限界を超えた人は笑顔のまま限界を超えた仕事をしてしまう……。
スマホの登録先を見ても弱音を吐ける人が1人もいない……。
幸せなら手をたたこう……(パンパン)。

日々ハードワークを精一杯こなしている人たちの弱っているハートをグイグイえぐってくる新垣結衣主演の水曜ドラマ『獣になれない私たち』。先週放送の第5話はダメな女たちとダメな男たちが直接ぶつかり合って火花を散らした。それでもそれぞれの関係がジクジクとしたまま終わらないところがリアル。視聴率は再上昇の8.3%。

田中圭を正論でとっちめる松田龍平
晶(新垣結衣)と寝たと嘘(眠ってしまったというのが本当)をついて京谷(田中圭)にぶん殴られた恒星(松田龍平)。平身低頭で謝る京谷をグウの音も出ない正論でとっちめる。

「堂々めぐりで前に進めないクズです。俺みたいな奴が晶と付き合っちゃいけなかったんです」

これまでは「いや、そんなことないよ」と言ってもらえるような環境で過ごしてきたのだろうが、恒星は聞き逃さない。

「4年も付き合っておいて、今さら付き合っちゃいけないって」

京谷は何も反論できない。せいぜい恒星の悪態に善人ヅラして言い返すだけだ。そんなふたりのやりとりを見て晶のことを想い、「可哀想っスよ!」と叫んでしまう岡持三郎(一ノ瀬ワタル)は雑味のないピュアな男……。

一方、晶は京谷のマンションに居座る朱里(黒木華)のもとを訪れる。朱里が本当に出ていくつもりがあるのか確かめようとしていた。京谷は「前に進めない」と言っていたが、晶は堂々めぐりを終わらせて前に進むつもりだ。

決戦! 新垣結衣VS黒木華
「ここを出ていくつもりは、ない。死ぬまで出ていかない……って言ったら、どうするの?」
「別れます」

煽ってくる朱里に対して決然と言う晶。しかし、京谷への愛情ではなく、自分の生活のためにマンションに居座っていることをとがめる晶に、朱里の怨念が爆発する。生活について話していたときは目を逸していた朱里だが(つまり、嘘かもしれない)、ここでは視線を晶に向けて敵意を剥き出しにしている。

「どうして? なんで私のほうだけ京ちゃんのこと好きでい続けないといけないの? あ、自分の彼氏はモテる人だって思いたいんだ? それでも私のほうを選んでくれたって。幸せだね~。幸せでキラキラしてる人は違うね~。ふーんウサギの餌まで買ってきて。自慢? お前とは違うんだって言いたいの? いつまでも無職で何にもしてない私とは、そりゃ違うよね」

「自慢?」というところでグイッと睨め上げる朱里の煽りを、なんとも言えない暗い表情で見つめ返す晶。眉根を寄せながら口もとに笑みを浮かべる新垣結衣困り顔は見慣れてきたが、この「無」のような表情は見る側の胸をえぐる。「私だってラクして楽しく働いてるわけじゃ……」と言うが、朱里の感情を逆撫でするだけだった。

「ハァ? 何、ゼイタク言ってんの? 仕事があって、仕事ができて、好きな人に好きって言ってもらえて、お母さんにも気に入られて。何でもあるじゃん! 私なんて5年間、ずっーとここで、こんなスウェット着て、派遣会社に行っても『お前に紹介する仕事はない』って言われて、京ちゃんにも……京ちゃんにも『お前と晶とは違う』って言われて。話し相手はゲームウサギだけ。私、ウサギを飼ってもいけないの!? 何にもないのに……。あなたが持ってるいろんなもの、私、何にも持ってない!」

“卑屈”という感情を形にしたような朱里の態度と言葉はまったく感情移入できないものだが、現代のリアルの一片を切り取っているのも確かだ。若年層の貧困問題は根深く、朱里はネットカフェの代わりに京谷のマンションに住み着いているに過ぎない。そして、彼女のように何かに噛み付いている“持たざる者”の姿をよくSNSなどで見かけたりする。

あんたみたいな人、大っ嫌い」と涙を流す朱里を、変わらぬ無表情で見つめる晶。いや、見つめているかどうかもわからない。ただ、視線の先に朱里がいるだけだ。

「私は……あなたがうらやましい。そんな風に泣けて」

マンションのリビングに嫉妬と憎悪と諦めと悲しみが交錯する。一瞬、晶が薄く笑ったような気がした。結局、話し合いでは何も解決せず、晶はマンションを後にする。

ここで不思議なシーンがあった。一度、晶はマンションの玄関を出て画面の左側の暗闇に消えていくのだが、その後、手前右側から帰ってきた京谷がフレームインする。玄関の扉の前で来た方向を振り返る京谷。すると、もう一度、扉から晶が姿を現す。しかし、ふたりはお互いのことに気づかず、晶は同じようにマンションの外に消え、京谷はマンションの中へ入っていく。

