皆さんは「ヒッコリーゴルフ」をご存じでしょうか?

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 ヒッコリーとはクルミの木のこと。つまりヒッコリーゴルフは、クルミ材をシャフトの素材として使ったクラブで行うゴルフのことです。スチール製のシャフトが登場する1930年代まで、ゴルフクラブのシャフトと言えばヒッコリーでした。つまり、ヒッコリーゴルフは、100年ほど前のゴルファーが楽しんでいた世界を追体験できる競技なのです。

ゴルフ人口の減少が伝えられる一方で、いま、現代ゴルフからヒッコリーに回帰するゴルファーがじわじわ増えているのです。

 と説明させていただいた私自身、ヒッコリーゴルフ歴はたった9か月しかありません。ところがこの2018年10月、ひょんなことから出場したヒッコリーゴルフの世界大会で、なんと団体優勝を果たしてしまいました。

 そんな経験を持つ私が、ヒッコリーゴルフの魅力についてお伝えしたいと思います。

ニッカボッカーズにハイソックス

 私とヒッコリーゴルフとの出会いは今年(2018年)の2月のことです。たまたま立ち寄った軽井沢の「The Hickory Golf Shop」で見かけたヒッコリーゴルフのセットの美しさに思わず一目惚れしてしまい、衝動買いしてしまったのがきっかけでした。今でも米国や、英国セント・アンドリューズの地に工房が残っており、当時のリメイク版として生産されています。

 そのクラブを手に初めてラウンドしたのは3月の末、千葉県にある東京ベイサイドゴルフコースでした。ウェアはもちろん、ニッカボッカーズ。かつてゴルフウェアと言えば、裾がプレーの邪魔にならないニッカボッカーズハイソックスというスタイルが主流でした。ヒッコリーゴルフでは、そうしたオールドファッションに身を包んでプレーするのが習わしなのです。

 10代のころからクラブを握り、ゴルフ歴は26年になる私ですが、ヒッコリーのクラブでプレーするのはもちろん初めて。やってみると、これはもう戸惑いの連続でした。

 そもそも現代ゴルフでは、通常12~14本のクラブセットを用いてプレーしますが、これがヒッコリーになるとウッドアイアン、パターを入れて全部で7本、多くて10本です。しかもそれぞれのクラブは、番手ではなく、MASHIEや、NIBLICKといった名称で呼ばれるもの。慣れるまでは、どうしてもクラブ選択に迷います。キャディーさんも初めて見るクラブセットに驚いている様子でした。

 現代ゴルフともっとも違いを感じるクラブはドライバーでしょう。ドライバーはヒッコリーのシャフトにパーシモン(柿の木)のヘッドです(アイアンのヘッドは金属製)。シャフトの硬さは気の材質や太さで調節することが出来ますが、しなりやすいヒッコリークラブをフルスイングして安定した打球を打つのは相当に困難です。

 モダンクラブはスイートスポットが広いので、多少、芯を外しても方向や飛距離は一定に保たれるのですが、スイートスポットが小さいヒッコリークラブは、少しでも芯を外してしまうと距離を大きくロスしてしまうのです。

 またヒッコリーゴルフで使うボールは、ウレタンなどの樹脂を何層にも重ねて作られている現在のようなものではなく、糸ゴムを巻いた「糸巻きのボール」。ヒッコリー愛好家のために作られた特別なボールを使ってプレーします。通常のボールを使うと、その硬さからクラブヘッドを痛めてしまう危険があります。(昔、パーシモンを使われていた方には分かるかと思いますが、いわゆる「天ぷらマーク」です)

 それだけでなく、ボールを現代の物にしてしまうと過去のプレーヤーとのスコアの比較が成立しなくなります。私は、100年前のコースレコードと比較するのを密かな楽しみとしています。

ヒッコリーだからこそ感じられる名門コースの味わい

 私も初ラウンドのときには、いったい何ヤード飛ぶのか見当もつかず、悩みっぱなしでした。ドライバーの飛距離については、モダンクラブだと260yくらいは飛んでいたものが、200yほどしか飛ばないのです。その結果、モダンクラブではあまり使わないロングアイアンを「これでもか!」というほど打たされて大変でした。

 ところが、です。この日のラウンドは、それまでに感じたことのない楽しさを味わうことが出来たのです。クラブの芯を外せば簡単に飛距離が落ちるし、パターの使い勝手もだいぶ違うなど、細かな難しさはたくさんあったのですが、ゴルフを始めた頃のチャレンジする気持ちが沸き起こったのです。それ以降、私のゴルフはヒッコリーがメインになって行きました。

 ヒッコリーでのプレーを重ねていくと、もう一つ重要なことに気が付きました。100年近い歴史を持つようなゴルフ場(必然的に、名門ゴルフ場と呼ばれるところです)は、現代のゴルファーにとって憧れの場所だと思います。

