鉄之助は明るく、鈴はより“いやらしく”

――改めて、劇場版「前篇~想道~」についての想い、感想からうかがえますか。


 僕が鉄之助を演じさせていただいたのはドラマCDからだったので、僕にとっては本作が『PEACE MAKER 鐵』として初めてのアニメーションへの参加でした。しかも劇場公開作品ということで、とても光栄でしたし、感慨深いものがありましたね。ドラマCDを経て、少しずつ少しずつ青年期の鉄之助として、作品を愛していらっしゃるみなさんに認知していただくことができたかなと思っています。この劇場版を通して、改めて『PEACE MAKER 鐵』という作品の一員にしていただけたなと感じられた「前篇」でした。公開と同時に各地で舞台挨拶もさせていただいて、作品ファンのみなさんのリアクションを直接感じることができたのも嬉しかったです。

立花
 僕もドラマCDから出演させていただいたんですが、“動く”青年期の鉄之助と鈴を早く見たい、と思っていました。アクションシーンや戦闘シーンが多いのもあって、“音”だけで表現するのがもったいないな、早く絵で見たいな、という思いが当初からあったんです。だから、非常にクオリティーの高い、動くキャラクターたちを観られるというのを知ったときはすごく嬉しかったんですが……ま、鈴としてはですね、「前篇」は出てきただけで、あまりしゃべるシーンがなかったので……(笑)。

 (笑)。「前篇」は、そうでしたね。

立花 でも、鈴たちの青年期の物語がいよいよ描かれてきたわけで、ここからまた新しい『PEACE MAKER 鐵』が映像として観られるという嬉しさがありましたね。


――おふたりが演じるキャラクターですが、ドラマCDのときから今回の「前後篇」を通して、成長や変化を感じた点はありますか。

 今、立花さんもおっしゃいましたけど、“音”だけではなく、絵がついて、動いて、というのは大きいですね。ドラマCD版「北上篇」では、鉄之助が心を閉ざしてしまったあとの描写が多かったのですが、劇場版ではいわゆる鉄之助のイメージである明るく元気な姿、エネルギーに満ちている鉄之助を演じられて、あらためてその違いを感じましたし、嬉しかったですね。「前篇」での辰之助や烝、新撰組の面々と賑やかに会話しているシーン、沙夜との恋愛……青春を描いているところなど、そういった鉄之助を演じていくことで、自分のなかで鉄之助というキャラクターがまたひとつ完成されたかなという感じはありました。

 でもこの先の展開は、原作はもちろん、史実の流れに沿って進んでいくわけで、新撰組の行く末というのは漠然とではありますが頭の中にあるので、幸せなシーンを観れば観るほど逆に切なくなるような思いもありますね。

――鈴についてはいかがですか?

立花 ドラマCDのときから鈴はダークサイドに堕ちていくので、そんなに変化はないと思っていて、“いやらしさ”だったり“暗さ”みたいなものはずっと引きずっている感じです。それを基準にしてドラマCDも今回の劇場版もやらせていただいた、というところはあります。それでも、やっぱり“絵”がつくと、よりいやらしさというか、ねちっこさみたいなものが“絵”を通して伝わってくるんですよね。なので、ドラマCDのときよりもちょっとお芝居を強調して、強めにやらせていただきました。

 まぁでも、ようやく漆塗りの頭蓋骨を見られた、というのが一番印象深いかな(笑)。今まで想像でしかなかったですから。そういうところも含めて、ドラマCDのときの感覚を保ちつつ、絵に負けないようなお芝居をやれたのかな、とは思います。





「後篇」は「お客さんを泣かせにきてるね」

――その劇場版「前篇」を経て「後篇」についての印象、見どころを教えてください。

 鉄之助にとっては、「前篇」が比較的明るくてポジティブな内容だったんですが……その最後で沙夜とすれ違う、文字通り進む方向としてもすれ違ってしまって。大きな“ズレ”というものを感じました。新撰組と世の中の“ズレ”もそうですよね。彼らがこれから時代の流れとは逆に進んでいってしまうのかと思うと……。もちろん、彼らにとってはずっと前に進んでいるわけなんですが。「後篇」の内容というのはやはり重く自分の心にのしかかってきましたし、演じてみて、あらためて胸が締めつけられるような思いがありました。

立花 そうですね……。僕は、ようやく鈴がしゃべりだしたな、というのがあって(笑)。

 それに尽きるんですね。

立花 そうです(笑)。ようやくしゃべったな、と本当に思いました。でも、物語全体を通して言うと「ああ、ここで終わるのか!」というのが率直な印象でしたね。「前篇」を観たあと、「後篇」はどこまで行くんだろう、どこで終わらせるのがちょうどいいのかな、というのは自分なりにいろいろ考えてはいたんですが、「なるほど、これは完全にお客さんを泣かせにきてるね」と思いました。ひとつの終わらせ方として、非常に心に残る、観た人の心に残る終わり方……言ってしまえば「うまいことやったな」というのは感じました。「いや、ここで終わるんだったら、続きを作ってよ」とも思いましたけどね。

 本当にそうです!

立花 「まだ先あるでしょ? 頼むよぉ」っていう(笑)。それはすごく感じました。

 観たいですよね……でも、新撰組の未来を考えると、もうつらさしかありません。

立花 つらいことしかない。つらいことしかないけど、鈴からしてみると、いや“この先”がまだあるの(笑)。

 はい。鈴は“この先”がないと……。

立花 “この先”がないと、ただの“悪い鈴”だけなんだから。

 そうですね。そもそも鉄之助と鈴は、まだ掛け合いのお芝居ができていませんから。

立花 そうなんだよ。

 そのシーンを演じるのが楽しみですし、一ファンとしても観たいですけどね、アニメでも。

立花 そう考えると、さっき梶くんが言っていた“ズレ”というのは、たぶん、すべてにおいてそうだと思うんですよ。

 全部が少しずつズレちゃっている感じがします。

立花 鉄之助と鈴もずれているし。時代と新撰組がずれて、沙夜と鉄之助もずれて。いろんな“ズレ”が見えてきて、それがドラマを生んでいくんでしょうね。ズレたまま「後篇」も終わっている。だからモヤモヤが残っている部分もあるけれど、それがまたさまざまな想いをかきたてて、次への期待につながっていく……。そういう意味で、「後篇」はいろいろな見方、楽しみ方ができる作品になったのかなと思いますね。


――今回、監督などからの要望や、印象に残るディレクションはあったんでしょうか。

 「後篇」の最後が鉄之助のナレーションで終わるんですが、そこでのしゃべり方や空気感について、色々とディスカッションさせていただいた記憶があります。一度提示したものにプラスして、「こういうニュアンスがあったほうがいいですかね」と僕からアイディアを出したり、逆に「こういう形で、もう一回やってみましょう」と提案をいただいたり。語り部としての第三者視点なのか、鉄之助としての思いが入っているのか……そこがひとつの鍵でもあります。ぜひ注目して聴いていただけるとうれしいです。これから京を離れていく新撰組ですが、鉄之助たちにしてみれば、変わらず自分たちの信じた信念、正義を貫いていくだけのこと。絶望のなかにあっても前を向いてさえいれば、まだまだ終わったわけではない、というところは意識しましたね。

――立花さんはいかがですか。

立花 そうですね、監督から「ゆったり、たっぷりやってください」というのはありましたね。「前篇」冒頭に鈴のセリフがあるんですが、最初に指定された口の動きは結構速くて、そのままでやるとキャラクターが変わってしまいそうな気がしたんです。僕が「ちょっと、鈴っぽくないですよね」と言ったら、監督が即答で「速さは完全に無視してください」と(笑)。僕のセリフにあとから絵を合わせてくれたんですね。

 嬉しいですよね、そういうのは。

立花 そう。キャラクターの気持ちを大事にしてくれるんですよね。そういう鈴らしさというか、スタッフさんと僕との話し合いが出来ていたので、「後篇」はもうちょっと色付けして「もっとねっとり、ねちっこくやってくれていいですよ」と言われたので、そういう“いやらしさ”や、そこから出てくる“怖さ”みたいなものを強調して作った気がします。

――お互いのキャラクターについて、今回とくに魅力を感じたのはどんなところでしょうか。

 僕が鉄之助を演じさせていただいてからは、基本的に“今の鈴”しか知らないというのもありますけど、今回スタジオで立花さんのお声を聞いて……鉄之助にとってその存在の大きさをあらためて感じ、余計「心に来るな」と思いました。別人のように変わってしまった鈴と、鉄之助はまだ会えていないんですよ。でも彼としては、何が何でももう一度ちゃんと向き合わなければいけないわけですし……。僕としても鈴との掛け合いは、なんとしてもやってみたいシーンなので、いつの日か演じられたら嬉しいなと思います。

――立花さんから見た鉄之助は?

立花 まあまっすぐで、純粋ですよね。やっぱりそこが一番いいところじゃないですか。鈴は完全にひねくれてますから(笑)。その実直さというのは、ほかの新撰組隊士にもなかなかないところなので、そこが鉄之助の魅力なんじゃないかなとは思います。



もしも、鉄之助と鈴の“この先”に期待するなら?

――ここからは、あくまで仮定の話なんですが、「If」(もしも)、この先のふたりを描くとしたら、どんなことを期待したいですか?

 原作の流れ等をまったく気にしなければ(笑)、それはもう仲直りしてほしいです。もう一度友だちとして、それこそ明日自分が生きていられるかわからない、誰を失うかわからない時代のなかで、少しでも早くお互いが本当にあるべき形で、子供のころのように仲の良い姿が見られるのが理想だなぁと思います。

――少年期の彼らは「島原」でじゃれあっていましたよね、小犬のように。

 そうなんですよ。大人になったふたりが、また楽しそうに話しているところを見てみたいです。

――立花さんはどうですか。

立花 もし、本当に「If」で、原作の設定も関係ないところで想像していいのであれば、とことん喧嘩してほしいです。西軍VS東軍! みたいな。

 なんですか、それ! それじゃ戦国時代みたいじゃないですか(笑)。鉄之助VS鈴!?

立花 そう、鉄之助VS鈴!

 ふたりの関係が、喧嘩で済めばいいのに、ってことですか!?

立花 まあ、そう。でも、とことん、ふたりだけでやり合ってほしい。

――喧嘩の発端は何なんですか?

立花 発端かぁ……なんだろうな……まんじゅう取っちゃったから、とか(笑)。

 そんな理由で!?(笑) 人が斬れないような柔らかい刀とかでやってくれるならいいですけど。

立花 よし、柔らかい刀と柔らかい頭蓋骨でやろう(笑)。ポコポコ殴りあうんだよ。非常に楽しい(笑)。

 いいですね(笑)。でも、本当は、リアルな“この先”も観たいですけどね。

立花 鉄之助と鈴の因縁はまさにこれからという気がするので、原作で描かれている“この先”のふたりの物語をアニメでも観たいよね。それが一番の「If」ですね。



<プロフィール>
かじ・ゆうき9月3日生まれ。東京都出身。ヴィムス所属。
たちばなしんのすけ4月26日生まれ。岐阜県出身。BLACK SHIP所属。

 発売中の『アニメディア12月号』には、こちらの記事に入っていない、「市村兄弟と烝」「鉄之助と鈴」の友情について、梶さん・立花さんに伺った内容も掲載中。秋を楽しむ3人のイラストと、「前篇」のプレイバックも掲載。そちらもぜひチェックしてほしい。


<作品情報>
◆劇場版『PEACE MAKER 鐵』後篇~友命(ユウメイ)~
2018年11月17日より全国ロードショー

◆劇場版『PEACE MAKER 鐵』前篇~想道(オモウミチ)~
Blu-ray &DVD、2018年11月28日発売。
Blu-ray:9,180円 DVD:8,100円(各税込)
発売元:株式会社フロンティアワークス
販売元:株式会社KADOKAWA

◆ストーリー
「前篇~想道(オモウミチ)~」
油小路事件で仲間を失い、大きな傷を負いながらも、新撰組は将軍・徳川慶喜に忠義を尽くそうとしていた。慶応三年、迫る新政府軍との戦に備え、新撰組は伏見奉行所へ屯所を移すことになる。新撰組隊士・市村鉄之助は、少年の頃から会いに行っていた少女・沙夜を島原に残してきてしまったことが気がかりで悩んでいたが、友人の山崎烝に背中を押され、ついに沙夜を身請けする決意をするが……。そんな二人の仲を裂くように、新撰組対新政府軍の開戦の時が迫っていた……。

「後篇~友命(ユウメイ)~」
幕府軍と新政府軍の間で鳥羽伏見の戦いが始まり、京の都は混乱を極めていた。数では圧倒する幕府軍。新撰組も土方が前線で指揮を執るなど奮戦していたが、新政府軍が用いた鉄砲により、不利な状況となり、苦戦し、次第に追い詰められていく。一方、沙夜を身請けするため奔走していた鉄之助は、すでに身請けされていたことを知る。ショックを受けながらもひたすらに沙夜を探し続けていたが、戦の状況を聞き、鉄之助は新撰組へと戻る決意をする―――。

【前篇~想道(オモウミチ)~ スタッフ】
原作:黒乃奈々絵(掲載「月刊コミック ガーデン」/WEBコミックサイト「MAGCOMI」)
監督:きみやしげる
脚本:梅原英司
キャラクターデザイン・総作画監督:小磯沙矢香
セットデザイン:岩畑剛一
美術監督:甲斐政俊
色彩設計:土居真紀子
撮影監督:佐藤光洋
編集:後藤正浩
音響監督:亀山俊樹
音楽:中西亮輔
主題歌:「Rust」ジェッジジョンソン
アニメーション制作:WHITE FOX
配給:ショウゲート
特別協力:京都市

【前篇~想道(オモウミチ)~ キャスト】
市村鉄之助:梶 裕貴(青年期) 小林由美子(少年期)
土方歳三:中田譲治
沖田総司:斎賀みつき
山崎 烝:櫻井孝宏
市村辰之助:うえだゆうじ
永倉新八:山口勝平
藤堂平助:鳥海浩輔
原田左之助:乃村健次
斉藤 一:松山鷹志
島田 魁:岩崎征実
近藤 勇:土師孝也
沙夜:高橋美佳子
大和屋 鈴:立花慎之介

劇場版『PEACE MAKER鐵』公式サイト
http://www.peacemakerk.jp/


劇場版『PEACE MAKER鐵』公式Twitter
https://twitter.com/peacemakeranime


(c)黒乃奈々絵/マッグガーデン・PEACE MAKER 鐵 製作委員会