「僕らの世代って、生まれたときからすでにスタイルも表現も出尽くしているんです」。悲観するでもなく、どこか楽しげな表情さえ浮かべ、現在21歳の村上虹郎はそう語る。「だから、自分らしさで戦うしかないし、僕は、その“先”に行きたい」とも。映画『銃』は、そんな彼の映画への、表現への情熱が詰まった映画となった。本作を「昭和の映画屋の映画」と語る村上に本作に込めた思いを聞いた。

【写真】映画『銃』村上虹郎インタビューカット

 芥川賞作家・中村文則のデビュー作を『百円の恋』の武正晴監督が映画化。ある雨の日に1丁の拳銃を拾ったことで、危険な妄想にとらわれ、現実を踏み外していく大学生の姿を描き出す。

 映画『GONIN』『ソナチネ』などの名作を送り出してきたプロデューサー奥山和由が本作の映画化にあたり主演は「どうしても彼でなければ」と白羽の矢を立てたのが村上だった。「中村さんの原作は以前から持っていたんです。初めて舞台(2015年に出演した『書を捨てよ町へ出よう』)に出演した際に、共演者の方に『虹郎にやってほしい本がある』と教えてもらったのがこの『銃』だったんです。その後、東京国際映画祭で奥山さんに初めてお会いして、そのすぐ後に今回のお話をいただいたんです。だから、僕にとっても運命を感じた作品でした」。

 自身では、主人公のトオルと近い部分を感じているのか? 「読んでみて、確かにトオルと身体的なシンクロを感じるところがありました。僕は決して表面的に生きているというわけじゃないですが、撮影で共演者に見せる顔、家族に見せる顔、取材で見せる顔とそれぞれ異なるわけです。それは誰しも同じで、人は多面性を持って、常に誰かを“演じて”生きている。トオルもその延長上にいるんだと思います」と語る。

 その中で、特に「演じる」ことを仕事とする以上、さまざまなイメージで見られることになる。特に“2世俳優”としてこの世界にいればなおさらだ(ちなみに本作でもラストの重要なシーンで父・村上淳と共演している)。だが「個人として誤解されることに抵抗はありますけど、この世界にいる以上、誤解も楽しまなきゃしょうがない」と笑う。「僕、(範馬勇次郎と息子・範馬刃牙親子が登場する漫画)『グラップラー刃牙』とか(うずまきナルトと息子・うずまきボルト親子が登場する漫画)『BORUTO』を読むと、共感しちゃうんです。どんなに頑張っても“2世”だから、なかなかカッコよく見えない(苦笑)。でも『俺は俺』でやるしかないんだなって」。

 戦う相手は父というよりも、上の世代そのもの。「僕らは、それこそAIに支配されるギリギリ前の時代を必死に生きてる世代。何をやっても、上の人たちがやってきたことのまね事のまね事のまね事にすぎないかもしれないけれど、その“先”に行きたい。少し前にあるベテランの俳優さんとご一緒したときに言われたんです。『俺らの世代はバカな映画屋なんだよ。それに比べて村上虹郎たちは最初から“大人”だからな』って(笑)。そりゃ、しょうがない。同じように“バカ”であることをまねしたって勝てないんだから!」。

 リアリストを自認しつつ「映画に出るってそもそもロマンチストでしょ?(笑)」とも。たしかにどこか昭和の匂いがする白黒で作られたこの映画に出ること自体、ロマンチストでなくてはできない。「僕は何かに“なりたい”というより、先の先の先が見たい。(米アカデミー主演男優賞3度受賞の)ダニエル・デイ=ルイスは3度引退していますが、引退の理由で『とてつもない悲しみに襲われたから』って言っていました。深いですよね。僕もいつかその景色が見たいんです」。(取材・文・写真:黒豆直樹)

 映画『銃』は公開中。

映画『銃』村上虹郎インタビューカット クランクイン!