順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センターの高森絢子 博士研究員、伊沢久未 助教、北浦次郎 先任准教授らの研究グループは、薬剤の副作用である偽アレルギー*1を抑えるメカニズムを解明しました。ある種のカチオン性薬剤(抗生剤など)はマスト細胞*2の受容体を直接活性化して偽アレルギーを引き起こすことが問題となっていますが、免疫受容体CD300f*3がマスト細胞の活性化シグナルを抑制して偽アレルギー反応を抑えることを見出しました。さらに、CD300fのリガンド(特定の受容体に特異的に結合する物質)である脂質セラミド*4の投与により、マウスの偽アレルギー症状を改善させることに成功しました。この成果は薬剤の副作用である偽アレルギーの予防や治療に大きく道を開く可能性を示しました。
本研究は米国アレルギー・喘息・免疫学会誌であるJournal of Allergy and Clinical Immunology 電子版に2018年11月8日付けで発表されました。
【本研究成果のポイント】

  • 免疫受容体CD300fが欠損したマウスでは薬剤による偽アレルギーが著しく悪化する
  • CD300fとセラミドの結合はマスト細胞の活性化による偽アレルギー反応を抑制する
  • CD300fを標的としたセラミドによる偽アレルギーの予防・治療の可能性

【背景】
アレルギー疾患は増加の一途をたどる現代病です。一般的に、即時型アレルギー*5が発症するためには、花粉、食物などのアレルゲンに対するIgE抗体が産生され、マスト細胞のIgE受容体に結合することが必要です。次にアレルゲンがIgE抗体に結合してIgE受容体を刺激することにより、マスト細胞は活性化してヒスタミンなどの細胞内顆粒を放出(脱顆粒)することでアレルギー症状を引き起こします。このように2つのステップを経て即時型アレルギーが誘導されます。他方、抗生剤や麻酔薬などのある種のカチオン性薬剤はマスト細胞の受容体に直接結合してマスト細胞を活性化し、IgEの関与する即時型アレルギーと同じような症状を引き起こします。この現象はIgEの関与しない偽アレルギーと呼ばれて、薬剤の副作用として大きな医療問題となっています。
研究グループはこれまでに、免疫受容体CD300fがマスト細胞のIgE受容体シグナルを抑制してIgEの関与する即時型アレルギーを抑えることを明らかにしてきました。そこで、免疫受容体CD300fがIgEの関与しない偽アレルギーも抑えることができるかもしれないと考え、本研究ではその可能性の検証と生体内メカニズムの解明を目指しました。

【内容】
まず、マウスの耳介にカチオン性薬剤(抗生剤のシプロフロキサシン)を皮下注射して偽アレルギー反応を誘導しました。カチオン性薬剤はマウス皮膚のマスト細胞の受容体に直接作用して、即時にマスト細胞を活性化(脱顆粒)させます。脱顆粒により放出されたヒスタミンは血管透過性を上昇させるので、しっぽに静脈注射された色素(青色)が耳介に漏出します。この色素量を定量化して皮膚の偽アレルギー反応を評価することができます(図1a)。次に、野生型マウスとCD300f欠損マウスの耳介にシプロフロキサシンを注射したところ、CD300f欠損マウスの皮膚の偽アレルギー反応は著しく悪化しました(図1b)。
図1: カチオン性薬剤による偽アレルギーモデルの解析
また、CD300fのリガンドである脂質セラミドの存在下でマウスやヒトの培養マスト細胞をカチオン性薬剤で刺激すると、マスト細胞の脱顆粒が抑えられることがわかりました。これにより、CD300fとセラミドの結合がマスト細胞の受容体シグナルを抑えることが明らかになりました。さらに、野生型マウスにセラミドを前投与するとCD300fリガンドの増加によりCD300fの機能が促進し、皮膚の偽アレルギー反応を抑制できました(図2)。
図2 :  CD300fの機能の促進による偽アレルギーの抑制
これにより、CD300fとセラミドの結合は偽アレルギーを抑える生体内メカニズムであることを裏付けました。
以上の結果から、生体にセラミドを投与してCD300fの機能を促進することで、カチオン性薬剤によるマスト細胞の活性化は強く抑制され、偽アレルギー反応を抑えるメカニズムが明らかになりました(図3)。
図3: 本研究で明らかになった偽アレルギーを抑えるメカニズム
【今後の展開】
本研究は、薬剤による偽アレルギー反応を抑えるメカニズムを解明しました。さらに、免疫受容体CD300fはIgEの関与するアレルギー反応だけでなく、IgEの関与しない偽アレルギー反応を抑える鍵となることも明らかにしました。このCD300fの機能を促進する薬剤は偽アレルギーに対する画期的な予防・治療法となる可能性があります。薬剤の副作用(偽アレルギー反応)はさまざまな治療の妨げになるだけでなく、ときにアナフィラキシーショックを起こすなど生命の危機に及ぶこともあります。本成果をもとに、薬剤の副作用を抑える予防・治療法が確立されれば、安全な治療を行うことができるようになります。研究グループは今後も引き続き、CD300fを標的としたセラミドによる予防・治療法の開発を進めていきます。

