アイドルグループ・関ジャニ∞の大倉忠義さんが、一部ファンの行為に対して訴えた異例の苦言が話題になりました。大倉さんは11月8日、グループのファンサイト内ブログを更新。「賛否あるであろう事をわかった上で書かせていただきます」とした上で、一部ファンが「他のファンや一般人に体当たりをする」「執ように追いかける」「カバンの中に物を入れる」「突然手をつながれる」など「常軌を逸した」行動をしていると指摘しました。

 さらに、大倉さんがプライベートで友人と食事をしている際、駅や空港などでいつも待ち構えているファンが横のテーブルにいることもあったといい、「ストーカー行為では」「もし男性が同じような行動をしていたらニュースになっているのでは」「身勝手な行動が精神的につらい」と苦しい胸の内を吐露しています。

 ジャニーズ事務所は過去にも、こうした一部ファンの過剰な行為について注意喚起をしており、ネット上では「ひどい」「怖すぎる」「こんなのファンじゃない」「明らかにストーカー」「犯罪だと思う」など、さまざまな声が上がっています。芸能人の「追っかけ」を巡る法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

ストーカー規制法違反の可能性

Q.芸能人など著名人に対する「追っかけ」について、犯罪行為となりうる基準はどのようなものでしょうか。

牧野さん「刑法(住居侵入罪、窃盗罪、器物損壊罪、親書開封罪、傷害罪、殺人罪、侮辱罪など)、軽犯罪法、ストーカー規制法、各自治体の迷惑防止条例等(規制内容はストーカー規制法とほぼ同じ)などの犯罪に該当するかどうかが基準となります。ストーカー規制法では『つきまとい等』の行為を、以下のように定義しています(2条1項各号)」

1.住居、勤務先、学校その他通常所在場所でのつきまとい、待ち伏せ、進路立ちふさがり、見張り、押しかけ、付近をみだりにうろつく
2.監視している旨の告知等
3.面会・交際・その他義務のないことを行うことの要求
4.著しく粗野な言動、著しく乱暴な言動
5.無言電話、拒絶後の連続した架電、またはファックス電子メール・インスタントメッセージ・SNS等の送信やブログ等への返信等
6.汚物・動物の死体ほかの送付等
7.名誉を害する事項の告知等
8.性的羞恥心を害する事項の告知等、性的羞恥心を害する文書、図画、電磁気的記録の媒体ほかの送付等、性的羞恥心を害する電磁気的記録ほかの送信

Q.違法性があるケースとないケースについて、具体例とともに教えてください。

牧野さん「例えば、青空駐車しているタレントの愛車を撮影することは特に犯罪にはなりません。しかし、タレントに気付いてもらおうと、生き物の死体を愛車のボンネットにのせるなどの行為は、刑法261条・器物損壊罪(3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料』にあたる可能性があります。その他、罪に問われる可能性がある迷惑行為の例として以下が挙げられます」

・自宅に勝手に侵入する…刑法130条・住居侵入罪(3年以下の懲役または10万円以下の罰金)
・暴言を吐く…刑法231条・侮辱罪(拘留または科料)
・こっそりタレントのものを盗む…刑法235条・窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)
・タレントの郵便物を盗んだり、開封したりする…刑法133条・親書開封罪(1年以下の懲役または20万円以下の罰金)
・ケガをさせてしまう…刑法204条・傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)
・タレントの住居に侵入するのに用いる道具を携帯…軽犯罪法1条(3号)(拘留または科料)
・自宅や浴室、脱衣所、トイレなどを覗(のぞ)く…軽犯罪法1条(2号)(拘留または科料)
・タレントを追いかけようと夢中で他人にぶつかる…刑法208条・暴行罪(2年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)

Q.「追っかけ」を受ける芸能人の意思表示(嫌がっていること)の有無で、違法性の基準が変わる可能性がありますか。

牧野さん「嫌がっている芸能人の意思表示とは関係なく、これらの犯罪が成立する可能性があります。ただし、嫌がっていなければ、そもそも被害届を出さないでしょうし、出したとしても示談(民事の金銭賠償)に応じて、不起訴になったり刑が軽減されたりすることはありえます」

Q.大倉さんが訴えている一部ファンの過剰な行動についてはどうでしょうか。何らかの罰則に該当する行動はありますか。

牧野さん「『執ように追いかける』行為は、ストーカー規制法第2条1項1号の『住居、勤務先、学校その他通常所在場所でのつきまとい、待ち伏せ、進路立ちふさがり、見張り、押しかけ、付近をみだりにうろつく』に該当する可能性があります」

Q.ファンの過剰な行動に対し、芸能人側は何らかの法的手段を取ることができますか。

牧野さん「『カバンの中に物を入れる』『突然手をつながれる』『プライベートで友人と食事をしている際に、横のテーブルにいる』行為については、犯罪行為に該当する可能性が低いですが、民事上の不法行為により精神的損害を被ったとして、慰謝料(状況によりますが数万~数十万円前後)を請求できる可能性があります。

ストーカー規制法に基づき、公安委員会(警察署)に『禁止命令』『退去命令』(退去しない場合)を出してもらうことも可能です。禁止命令が出される前にストーカー行為を行った者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。他方、禁止命令が出た場合、それに違反してストーカー行為を行った者は刑が重くなり、2年以下の懲役または200万円以下の罰金となります」

Q.芸能人のファンの「追っかけ」行為に関して、過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「2014年に行われたAKB48の握手会で、メンバー2人と彼女たちを守ろうとした男性スタッフが、男性に切りつけられた事件がありました。男性は『多額の収入があるAKBは、収入も職もないつまらない自分と正反対』という不満を解消するために犯行を思い立ったという身勝手な事件でした。男性には殺人未遂で懲役6年の判決が下されました。

2005年には、シンガー・ソングライターの鬼束ちひろさんが住むマンションに、花束を持って30分近くインターホンを鳴らし続ける男性が現れ、警視庁渋谷署に『住居侵入罪及びストーカー規制法違反容疑』で逮捕されています。また、歌手の美空ひばりさんも、心ないファンから塩酸をかけられた事件がありました」

オトナンサー編集部

芸能人へのつきまといや待ち伏せ行為が犯罪になることも…