実家の農業を手伝っても、時給以下の給料しかもらえないのは仕方がないですか? 弁護士ドットコムにそんな相談が寄せられました。

相談者は「実家の農業を13年半ほどしていたのですが、給料をほとんどもらっていませんでした。金額で言うと月2万ぐらいです」と、いいます。経営者である両親には、何度も交渉したそうです。しかし、「農家はこれぐらいが当然」「お前は家のしごとをしているのだからこの金額であっている」と、応じてもらえませんでした。

ところが、確定申告では相談者に「月8万給料を支払っている」として申告しているそうです。このことが税務署に発覚した場合、両親は何らかの罰則を受けることになるのでしょうか。蝦名和広税理士に聞きました。

●「過少申告」あるいは「未払い賃金」

ーー13年6カ月もの間、月2万円で働かされていた。ただし税務署には「8万円の給料」と申告していたとの話です。驚きますが、経営者である両親の行為に問題はないのでしょうか

「この方の場合、労働契約はどうなっていたのでしょうか。家族経営ではそもそも労働契約内容がきちんと確認されないことも多いかもしれませんが、今回は、労働契約が交わされていたとして回答します。

労働契約では月2万円と記され、実際の支給も2万円。ところが、確定申告では月8万円で申告していたのならば、両親の行為は『過少申告』となります。加算税などの罰則を受けることになります。

一方で、労働契約では月8万円と記されていたものの、実際の支給は2万円だった場合を検討します。この場合、差額の6万円は未払い賃金となりますが、月8万円で確定申告を行っていたとしても問題ありません。資金繰りなどの関係で、支払い期日には一部しか賃金が支払われないことは家族経営ではよくある話です。

文面からするとご質問者のケースでも前者に該当するのではと推察されます」

●「10・5・3・1(トーゴーサンピン)」

ーー両親には当然のことながら、「嘘の申告してはいけない」という認識はあったはずです。それでも、なぜ一線を越えてしまったのでしょうか

「背景には、自営業者、農業所得者たちのおかれた事情があるのではないでしょうか。これらの人たちは、給与所得控除という給与所得者(会社員など)が受ける概算の経費控除に比べて、実額での経費控除は控除幅が少ないのです。

昔から『10・5・3・1(トーゴーサンピン)』という職業別の所得の捕捉率を表す言葉があります。意味は、給与所得者は10割、自営業者は5割、農業所得者等は3割、政治家は1割の収入が課税庁に把握されているというものです」

ーー経費が控除され難いから、少なく申告しようと考えてしまうのですね。しかし最近では、「10・5・3・1(トーゴーサンピン)」は聞かれなくなってきたように思います

「所得捕捉率格差の問題は批判の的とされてきたこともあり、政治家の1割を除き、現在では幾分解消されてきた感じを受けます。ただ、給与所得以外の所得捕捉率が上がると、今度は給与所得者の概算経費控除が恵まれすぎているとの批判が生まれてきます。

給与所得控除額の見直しが行われるなど調整はされているのですが、依然として批判は根強く、給与所得以外の所得者は少しでも経費を膨らませたいとの意識はまだまだ根強くあるようですね」

●「最低賃金までは請求できる」可能性も

ーー両親の事情はわかりました。ただ、娘さんの労働条件はあまりに悪いのではないでしょうか

「ここからは労働法の問題になりますが、月2万円の賃金とのことでしたら、勤務の実態によりますが、最低賃金以下になる可能性があります。もし最低賃金以下の場合は、都道府県ごとに定められている最低賃金額まで請求が認められます。

ただ、家族経営の事業では、労働法の適用は様々な観点から検討されることになるため、注意が必要です。事業の状況によっては労働法関係の保護を受けることができないケースもありえます。

たとえば同居の親族のみを使用する事業においては労働基準法、最低賃金法は適用除外です。一方で、同居の親族であっても、事業主の指揮命令に従っていることが明確な場合など就労の実態によっては、労働基準法が適用されることもあります。詳しいことは労働基準監督署や弁護士に相談した方がいいでしょう」

【取材協力税理士】

蝦名 和広(えびな・かずひろ)税理士

特定社会保険労務士・海事代理士・行政書士。北海学園大学経済学部卒業。札幌市西区で開業、税務、労務、新設法人支援まで、幅広くクライアントをサポート。趣味はクレー射撃、一児のパパ。

事務所名   : 税理士・社会保険労務士・海事代理士・行政書士 蝦名事務所

事務所URL:http://office-ebina.com

(弁護士ドットコムニュース)

13年間「月2万円」酷使された農家の娘 両親は税務署に「ウソ給与額」申告