パンケーキやショートブレッド、ビスケットなど、さまざまな”粉”を使ったお菓子のレシピを提案する料理研究家、桑原奈津子さん。デザイナーの夫と、雑種のキップル、黒猫のクロ、ハチワレ猫の小鉄と暮らす桑原さんのキッチンで、朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。平日の朝はおかず系とおやつ系、2種類のサンドイッチを定番に

レシピの提案だけでなく、スタイリングも自らこなす料理研究家として、雑誌や書籍で活躍する桑原さん。12年前、築55年の一戸建てをリノベーションした自宅兼スタジオにお邪魔した私たちを、桑原さんと共に迎えてくれたのは、雑種のキップルでした。

キップルは桑原さんの著書にもたびたび登場する有名犬。『パンといっぴき』『パンといっぴき 2』(パイインターナショナル)といった書籍のほか、ツイッター(@KWHR725)でも、そのかわいい姿が見られます(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家の平日の朝ごはんは、サンドイッチが定番だそうです。「野菜をたっぷり使ったおかず系サンドイッチと、ジャムやバターを使った甘いおやつ系サンドイッチ。2種類つくることが多いです。おかず系とおやつ系、両方あると、飽きずに楽しめますよ」と桑原さん。

今回は、おかず系として「ブロッコリースプラウトバジルの卵チーズサンド」、おやつ系として「ピーナツバター・ジャムサンド」のつくり方を教えていただきました。

桑原さんはいつも、使う食材をすべて作業台に並べてから、朝ごはんをつくり始めるそうです。「調理中に、何度も冷蔵庫と作業台を行ったり来たりしなくていいので、無駄なく動くことができますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原さん家のピーナツバターサンドは組み合わせを楽しむ

「ピーナツバター・ジャムサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
食パン 2枚
・ピーナツバター
マーマレード

まずは「ピーナツバター・ジャムサンド」からスタート。つくり方はとっても簡単。食パン一枚にピーナツバターを、もう一枚にマーマレードをぬって重ねるだけ。「マーマレード以外のジャムでもおいしいですよ。今の季節なら、わたしは栗のジャムとローストくるみをあわせるのも好きです」

ピーナツバターは、粒が残ったクランチタイプがおすすめ。桑原さんが今使っているのは、原材料の90%以上がピーナツという「ホームプレート ピーナッツバター」。成城石井などで手に入ります(写真撮影/嶋崎征弘)

桑原家では、朝ごはん用の食パンホームベーカリーで焼いているそうです。「ふたり家族なので、一斤で2日分の朝ごはんになります」。小麦粉、塩、砂糖、バター、牛乳、ドライイーストでつくるシンプルなパンだそうですが、粉の配合にはこだわりが。「国産小麦の『春よ恋』だけではボリューム不足だと感じるので、外国産の『カメリア』と半々くらいにブレンドしています」

桑原さん家の卵チーズサンドは具材モリモリがポイント!

ブロッコリースプラウトバジルの卵チーズサンド」

<用意するもの(各2人分。分量のないものは、お好みの量を)>
食パン 2枚
・スライスチーズ 2枚(桑原さんは、白カビチーズ「トランシュ・ドゥブリー」を使用)
ブロッコリースプラウト 25g
バジルの葉 10枚
ゆで卵 2個
ピクルス 1本
・粒マスタード 小さじ1
マヨネーズ 20~30g
・バター
・胡椒

もうひとつは、「ブロッコリースプラウトバジルの卵チーズサンド」。まず、食パンに、室温でやわらかくしたバターをぬります。

2日に一度の高頻度でパンを焼くため、ホームペーカリーは背面カウンターに出しっぱなしに。その隣にはスタンドミキサーが置かれていました。どちらも本体の色を「白」で統一することで、出しっぱなしでもすっきり見えます(写真撮影/嶋崎征弘)

