11月9日に放送された『大恋愛〜僕を忘れる君と』TBS系)の第5話。

ムロが別れを切り出した男ならではの理由
このドラマは、サンドウィッチマンの富澤たけし扮する木村明男がいい。木村は男の気持ちを代弁する側での道しるべのような存在だ。

間宮真司(ムロツヨシ)から別れを告げられた北澤尚(戸田恵梨香)は、真司の職場を訪れた。アパートに帰らない真司の居所を尚は掴めないでいる。別れの理由がわからない尚に木村は持論を語った。
「20年前の小説を暗唱までするあんたが何もかも捨てて自分のとこ来てさ、それって男にとっちゃ相当重いからさ。受け止めきれなくて、だんだん自信がなくなっちゃったってことはあるかもしれないな」
「だって、あいつの取り柄って優しさと面白さだけだろ」

木村は核心を突いている。
尚 私は優しくて面白ければそれだけでいいのに。
木村 だから、男はそれじゃ嫌なんだって。

その夜、真司は小説の続きを書いた。
「動くと静電気を発する安物の毛布にくるまって眠っている彼女の華奢な背中に俺は幾度も問い掛けた。甘いことはいくらも言える。心から言える。だけど、金はない。言葉みたいに出てこない。こんな俺にお前は何ができると思っているんだ。本当に俺でいいのか? 大事な時間を無駄遣いしているかもしれないぞ」

真司は身を引き、井原侑市(松岡昌宏)に尚を支えてもらいたかった。自分は親がいない孤児院育ち。2作目の小説は惨敗し、今はアルバイトで生計を立てている。お金はなく、体力も衰えた。「優しくて面白い」だけの自分に不安になるのだ。

初めて侑市と会った時の真司の顔はすごかった。社会的地位もだが、侑市の外見が劣等感を刺激する。コンプレックスの塊の表情になっていた。
いくら引っ越し屋のシフトを増やし、部屋をピカピカに掃除しても、屈託なく「せま〜い!」と笑顔を見せる尚。「優しくて面白ければそれだけでいい」なんて、とても思えない。こんな俺にお前は何ができると思っているんだ。本当に俺でいいのか? 大事な時間を無駄遣いしているかもしれないぞ。真司が別れを切り出した理由が痛いほどわかる。

尚と別れた真司は小説でヒットを飛ばした。社会的な成功をおさめるための9ヶ月がなければ、プロポーズなんてとてもできなかったはずだ。どうにも、厄介で面倒くさい。自信が持てずに姿を消した真司。自分がいなくなれば侑市が支えてくれると都合よく考えていた。ひどい理屈である。しかし、尚を愛していることは間違いない。

真司のいない9ヶ月こそ、尚にとっての砂漠だった。自殺もしかねない状態で、尚は真司の新作を発見する。『脳みそとアップルパイ』は私小説だ。読み終えた尚は、別れを切り出された理由がようやくわかったのではないか。

侑市の計らいで、尚と真司は例の居酒屋で再会した。日本有数の精神科医でも手立てがなかった尚に笑顔を取り戻したのは、やはり真司。尚にとっては、優しくて面白ければそれだけでよかった。

まだ最終回ではない
侑市とのやり取りで尚の気持ちを再確認できた真司は、尚にプロポーズをした。

尚 名前間違えちゃうけど……いい?
真司 いいよ。
尚 鍵差しっぱなしにしちゃうけど、いい?
真司 いいよ。
尚 黒酢はちみつドリンク何度も注文しちゃうけど、いい?
真司 いいよ。
尚 いつか、真司のこと忘れちゃうけど、いい?
真司 いいよ。

最後、「真司のこと忘れちゃうけど」と問われたときだけ、泣き顔になった真司。本当に覚悟したからこそだ。いくらなんでも、もう逃げない。

木村を牧師にして、結婚式を挙げた2人。映画なら、ここがエンディングでいい。でも、『大恋愛』はここからが長い。今夜より突入の第2章からがメインである。この先の2人を思うと、ちょっとだけ悲しくなってくるのだ。
(寺西ジャジューカ)

金曜ドラマ『大恋愛〜僕を忘れる君と』
脚本:大石静
音楽:河野伸
主題歌:back number「オールドファッション」
プロデューサー:宮崎真佐子、佐藤敦司
演出:金子文紀、岡本伸吾、棚澤孝義
製作:ドリマックステレビジョン、TBS
※各話、放送後にParaviにて配信中

イラスト/Morimori no moRi