未曾有の巨大地震が東日本を襲った翌日の2011年3月12日午後、東京電力福島第一原子力発電所で爆発が起き、住民の避難範囲が拡大されるなど、予断を許さない状況が続いている。筆者(上出義樹)はフリーランス記者として日ごろ、外務省などと併せ経済産業省をカバーし、経産省原子力安全・保安院東京電力の記者会見に連日参加しているが、同じ地震関連会見でも、官邸で開かれる官房長官と首相の会見は、フリー記者やネットメディアを完全に排除。最近の記者会見オープン化の風潮に水を差すような官邸と官邸記者クラブの閉鎖性を露呈させている。

 中央省庁の記者会見は、民主党政権誕生直後の2009年9月の岡田克也外相(現民主党幹事長)会見を皮切りに順次、「オープン化」。現在、菅内閣の閣僚18人のうち、防衛相と国家公安委員長警察庁)の2閣僚の会見を除き、菅首相や枝野官房長官を含め16閣僚の会見にフリー・雑誌・ネットメディアの記者らの参加が認められている。このうち、毎日開かれている官房長官会見の「オープン化」は官邸記者クラブの抵抗などでなかなか実現せず、今年2月になってやっと実現したが、フリー記者らの参加は原則として金曜日の夕方だけに限られている。

 首相以外の他の「オープン」会見が毎週火曜と金曜の閣議後の大臣会見がすべて対象になっているのに比べ、もともと「オープン」度は低いが、今回の地震発生後は、記者クラブ会員以外のフリー記者らを、やはり金曜夕方以外はシャットアウトしている。

 このため、記者会見の完全オープン化を目指してジャーナリストの上杉隆さんや江川紹子さんら約20人で設立準備中の「自由報道協会」(仮称)が、枝野官房長官に緊急要請。「被災地や避難所ではテレビや新聞にアクセスしにくい。ネットを含むあらゆるメディアが適切に情報発信できるかどうかは、人命にかかわる問題」とし、同協会会員のうち、最低でもニコニコ動画の会見参加を申し入れている。しかし、官邸はこの要請を拒否し、官邸記者クラブもこれを黙認しているという。

■ 多様な情報へのアクセス奪うフリー記者やネットメディアの排除

 フェイスブックやツイッターなどのソーシャル・メディアが大きな社会的パワーになっているのは、エジプトなどでも実証済み。枝野長官も地震後の一連の会見で、被災者に必要な情報を届けることの大切さをしばしば強調しているが、ネットメディアなどの会見参加拒否は、被災者らが多様な情報にアクセスする道を自ら閉ざしている形だ。

 一方、経産省で開かれる原発関連会見は、専門知識豊富なジャーナリストや、動画撮影のネットメディアも自由に参加しているが、世界が注目する重大問題を巡り真剣で熱い質疑が行われている以外、何の問題も起きていない。なぜ、官邸で同じことができないのか。

 「非常時」だからこそ、フリー記者やネットも含めたメディアの壮大な共同作業が必要ではないのか。極端な言い方になるが、記者クラブ限定の官邸記者会見は、国民の「知る権利」の視点からは、戦時下の言論統制とも重なることに、関係者は気が付くべきだろう。

(上出義樹)

<筆者プロフィール>
北海道新聞シンガポール特派員や編集委員などを担当。現在フリーランス記者。上智大大学院(新聞学専攻)在学中。

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