多衣「わたくし、ご主人をいただきにまいりました。6年前からご主人とは、男と女としてお付き合いさせていただいております」

11月10日(土)、土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない』(テレビ朝日系)がスタートした。
主演は、『僕のヤバイ妻』(フジテレビ系)で夫やその浮気相手と殺すか殺されるかの化かし合いをしていたヤバい木村佳乃。その木村が夫と料亭をかけて争うのが、『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)で、夫の心を繋ぎとめるために自分で自分の足に重症の怪我を負わせたヤバい水野美紀ヤバい女とヤバい女のドリームマッチだ。最高の予感。

原作は、恋愛・ミステリ小説の名手・連城三紀彦の『隠れ菊』(集英社文庫)。1996年に『ゆずれない夜』として賀来千香子主演で、2016年には原題のまま観月ありさ主演で、ドラマ化されている。

ちょっと萩原聖人が何言ってるかわかんない不倫夫に

料亭「花ずみ」の若女将・通子(木村佳乃)は、板長である夫・旬平(萩原聖人)に頼まれて東京駅に人を迎えに行った。若女将とは名ばかりで、料亭は旬平と女将代理の八重(荻野目慶子)が切り盛りしている。一代で「花ずみ」を築き上げた姑・キクが、通子を料亭に関わらせなかったのだ。

東京駅で通子に声をかけてきたのは、薄水色の着物に黒い帯を締めた矢萩酒造の女社長・多衣(水野美紀)だった。多衣は、会ったばかりの通子に「わたくし、ご主人をいただきにまいりました。6年前からご主人とは、男と女としてお付き合いさせていただいております」と言い放つ。ツヤツヤの赤いネイルと、「女」と言うときの鼻にかかった発音がいやらしい。さらに多衣は「一億払ってでも旬平さんを手に入れたい」と、鬼の表情を浮かべる。多衣は、通子に旬平がサインした離婚届渡した。

混乱している通子の前に、かつて兄のように慕っていた建設会社の社長・笠井(田中哲司)が現れる。このままでは終われないと、通子は笠井を頼って3万円を借り、初めて客として「花ずみ」を訪れた。1話が始まってここまで30分足らず、すごいスピード感

それぞれ互いに一目惚れだったと言う多衣と旬平に、通子は憤る。

通子「だいたい、あの人もあなたも一目惚れ一目惚れって。そのうえ、最初の晩は自分から誘ったって。庇い合っているわけ? 私のことなんて、一度だって庇ってくれたことないじゃない」

サインが済んだ離婚届を「ご祝儀」と言って旬平に突き出し、通子は交換条件として自分が「花ずみ」の女将になると宣言する。離婚届がご祝儀って、ちょっと言ってみたい。
しかし、それを聞いて旬平が怒りに震えだす。

旬平「俺はいま、腹を立てている。腹を立てる筋合いじゃないとわかっていて腹を立てている」

旬平は、6年間も東京と金沢を行ったり来たりして多衣と会い続けていた。亡くなった母・キクにも紹介していたという。通子に冷たく当たっていたキクは、多衣には着物の帯を譲って旬平のことまで任せていた。いや待って、本当に怒る筋合いないな!

旬平「昔の俺なんかどうだっていい。いまの俺を、妻ならいまの俺を振り返ったらどうだ」
通子「一方的に妻の座から追っ払っておいて、都合の良いときだけ妻だなんて言わないでよ」
旬平「明日の朝、これ(離婚届)を出すまでは、お前は俺の妻だ」

通子の言うとおりとしか思えないのだが、なぜか通子に対して怒り心頭の旬平。通子に「花ずみ」の様子を見せてまわる。かつて高級料亭として賑わった姿はそこにはなく、広い店内には客を迎える席すらなくなっていた。
雷が光ると、かつて繁盛していた「花ずみ」の姿が一瞬だけ亡霊のように浮かび上がり、そしてすぐに消えてしまう。実は「花ずみ」は、倒産目前まで経営状況が悪化していた。旬平は、倒産したあとの負債から通子やこどもたちを守るため偽装離婚をするつもりだったのだ。

通子「離婚届は偽装なの? あの人が愛人っていうのも嘘?」
旬平「彼女とのことは、全部本当だ」
通子「じゃあ、あの人とのことはあっても、あなたには偽装だっていう気持ちもあるっていうこと? 私やこどもたちのことを思って?」
旬平「ああ」

見ているこちらが「ちょっと何言ってるかわかんないんですけど……」と茫然としていると、すかさず通子が「馬鹿にしないでよ!」と旬平にビンタ! ほんとだよ!