【用語解説】
*1 偽アレルギーある種のカチオン性薬剤(抗生剤や麻酔薬など)はマスト細胞の受容体(マウスMrgprb2/ヒトMRGPRX2)に直接作用してマスト細胞を活性化させてヒスタミンなどを放出させる。従って、IgEと抗原によりIgE受容体を介してマスト細胞が活性化する場合と同様にじんましんが出るなどアレルギー様症状を引き起こす。このような反応は偽アレルギーと呼ばれ薬の副作用として問題になっている。

*2 マスト細胞: 肥満細胞とも呼ばれる。IgE抗体と抗原によりIgE受容体が刺激されると、マスト細胞は活性化してさまざまな化学伝達物質(ヒスタミンなど)を放出してアレギー反応を引き起こす。

*3 CD300f: CD300fは細胞の活性化を抑えるペア型の免疫受容体である。CD300fとそのリガンドである脂質セラミドの結合はマスト細胞のIgE受容体シグナルを抑制して即時型アレルギー反応を抑えることが知られている。

*4 セラミド: スフィンゴ脂質の一つであり、多くの種類が含まれる。生体の細胞内にも細胞外にも存在してさまざまな機能をもつが、免疫受容体CD300fのリガンドとしての役割をもつ。

*5 即時型アレルギー アレルゲンに対するIgE抗体はマスト細胞のIgE受容体に結合する。次に、アレルゲンがIgEに結合してIgE受容体を刺激すると、マスト細胞は活性化して脱顆粒する。顆粒に含まれるヒスタミンなどは血管などに作用して即時にアレルギー症状を引き起こす。このような生体反応は即時型アレルギーと呼ばれる。

【原著論文】
雑誌名: The Journal of Allergy and Clinical Immunology (https://www.jacionline.org)
タイトル: Identification of inhibitory mechanisms in pseudo-allergy involving Mrgprb2/MRGPRX2-mediated mast cell activation
日本語訳: 受容体Mrgprb2/MRGPRX2を介するマスト細胞の活性化が原因となる偽アレルギーを抑制するメカニズムの解明
著者名: Ayako Takamori1, Kumi Izawa1, Ayako Kaitani1, Tomoaki Ando1, Yoko Okamoto1,2, Akie Maehara1, Atsushi Tanabe1, Masakazu Nagamine1, Hiromichi Yamada1,3, Shino Uchida1,4, Koichiro Uchida1, Masamichi Isobe1, Tomoki Hatayama1, Daiki Watanabe1, Taiki Ando1,5, Takuma Ide1,6, Moe Matsuzawa1,7, Keiko Maeda1, Nobuhiro Nakan1, Naoto Tamura5, Katsuhisa Ikeda6, Nobuyuki Ebihara7, Toshiaki Shimizu1,3, Hideoki Ogawa1, Ko Okumura1 & Jiro Kitaura1
著者名(日本語表記): 高森絢子1、伊沢久未1、貝谷綾子1、安藤智暁1、岡本陽子1,2、前原明絵1、田辺篤1、長嶺誠和1、山田啓迪1,3、内田志野1,4、内田浩一郎1、磯辺優理1、畑山知輝1、渡邉大貴1、安東泰希1,5、井出拓磨1,6、松澤萌1,7、
前田啓子1、中野信浩1、田村直人5、池田勝久6、海老原伸行7、清水俊明1,3、小川秀興1、奥村康1、北浦次郎1
所属: 1)順天堂大学アトピー疾患研究センター、2)東京大学小児科、3)順天堂大学小児科・思春期科、4)順天堂大学消化器内科、5)順天堂大学膠原病・リウマチ内科、6)順天堂大学耳鼻咽喉・頭頸科、7)順天堂大学浦安病院眼科
DOI: 10.1016/j.jaci.2018.10.034

なお、本研究はJSPS科研費 基盤研究(B)(JP26293231とJP17H04217)等の研究助成の支援を受け実施されました。

配信元企業:学校法人 順天堂

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