次に、ゆで卵をつぶします。「エッグスライサーを使ってみじん切りにすることもありますが、今回は粗めのザルでこします。同じ食材でも、食感が違うと味の印象も変わるんですよ」。そう話しながら、作業台下のオープン棚から、ひょい!とボウルを取り出す桑原さん。

ステンレス製の大・中・小サイズのボウルは重ねて収納。その右手にはミニサイズのボウル、左手にはサイズ違いのザルが収納されています(写真撮影/嶋崎征弘)

奥側はコの字ラックでかさ上げし、ガラス製のボウルなどを収めています。右奥にはボックスにひとまとめにした液体調味料が。のぞきこめばどこになにがあるか一目瞭然の、作業効率のよい収納スタイルです(写真撮影/嶋崎征弘)

ボウルに目の粗いザルを引っ掛け、ゴムベラでゆで卵を押しつけるようにしてこしたら、さっと振り向き、背面のカウンターに出しっぱなしにしている業務用クッキングスケールに、ゆで卵の入ったボウルをのせる桑原さん。計量しながら、マヨネーズをボウルに直接絞り出します。

硬くて粗い網目のザルを使い、短く持ったゴムベラでゆで卵をつぶします。ザルでこしたゆで卵は、まるでミモザのようにかわいらしい。「ふわっとした食感が楽しめますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)

続いて、瓶入りマスタードをすくうためのスプーンを取り出したのは、水切りかご。「頻繁に使うものは、洗ったあと水切りかごに入れっぱなしです(笑)」という桑原さんの発言に、なぜだか親近感を感じてしまう……。

洗ったカトラリー類は、水切りかご横に引っ掛けた付属のステンレスのカップに入れておきます。カップを作業台側にひっかけておけば、調理中でも片手でさっと取り出せます(写真撮影/嶋崎征弘)

先ほどバターをぬった食パンに粒マスターをのばしてスライスチーズをのせ、その上にマヨネーズを加えて混ぜたゆで卵ペーストをのせます。

ゆで卵をつぶすとき、調味料を混ぜるとき、卵ペーストをぬり広げるとき。すべて同じゴムベラを使えば、洗い物が減らせます。朝の貴重な時間を無駄にしない、小さな工夫(写真撮影/嶋崎征弘)

作業台からまた振り向いて、背面カウンター上のナイフスタンドからナイフを、その横のツールスタンドから菜ばしを取ります。菜ばしでピクルスを瓶から取り出してまな板に置き、ナイフで半分にカット。

壁面に取り付けるマグネット式のナイフラックも検討したものの、「常に刃が見えているのが怖くて(笑)」。代わりに、ワンアクションで出し入れできる竹製のナイフスタンドを採用(写真撮影/嶋崎征弘)

卵ペーストの上にカットしたピクルスを並べたら、洗ってサラダスピナーでしっかり水切りしたブロッコリースプラウトをのせます。その上に、お好みでマヨネーズをしぼって、バジルをのせます。もちろんバジルも、洗ってしっかり水切りするのが、水っぽくならない秘訣。「サラダスピナーは朝も晩もよく使う道具なので、あえてしまいこまず、たいてい作業台の上に出しっぱなしにしています」

ブロッコリースプラウトはパンではさむとかさが減るので、「盛りすぎかな?」と思うくらい多めにトッピングするのがポイント。バジルが苦手なら、なくてもOK(写真撮影/嶋崎征弘)

最後に、もう一枚の食パンをのせ、上から優しくぎゅっと抑えたら、「ブロッコリースプラウトバジルの卵チーズサンド」の出来上がりです。

夫婦の食べる時間に合わせ、半分は朝ごはん、もう半分は昼ごはんに

完成した二種類のサンドイッチは、夫婦二人分。桑原さんの朝ごはんと、夫の昼ごはんになるそうです。「夫は朝、あまり食欲がないので、コーヒーと果物といった軽いものを別に用意しています。夫用のサンドイッチはラップで包んで保冷バッグに入れ、お弁当にしています」。そう話しながら桑原さんは、作業台横にある電子レンジ台の下から、するっとラップを取り出しました。

