守系の政治外交雑誌『ナショナル・インタレスト』掲載の論文で表明された。論文のタイトルは「日本の中国接近はなぜ失敗なのか」である。

 論文の執筆者は、2003年から2009年まで2代目ブッシュ政権の国務省で北朝鮮人権問題担当の特使などを務め、2017年1月からのトランプ政権では国務省の政権引き継ぎ班の主要メンバーだったクリスチアン・フィトン氏である。同氏はアジア問題にも詳しい保守系の政治や外交の専門家で、2013年には『スマート・パワー』という本を著し話題を呼んだ。現在はワシントンの研究機関「ナショナル・インタレスト・センター」の上級研究員を務める。

 そうした思想的にトランプ政権に近い研究者が、『ナショナル・インタレスト』という、これまたトランプ政権の政治スタンスに近い保守系の有力雑誌で論文を発表した。その意見は同政権の意向を少なからず反映していると見てよいだろう。

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 論文の内容は安倍政権への激烈な批判であり、非難である。最大の主張をまとめると、以下のようになる。

安倍晋三首相は、米国政府が中国の無法な膨張を抑えようと対決の姿勢を強めているときに中国に友好を求め、日米同盟やトランプ大統領に大きな害を与えている」

 さらにフィトン氏は、安倍政権の対中外交が日本にも被害をもたらし、失敗するとも予測していた。

中国の対日政策の実態は変わらない

 同論文は副題で「米国が中国の貿易問題や南シナ海での威嚇を抑え始めたときに、日本政府はなぜ中国に融和的な接近をするのか」という問いを投げかけ、安倍政権の最近の中国への接近を辛辣に批判していた。

 論文の要旨は以下のとおりである。

安倍首相10月下旬の訪中で、中国との絆を経済からスポーツまで広げることを宣言し、「一帯一路」関連のインフラ事業への参加を言明した。だが、この動きは同首相が友人と呼ぶトランプ大統領の対中政策への障害となる。

・ペンス副大統領10月4日の主要演説が明示するように、米国政府は対中政策を歴史的に変革し、融和から対決へと変更した。しかしこの時期に安倍首相は日中関係を「競争から協調へ」とまさに逆行させ、中国の不公正貿易慣行を正す米国の関税制裁の効果を減じるような動きをみせた。

トランプ政権は、同盟諸国が米国と貿易問題での協定を結びながら一方で中国との協定的な合意を結ぶことに反発する。トランプ政権は最近メキシコおよびカナダとの間で新北米自由貿易協定をまとめたが、メキシコカナダが中国のような非市場経済国家と独自の貿易協定を結ぶことに反対している。

・日本の新たな対中政策がこのまま進み、米中貿易紛争で中国を利すことになれば、トランプ政権は日本との貿易交渉で自動車関税などの対日圧力措置をとり、防衛面でも日本の防衛費のGDP(国内総生産)1%以下という低水準への不満を表明することになるだろう。安倍首相トランプ大統領を友人と呼べなくなる事態も起きるだろう。

・中国は最近日本への融和を図っているが、従来の対日政策の実態は変わっていない。日本が中国のその誘いに応じて中国に接近しても、日本にとっての実質的な利益はない。安倍首相日本国内での支持を減らすことになるだろう。

 フィトン氏の論文は、以上のように米国側一般の反応という形で安倍首相を厳しく批判し、警告を表明していた。「トランプ大統領安倍首相の友人ではなくなる」という表現に至っては威嚇だともいえる。

 同論文はそのうえで、中国が北朝鮮問題や海洋戦略で日本にとって不利な行動を続けている点も強調していた。だから中国は日本に対して抜本的に従来の政策を変えて融和や友好の姿勢をとっているわけではない、という論旨だった。

無視できない米国側の懸念

 確かに、米中と日中の両関係の現況をみる限り、米国政府は中国に対して「協調から競合や対決へ」と明確にうたうようになり、その一方で日本政府は中国に対して「競争から協調へ」と言明した。まさに正反対である。だからこの種の安倍政権批判がトランプ政権周辺から出るのはきわめて自然だといってもよい。

 ただし、米国ではやや異なる見解も存在する。中国政府の動向やトランプ政権の対中政策に詳しい米海軍大学の前教授トシ・ヨシハラ氏は「日米両政府間では、日本の対中接近についても事前にかなり協議している。フィトン氏の指摘はやや過剰かもしれない」と述べた。現在ワシントンの大手シンクタンク「戦略予算評価センター」上級研究員を務めるヨシハラ氏は、さらに「中国と日本との間には、急に融和を目指すといってもすぐには克服できない障害があまりにも数多くある」とも語った。

 しかし安倍政権は、フィトン氏の今回の論文に象徴される米国側の懸念を、決して無視も軽視もできないはずである。

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