裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第16回!

法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!

 

罪名 麻薬及び向精神薬取締法違反

被告人 29歳モデルの男性

 

事件は今年の9月1日未明。

被告人は港区六本木で、コカインまたはコカインを含有する粉末を吸引して使用。

さらに、コカインを含有する粉末0.047gを所持したというもの。

 

検察官の冒頭陳述によると、被告人はイギリス国籍の外国人。

 

本国では大学を中退して調理師になり、その後モデルとして活躍していたが、今年の7月3日に来日。

 

日本でもモデルとして働いていたとのこと。

 

そして、犯行前日の8月31日

 

被告人は友人と六本木の飲食店で飲酒。

 

友人と別れ、六本木の路上で売人から、チャックつきビニール袋に入ったコカイン1袋を1万円で購入したらしい。

 

そして、被告人は近くの公園へ行き、コカインを吸引。

 

1人で歩いていると、午前1時過ぎに警察に声をかけられ、職務質問を受けたと。

 

その職質中に被告人がチャックつきビニール袋を落としたのを警官が見て、警察署で尿検査を行うよう伝えたが、被告人が拒否。

 

一旦、被告人は自宅に戻ったが、警官は令状を取ってから強制的に被告人の尿を採取し、陽性反応が出たので逮捕という流れになります。

 

警察から尿検査をお願いされた経験がないから知らなかったけど、拒んだ上に家に帰ったりできるんですね。

 

てっきり、「とりあえずここだと人通りもあるから署に移動しましょう」とか何とか言って強引に進められるのものだと思ってたわ。

 

否認してる薬物の裁判での知識しかないもので……。

 

取調べに対して被告人は、

 

被告人

2016年にイギリスコカインを鼻から吸ったことがある。そのときはお喋りがはずみ恍惚感があった

 

と、本国にいた2年前に使用経験があると述べ、

 

被告人

8月31日は午後10時から友人とお酒を飲んだ。お店を出て、友人と別れて、六本木を歩いていると、知らない男から、“コカイン買わないか?”と声をかけられ、久しぶりにやりたくなり、購入した。人のいない路地に入り、コカインを鼻から吸った

 

と、入手した経緯についても詳細に答えたようです。

 

違法薬物を購入・使用してる人の肩を持つ気はないけど

 

夜10時から友人と飲酒して

その夜にコカインを入手して

午前1時職務質問受ける

 

って、狙われてたんじゃないかって位に“出来過ぎ”な話だよなぁ。

 

被告人目線だと不運というか。

 

そして、被告人質問。

 

実際は被告人が日本語を全く話すことができないので、間に英語の法廷通訳人が入ってるけど省略で。

 

弁護人

日本に来たのは初めてですか?

 

被告人

はい

 

弁護人

ビジネスビザで来日したと?

 

被告人

はい

 

 

弁護人

ちゃんと仕事してましたか?

 

被告人

はい

 

弁護人

どんな仕事ですか?

 

被告人

モデルです

 

 

 

弁護人

モデルって言ってもいろいろあると思うんだけど、洋服着てランウェイ歩くとか、ファッション誌で写真を撮られるとか。どんなモデルですか?

 

被告人

写真です。雑誌とか、アパレル系の会社とかの

 

個人的にファッション関係がかなり疎いもんで、被告人を知らないんだけど、その業界では知られた存在なのかもしれませんね。

 

弁護人

調書には、“イギリスで2年前にコカインを使った”と書いてあるけど、これは被告人が言わなければ知り得ない話ですよ。反省心から自分で喋ったんですか?

 

被告人

はい。真実を伝えたかったので

 

弁護人

コカインの使用は本件を除くと1回だけですか?

 

被告人

2016年の初めて使った日に何度かやりましたが、そのときだけです

 

 

 

と、依存症はないとアピール。

 

弁護人

この日、あなたから売人に声をかけたり、探し回ったりしました?

 

証人

いや、向こうから話しかけてきました

 

弁護人

警察で防犯カメラの映像を見せられて、この黒人の男が売人だという話もしましたね?

 

被告人

はい

 

 

防犯カメラに密売人が映っちゃってんのかよ。

 

被告人が警察に伝えたことで逮捕されてるかもしれませんね。

 

次は、検察官からの質問。

 

検察官

声かけられて、なんで使おうと思ったんですか?

 

被告人

わかりません。酒を飲んでいたこともあって、イエスと言ってしまいました

 

検察官

違法ってわかってました?

 

被告人

はい。でもここまで厳しいとは……

 

正式裁判を受けるとか、大事になるという認識はなかったようです。

 

検察官

取り調べだと、“午前1時頃にコカインを使用”って言ってて、警察官は“午前1時職務質問”って言ってるんだけど、実際はどういう時系列なの?

 

これが事実なら、職質受けながらコカイン吸ってることになっちゃいますからね。

 

被告人

午前0時過ぎに購入して、使ったのが0時30分くらいだと記憶しています

 

とのこと。ってことは、購入して1時間後に警察から声かけられてるんですよね。

 

もしかして、警察は密売人の存在は知ってて、コカインを購入した被告人のあとをつけてた説ってのもあるのかね。

 

あくまで私の妄想ですが。

 

検察官

コカイン以外の違法薬物、覚せい剤とか、大麻とか……まぁ、大麻は日本では所持が禁止なんですけど、他も含めて2度と使いませんね?

 

被告人

もちろんです

 

と、再犯しないことを誓って質問終了。

 

最後は裁判官から。

 

裁判官

機会があれば使いたいと思ってました?

 

被告人

いいえ

 

裁判官

酔っていたから、つい買ってしまったの?

 

被告人

その通りです

 

裁判官

あなたの言う黒人の男、はじめて会った人だったんですか?

 

被告人

はい

 

裁判官

購入したものに混ぜ物がしてあったりしたら、体に悪いってわかります?

 

 

ここで通訳人が何度か通訳をやり直すも、

 

被告人

質問がわかりません

 

と、伝わっていない様子。確かに定番の質問じゃないしね。

 

裁判官

コカインが体に悪いのはわかるよね?

 

被告人

はい

 

裁判官

見知らぬ人から買った物を体に入れるのが危険だと言いたいんです。あなたの健康を守る意味でもやらないでください

 

 

被告人

はい。今日学びました

 

と、違法薬物の効果以外の危険性を認識させたところで質問終了。

 

この後、検察官が懲役1年6月を求刑、コカイン1袋を没収して閉廷でした。

 

──もし、この裁判がフィクションだったとして。

私は被告人の言葉に対して──

 

密売人だったら不純物入ってる扱いされて怒るかなぁ。

ま、10月22日に実際に行われた裁判なのだが

 

 

 

 

 

 

 

阿曽山大噴火の裁判妙ちきりん 第16回 ~外国人モデルの一夜の過ち〜