「私を庇ってくれたことなんてない」という通子に、通子を庇って離婚するつもりだった旬平が怒ったというわけだ。それって庇ったうちに入るのだろうか。擁護したい気持ちも少しあるが、“昭和のオトコ”の自己満足にも思える。
ここまでの旬平は、俺の仕事の状況察してちゃん、俺が不倫しているの察してちゃん、俺が妻とこどもを思っているの察してちゃんの日本三大察してちゃん祭りで完全にダメ。早く多衣から一億円もらって別れようとしか言えない。

こどもたち、青柳翔、菅原正志と見どころ多し

通子はこれだけ酷い目に遭い、旬平やキク、「花ずみ」からものけ者にされてきたことを許せない。旬平との婚姻届を6,000万円で多衣に売りつけに、金沢まで行った。なんで一億円からディスカウントしたんだ。
果たし状のごとき婚姻届を、金沢の河原で多衣につきつける通子。河原で果たし状って決闘かよ、と思ったが、これはまさに決闘なのだろう。

離婚届は「ご祝儀」で、婚姻届は6,000万円。愛を金で買い、結婚・離婚は手段となる。不倫されて離婚して、それで終わりにできない通子の原動力はプライドだけなのか。平凡な主婦だった通子の裏の顔が早く見たい。

通子の願いを聞いて3万円を貸し、「花ずみ」を自分の名前で予約し、離婚届の証人になってくれた笠井。しかし、笠井もまた多衣と繋がっていて怖い。誰が味方で誰が敵なのかわからない不倫ミステリに、通子は足を突っ込んでいく。

ドロドロ展開に胃もたれしそうなこのドラマで、箸休めとなるのが通子のこどもたち・一希(山本直寛)と優美(井本彩花)の仲良し感。大学生の兄と高校生の妹が、二人でスイーツバイキングに行くって可愛い。優美は父・旬平の変化に気づいていたようだが、不倫のことも知っているのか。

また、「花ずみ」で働く板前の矢場(青柳翔)。偽装結婚のことも愛人のことも知っていたっぽいのに、言い争う旬平と通子、そして土下座する八重を前に、どうしたらいいかわからない風に立ち尽くしていた。身長183cmの青柳が演じる大きな矢場がオロオロしている姿に、ちょっとほのぼのしそうになる。青柳は、撮影現場で「やばとん」と呼ばれて可愛がられているそうだ。

「二人の女、二人の男、絡み合う愛と憎しみと欲望のその先にある壮絶な運命を、いまはまだ、誰も知る由もなかった」という、古めかしくも胸をワクワクさせてくれるナレーションの声の主は、声優・菅原正志。2話以降のナレーションも楽しみ。

通子は6,000万円を手にできたのか、その金で何をするつもりなのか。第2話は、今夜11時15分から放送。

(むらたえりか

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土曜ナイトドラマ『あなたには渡さない』(テレビ朝日系
2018年11月10日(土)より 毎週土曜23時15分から
原作 連城三紀彦隠れ菊」(集英社文庫刊)
出演 木村佳乃、水野美紀、田中哲司、萩原聖人、青柳翔、井本彩花山本直寛、荻野目慶子
ナレーション 菅原正志
脚本 龍居由佳里、福田卓郎
音楽 沢田完
主題歌 chay feat.Crystal Kayあなたの知らない私たち」(ワーナーミュージック・ジャパン
オープニングテーマ FAKY「Last Petal」(rhythm zone
ゼネラルプロデューサー 黒田徹也(テレビ朝日
プロデューサー 川島誠史(テレビ朝日)、清水真由美(MMJ
演出 植田尚、Yuki Saito
制作 テレビ朝日MMJ

イラスト/まつもとりえこ