人生はちょっとしたタイミングで大きく変わったりするもので、別れようと決心したはずなのに偶然再会してやり直しちゃうことだってある。だけど、このふたりは多少のタイミング如きではもはやどうにもならないことを映像で表現しているようだ。「別れます」と晶が言ったとおりである。

幸せなら手をたたこう……(パンパン)
出社した晶は、九十九(山内圭哉)の要望通りの働きを見せる。淡々と仕事をこなし、雑用までこなし、難しいプロジェクトもひとりで引き受ける。口もとに微笑みを浮かべているが、目もとに表情は一切ない。眉根を寄せていた頃は、まだ人間らしい表情だったが、もはや壊れてしまった人間のそれである。

そんな晶が仕事をしながら鼻歌で歌っているのが「幸せなら手をたたこう」だ。仕事をしているカットの合間に「パンパン」と手を叩くカットが挟まるシュールな演出が話題を呼んだ。「幸せ」をどこにも見出すことができず、ただひたすら仕事のみをこなし続ける晶の荒涼とした心をインパクト抜群の演出で表現している。今後、仕事しながらこの曲を鼻歌で歌っている人がいたら要注意。

ビルの非常階段にいる晶は、今にも身を投げてしまいそうだ。彼女をつなぎとめるには、人とのつながりしかない。しかし、スマホの連絡先一覧を見ても、登録数だけは多いのに「死にたい」「死んでしまいそう」と弱音を言う相手が見つからない……。ここも、ものすごくリアル。晶も朱里と同じように、この世界の片隅でただひとり漂っている。

ようやく電話できたのは、恒星……ではなく、京谷の母・千春(田中美佐子)だった。ひとりで介護を続ける辛さについて尋ねられた千春は、寝たきりの夫・克巳(白石タダシ)とのなれそめを語る。それはとても一途で美しい愛の物語だった。千春と克巳は一生をかけてふたりの愛を貫こうとしている。打ちのめされた晶は、初めて涙を流す。これまで心に蓋をし続けてきた晶が、初めて感情をあらわにした瞬間だった。たったひとりで、だけど。

新垣結衣から松田龍平にいきなりキス! 
京谷は自分がマンションを出ていくことを決心する。新しい部屋の家賃とともに、残ったマンションのローンも払い続けるのだという。彼なりのケジメのつけ方なのかもしれないが、なんとも言えない後味の悪さが残る。彼は晶との関係を戻したいのだろうが、もし一緒になったとして、彼が決めた経済的な負担は自動的に晶に降りかかってしまう。自分が損を被るつもりなのだろうが、実は未来の伴侶にも負担を強いているのだ。

「愛せなくてごめん」

そう言い残して部屋を出ていく京谷。部屋から飛び出した朱里は裸足のまま。彼を追いかけることができない彼女の今の境遇を象徴している。

「終わっちゃった」

朱里の呟きとともに、彼女が今まで興じていたオンラインゲームサービス終了してしまった。オンラインゲームの開発者は……橘カイジ。呉羽(菊地凛子)の結婚相手だ。橘カイジが開発したゲームの名は「プテロンオンライン」という。「プテロン」とはギリシャ語で「翼」のこと。ゲームが終了した後、「Welcome to the new world」という文字が表れるが、朱里にとってオンラインゲームが「翼」なのだろうか? それともオンラインゲームが終わって本当の「翼」を手に入れるのだろうか?

一方、晶は「5tap」の前をウロウロしていたところを恒星に見つかる。そこへ荷物を引きながら晶の部屋へ向かう京谷がやってきた。とっさに晶は恒星にキス! 三郎じゃなくても「何してんスかァ!」と言いたくなったよ……。

非常階段で泣き崩れる晶を見ていると、第1話で追い詰められたときの姿を思い出す。状況はあのときより深刻だ。会社ではよりハードワークを強いられ、京谷との恋愛は終わりが見えている。晶に何が残されているのかといえば、恒星とのキスだけということになる。ままならない人生を送る人を、ちょっとした恋(かもしれない)が救ってくれるのか? 

「愛していれば、乗り越えられますか? 苦しくても、辛いことが続いても」

この悲しい言葉がいつか逆転してくれるといいなぁ。第6話は朱里が「5tap」へやってくる。今夜10時から。
(大山くまお


「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト新垣結衣松田龍平、田中圭、黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン
主題歌あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中

イラスト/まつもとりえこ