 ただ、それらのコースはよくよく考えてみれば、ヒッコリーゴルフの時代に設計されたものなのです。ですから飛距離が出やすいモダンクラブでプレーすると、憧れだったはずのコースが「なんだか物足りないな」と感じてしまうことがあるはずです。それもそのはずです。ヒッコリーのクラブでプレーするのに適したコース距離や、グリーンやバンカーの配置になっているからです。つまりせっかくの歴史と伝統を持つ名門コースに繰り出しても、モダンクラブを使ったゴルフだと、そのコースの本当の魅力を味わえずに終わってしまうことも珍しくありません。

 それがヒッコリーのクラブを使うと、コース設計者の意図を感じながら、「じゃあ、ここはこう攻めてみようか」なんていう楽しみ方もできるのです。プレーを通じて100年前のコース設計者との“会話”することができるのです。

 こうしてヒッコリーゴルフの魅力にハマってしまった私ですが、4月27日にヒッコリーゴルフの「日本オープン」が開催されること、そして申し込めば自分もそこに参加できることを知りました。

 もちろん、すぐに出場の手続きを取りました。モダンゴルフの日本オープンに参加するのは私の実力では無理な話ですが、ヒッコリーではそれが出来てしまうのです。しかも会場となるコースは、日本最古のゴルフ場・神戸ゴルフ倶楽部です。ヒッコリーゴルフにこれほどふさわしいコースはありません。結果はグロスで2位。日本オープンで2位です。こんな経験は、ヒッコリーゴルフだからできたものでした。 

エイプリルフールのジョークが現実に

 実はこれに先立つ4月1日、そうエイプリルフールの日に、私はフェイスブックで「今年の全英ヒッコリーオープンに出場することになった」と書き込んでいました。もちろん完全なジョークです。

 ところがその後、10月にスコットランドで「世界ヒッコリーゴルフオープン」が開催されていることを知りました。しかも手続きさえすれば自分も参加できると知ったのです。まさに瓢箪から駒嘘から出た実まこと)、です。こうして、ヒッコリーゴルフを初めてわずか8か月で、私は世界オープンに参加することになったのです。

 私が参加したのは3人制の団体戦。チームメイトは、私がヒッコリーの世界に引き込んだ大阪在住の若松さんと、「The Hickory Golf Shop」オーナーアレックス氏の紹介で知り合った名古屋の福本さんです。福本さんは、スコットランドに向けて飛び立つ成田空港で初めてお会いしましたが、すぐに打ち解けることが出来ました。

 さて実際の大会の様子ですが、勝負の山場はいくつもありました。3選手が、それぞれ勝負どころのショットやパターを決め、ノーボギーで毎ホールポイントを稼ぎ続けたことが好成績につながりました。

 チーム戦では、自分がミスショットするとすぐにパートナーに頼ってしまいたくなるのですが、その点、今回のチームメンバーは「ごめん!頼んだ!」がなかったように思います。3人共、他の誰かにプレッシャーがかからないよう、自分が1打でも少なく上がることに集中していました。だからお互いの会話も「今のショットは良かった」「さっきのホール、よく決めたよね」「1番ホールのパーは凄いよ」という具合に、お互いに励まし合うような内容だったように記憶しています。

  ただし勝負の行方は最後の最後までもつれました。終わってみれば、2位と1打差の優勝です。1つでも落としていたら優勝はありませんでした。17番、18番での神がかり的なパッティングがあったからこその勝利でした。

 それにしても、つい8か月前までは全く触れたこともなかったヒッコリーゴルフで、世界一になってしまったのですから、人生、何が起こるかわからないものです。

 今回われわれのチームは運よく優勝することが出来ましたが、ヒッコリーの魅力はゲームの内容だけではありません。道具からウェアまで100年近く前のスタイルで統一し、クラシカルな雰囲気の中でするゴルフは、これまで体験してきたモダンゴルフとはまったく違う世界観を体験させてくれます。ヒッコリーゴルフ時代の名ゴルファー、ボビー・ジョーンズの世界にタイムスリップしたような感覚です。大会に参加する人、みんながそういう気持ちを持っていますから、プレー後のクラブハウスでは互いのフェアプレーを称え合う空気に満ち溢れていて、非常に居心地がいいのです。

 また、意外にもモダンゴルフの技術はヒッコリーのクラブでも十分通用します。飛距離が落ちたり、スイートスポットが小さかったりと、最初は戸惑うこともあると思いますが、逆に言えば、道具の優劣ではなく、技術の優劣で勝負が決まる競技なのです。私がヒッコリーゴルフに出会うきっかけとなった「The Hickory Golf Shop(https://hickorygolf.jp)」では、ヒッコリーのクラブセットをレンタルして参加できるイベントも定期的に開催されていますので、興味を持たれた方にはぜひ一度試していただきたいと思います。きっと、これまで知らなかったゴルフの魅力を感じられるはずです。

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