ラップの収納場所は、出来上がったサンドイッチを包むとき、作業台から一歩も動かずに取り出せる絶妙な配置。電子レンジ下なので、温めたい食品にラップをかけるのにも便利(写真撮影/嶋崎征弘)

半分にカットしたおかず系サイドイッチとおやつ系サンドイッチをそれぞれラップで包んだら、夫のお弁当が完成。ご自身のサンドイッチは、お皿にのせて食卓へ。

食器類の大半は作業台横に造り付けた収納スペースにまとめているため、お皿を取り出して盛り付ける動きもスムーズ。奥行きがある棚の手前によく使う器、奥にあまり使わない器を配置(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんに合わせる定番の飲み物は、水出しコーヒー。「夫とわたしで、それぞれコーヒーを飲むタイミングが違うので、一度に800mlくらいを水出しして、常に冷蔵庫にストックしています」。暑い季節なら冷蔵庫からそのまま取り出してアイスコーヒーとして、寒い季節は電子レンジで温めてホットコーヒーとして飲むそうです。

お気に入りのコーヒー豆は、鎌倉にある「カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ」のもの。お店のウェブショップで、中深煎りと深煎りのものを選んで1kgくらいまとめて購入しているそうです(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはんづくりに悩む時間が減らせる、メニューの柔軟なルール化

桑原さんが食卓に座り、「いただきまーす」の瞬間、どこからともなく近づいてきたのは、もちろんキップル。「パンが大好きなので、朝ごはんの準備ができると、自然と近くにやってきます」。書籍やツイッターで紹介されているとおりのキップルと桑原さんの朝ごはんの風景は、見ているだけでほのぼのと癒やされるものでした。

里親募集サイトを通して、生後3カ月くらいで桑原家にやってきたキップルは、現在12歳。「保護犬の存在と雑種犬の魅力を伝えられたらと思って、ツイッターにキップルの写真を投稿しはじめました」(写真撮影/嶋崎征弘)

朝ごはん」というと、毎朝、違うものを用意しなくては!と意気込んでしまい、キッチンに立つのが憂うつになることも。桑原さんのように、「平日はサンドイッチが定番。そのときどきで、具材を変える」と、あらかじめ柔軟なルールを決めておけば、「朝、なにをつくろうか?」と悩む時間を減らせそうです。

また、よく使うものは出しっぱなしにしたり、扉のないオープン棚を活用したりといった桑原家のキッチン収納のスタイルは、料理が苦手、片づけが面倒なわたしのようなタイプは積極的に見習いたい考え方です。いちいちものを取り出す手間、収める手間がかからないだけでも、料理がうんとラクになる可能性があります。

おでこのハチワレ模様がかわいい小鉄。カメラ目線で次々とポーズを決めてくれるキップルと違って、なかなかカメラのほうを向いてくれなかったのですが、最後はこのとおり。特別大サービスです((写真撮影/嶋崎征弘)

今回は、気分よくぱぱっとつくって、おいしく食べるための桑原さんの朝ごはんとキッチンの工夫をご紹介しました。次回は、桑原さん愛用のキッチンツールや器などについて、お話を伺います!

●後編はこちら
料理家のキッチンと朝ごはん[1]後編 調理実習台が主役。道具・器は長く使えるいいものだけを集めた●取材協力
桑原奈津子さん
広島市生まれ。幼少期をベルギーで過ごす。大学卒業後、カフェのベーカリー・キッチンを経て、大手製粉会社に入社。製菓・製パンメーカーへの試作・商品化に数多く携わる。その後、外資系の加工でん粉メーカーで研究職に従事。2004年独立、フリーの料理家に。著書に『小麦粉なしでかんたん、やさしい。お菓子とパン』(主婦と生活社)、『いっぴきとにひき』(大福書林)など多数。
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(さいとう きい)
写真撮影/嶋崎征弘