技術評論社は、書籍ドラゴンクエストXを支える技術ーー 大規模オンラインRPGの舞台裏』を刊行した。価格は電子版、ソフトカバー版とも2894円。

 本書はドラゴンクエストX オンラインで技術責任者にあたるテクニカルディレクター、そして現在では同作のプロデューサーに就任しているスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)の青山公士氏が筆をとっている。もともとは『WEB+DB PRESS Vol.90』ドラゴンクエストX 開発ノウハウ大公開」として寄稿したのを元に、大幅に加筆・改修したものだ。

(画像はAmazon | ドラゴンクエストXを支える技術 ── 大規模オンラインRPGの舞台裏 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)より)

 青山氏は、1999年3月にスクウェア(現スクエニ)に入社。日本で初の本格的なMMOPRPGファイナルファンタジーXI など、スクウェアのオンラインゲームをプレイするためのネットワークサービスPlayOnlineでディレクターを務めた。

 本書はそういった日本のMMPRPG黎明期から携わってきた青山氏による、MMORPGならではのさまざまな技術的課題に対処してきた事例と、スクエニがどのような体制で『ドラゴンクエストX』を運営しているかが、赤裸々に書かれている。

 開発チームは具体的にどのようなツールを使っているのか。次々とアップデートしていくバージョンの管理。プレイヤーの感想や要望に対するフィードバックの具体事例、ネタバレを間違ってリリースしないための仕組みや、不正行為をする業者をどのような発見するのか。本書はそのようなMMORPG特有の問題に挑戦する青山氏、ならびに開発チームの日々の試行錯誤と、努力を惜しもうとしない熱意が浮かび上がってくるだろう。

■『ドラゴンクエストXを支える技術』目次
□第1章 ドラゴンクエストXとは何か ── ドラゴンクエストかオンラインゲームか
□第2章 開発・運営体制 ── ドラゴンクエストXを支える人々
□第3章 アーキテクチャ ── クロスプラットフォームMMORPGの基本構成
□第4章 開発と検証 ── 並走する追加と保守のサイクル
□第5章 メモリ管理 ── MMORPGボトルネック
□第6章 ゲームクライアントグラフィックス ── 魅力的な絵を描画する工夫
□第7章 ゲームサーバプロセス ── 機能ごとに分離して負荷分散
□第8章 キャラクター移動 ── 移動干渉による押し合いへの挑戦
□第9章 ゲームDB ── ワールド間の自由移動を実現する一元管理
□第10章 ゲーム連動サービス ── ゲーム内とつなげるための工夫と力技
□第11章 運営と運用 ── リリースしてからが本番!
□第12章 不正行為との闘い ── いたちごっこ覚悟で継続対応

(画像はドラゴンクエストX公式サイトより)

 たとえば『ドラゴンクエストX』はシナリオを非常に重視しており、ユーザーにも定評があるが、実際のゲーム開発の体制ではシナリオ部門が独立しているという。青山氏はさまざまなゲーム開発に携わってきたが、明白にシナリオ部門が独立しているのは、初めてだったという。
 『ドラゴンクエストX』の優れたシナリオは開発体制から成り立っており、同時に本書はそのようなシナリオ部門の成果物がどのように技術者に伝達されて活かされているのかを、詳細に明かしている。

 一方で、本書は一般的なビデオゲームに重なる部分も多くある。たとえばゲームのグラフィックがどのように動いているように見えるのか、マルチプラットフォームとゲームエンジンの関係などは、『ドラゴンクエストX』に限らないものだろう。本書を読めば、日本の大作MMORPGの舞台裏のみならず、MMOの枠を超えて、ビデオゲームがどのように作られているかも見えてくるはずだ。

 なお、本書は技術的な専門用語は出てくるが、なるべく平易に書かれており、青山氏もプログラミングや『ドラゴンクエストX』の知識がなくても、読めるように目指したという。まさに『ドラゴンクエスト』らしい、おもてなしの精神に貫かれて書かれた本であるといえるだろう。

 先日には本書の刊行に先立って、ドラゴンクエストXを支える技術』発売記念トークセッションが行われた。アーカイブ映像が確認できるタイムシフトは年内いっぱいの期間限定なので、気になる方は今のうちに視聴しておこう。また公式サイトでは、青山氏自身による紹介コメントが掲載されている。

 本書はゲーム業界志望の人はもちろん、一般のゲーマーの目線からみても大変面白く興味深いものだろう。本書を手にとって『ドラゴンクエストX』の開発・運営の舞台裏を垣間見てはいかがだろうか。

文/福山幸司

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ライター
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman