Point
・幻覚剤の過剰摂取により、自意識が消え失せ死の体験を引き起こす「自我の死」という極限のトリップ状態がある
・麻薬使用者の間で、「自我の死」の体験報告をネットに配信することがブームになっている
・「自我の死」を経験すると、自己の人格に分離症状が起こり、二度と正常には戻れない

精神世界の探求者たちはより強力な幻覚を求めるあまり、その過程で精神を壊してしまう人が続出しています。その最たる幻覚症状が「自我の死」です。その自我の死について海外メディアViceが報じています。

近年スピリチュアル愛好家たちの間で、幻覚剤による精神トリップが人気を集めています。最初は自分が死ぬという感覚に恐怖を感じるものの、徐々にトランス状態に入り、自分という感覚の全体が消え失せ、後には何も残らないといいます。ただ、自分という存在が溶けて、宇宙の存在のすべてとつながっているという超意識を感じるのです。

アイダホに住む26歳のブラッドリー氏は、最初に自我の死を経験したときのことを説明しています。「それが起きたのは、マジックマッシュルームを4.5g服用した時です。消えかかっていく自分を、最初は引き戻そうとしましたがうまくいきませんでした。私が望むものをマッシュルームは知っていたのでしょう」そのときブラッドリー氏は死にゆく自分を感じると同時に、もはや自分ではない何かを感じたと言います。

自我の死には必ずしもLSDマッシュルームなどの幻覚剤は必要なく、精神的な瞑想によっても経験できるといいます。自我の死は、仏教においては「涅槃」と呼ばれ、長い間の厳しい修行によってやっと到達できる領域なのです。

それとは対照的に、誰でもすぐに自我の死を体験できる最短の近道となるのが幻覚剤です。元心理学研究者で、幻覚剤の支持者であったティモシー・リアリー氏は、自我が死滅する体験を「完全なる超越」と表現しています。「そこは言葉も、時間も空間も、そして自己すらも超越した世界。ただ純粋な超意識と恍惚な自由に包まれているだけなのです」。

リアリー氏によれば、幻覚体験には5つの段階があり、一回の投薬量を変えることで経験できる段階が変化するとのこと。最初の2段階はまだ穏やかで、短期的な記憶が失われて視覚が鮮明になっていきます。3段階目になると、より症状が強烈になり、幻覚症状が現れ始めます。そして4段階目と5段階目になると自我の死の症状があらわれるのです。

研究者たちは、自我の死は自己感覚を請け負っている脳の一部から生じていると仮定しています。幻覚剤によって研ぎ澄まされた脳はネガティブな思考パターンを中断し、新しい視点を切り開くのだと説明しています。

そして現在、幻覚剤使用者の間では自我の死の体験報告をネットで配信することが一種のブームとなっています。最近はRedditやYouTubeなどで最新の自己超越体験をアピールする人が増えており、なんと17万5千人もの視聴者を獲得しているのです。体験者の一人は「自我の死は人生の究極のゴール」であり「自我の死を経験していないと優れた精神探求者は名乗れない」と言っています。

しかし、実際どれほどの人が幻覚剤の使用によって自我の死という極限のトリップ状態になったかは定かではありません。というのも、投稿された体験報告には、大げさに誇張されたものも少なくないのです。その証拠に、研究者の調査によれば、幻覚剤の使用によって一度でも自我の死を経験してしまうと、「二度と正常な状態に戻ることはない」としています。

自我の死を体験した患者の話では、鏡の中の自分を見ても「誰であるか判別がつかなかった」とのこと。長い間じっと見つめることでやっと自分の顔を見分けることができましたが、それから何度も自分に名前を呼びかけていないと自分自身を保てなかったといいます。

幻覚剤の投与には治療目的で使用された長い歴史があり、専門家の監督のもと、うつ症状や強い強迫症などを緩和するために用いられることもあります。しかし、専門家の監督のない状況での多量服用は非常に危険です。幻覚剤によるPTSDや不安症状は一般的に知られた副作用ですが、もっとも一般的なのは異常な興奮状態を伴う人格分離症です。自我の死を経験した後、この分離症に陥ると、二度と正常な自分には戻ることができません。

 

近年、カナダで大麻が一部合法化されたというニュースもあり、社会の薬物に対する処遇はだんだん寛容になりつつあります。しかし、安易な薬物の仕様は命の危険があるばかりか、薬物のみで精神性が高まることは絶対にありません。精神探求は、日々コツコツと、自分の不安や欲求と戦っていくしか道はないのです。

 

死後の世界は「存在する」?量子力学が導くアフター・ライフの存在

 

via: vice / translated & text by くらのすけ

 

究極のトリップ体験。幻覚剤による「自我の死」がヤバすぎる 「二度と元に戻れない」