大阪メトロの「なんば」「あびこ」「なかもず」各駅は、正式名称は漢字表記ですが、もっぱらひらがなで表記されます。一方、誰でも知るような有名な駅にもかかわらず、あえてひらがなの駅名を正式しているケースも。そこには、わかりやすさだけでない理由がありました。

もともと地下鉄も「難波」だった

大阪メトロ路線図には、ひらがなだけで表記される駅が3つあります。「なんば」「あびこ」「なかもず」です。

あびこ」は御堂筋線単独の駅ですが、「なんば」と「なかもず」は御堂筋線をはじめ複数の路線が接続しており、たとえば南海高野線の駅は「中百舌鳥」と漢字表記です。じつは大阪メトロの3駅も、届出上は「難波」「我孫子」「中百舌鳥」と漢字が正式なのだとか。ひらがなで表記している理由について同社に聞きました。

――3駅はなぜ、ひらがな表記なのでしょうか?

1935(昭和10)年に現在の御堂筋線なんば駅が開業した当時は、「難波」と漢字表記でした。その後、1965(昭和40)年に現在の四つ橋線なんば駅が、御堂筋線とは独立した「なんば元町」駅として開業。そして1970(昭和45)年、千日前線の桜川~谷町九丁目間の開通にともない難波に駅を設けるにあたり、御堂筋線四つ橋線千日前線の3駅を統合することとなりました。

このとき、以前から読みにくいというお声があった「難波」の表記をひらがなにするようにしたのです。「我孫子」「中百舌鳥」は同様の理由で、それぞれ開業当初からひらがなで表記しています。

――漢字表記は使われないのでしょうか?

乗車券面には漢字が表記されます。しかし漢字が出てくるのはそれくらいで、たとえば警察に「〇〇~〇〇のあいだで事故が起きました」などと報告する際にもひらがなで伝えています。

難読でなくても… ひらがな表記が正式なケースも

南海電鉄も、難波駅の表記は正式には漢字であるものの、やはり読みにくいことから案内上は「なんば」としており、「どちらで表記いただいても間違いではありません」(南海電鉄)とのこと。一方、「中百舌鳥」は南海の駅や列車の行先表示は漢字表記ですが、同駅に接続する泉北高速鉄道の列車行先表示や、南海バスの停留所には「中もず」と書かれるなど、社によって微妙な違いがあります。

このようなケースは大阪だけではなく、北海道でも見られます。JRの札幌駅新札幌駅は漢字表記ですが、札幌市営地下鉄では「さっぽろ」「新さっぽろ」と、ひらがな表記です。

道都として多くの人が読めるであろう「札幌」ですが、札幌市交通局によると、地下鉄では「さっぽろ」と「新さっぽろ」が正式な駅名だそうです。理由は「JRさんの駅と区別するため」とのこと。

ただ、札幌市営地下鉄でJRと同名なのはほかにも、白石駅琴似駅があります。これらについては、JRの駅とは距離があり、混同しづらいことから、区別をつけていないのだそう。さっぽろ、新さっぽろはJRの駅と近接しているため、乗客がJRの駅と間違わないよう駅名を工夫したというわけです。

ちなみに大阪メトロでは、列車の行先表示にも登場する「喜連瓜破(きれうりわり)」や、「野江内代(のえうちんだい)」など、難読駅名としてしばしば取り上げられるような駅もありますが、ひらがな表記で案内されているのは先述の3駅のみ。ひらがなか漢字かは、駅が開業したその時々の時代背景などにもよるといいます。

大阪メトロ御堂筋線。終点駅名は「なかもず」とひらがな表記。写真は大阪市営地下鉄時代(2015年1月、草町義和撮影)。