フリマアプリ「メルカリ」の複数の利用者が「突然利用制限をかけられ、請求された本人確認書類を提出したが制限されたまま」「売上金が凍結状態になっていて不安」などとSNS上で訴えていた問題で、「売上金が失効した」という人が出てきました。数十万円が失効したという訴えもあります。

 メルカリは「本人確認ができて問題がなければ、失効した売上金は補填(ほてん)する」としていますが不安の声はやまず、売上金を凍結された人の一部から、メルカリを相手取った集団訴訟を呼び掛ける動きも出ています。一連の動きを巡る法的問題を弁護士に聞くとともに、集団訴訟の呼び掛け人に取材しました。

一定期間を過ぎると売上金が失効

 利用制限や売上金凍結を巡る訴えは8月上旬から急増しました。メルカリで商品を販売すると、売上金がアプリに計上されますが、90日(9月27日からは180日)を過ぎると失効する場合があり、その前にメルカリ買い物ができるポイントに変換するか、銀行へ振り込み申請をすることになっています。しかし、利用制限された人は、振り込み申請ができないまま期限が迫る不安を訴えていました。

 メルカリ幹部は11月8日の決算説明会で、「本人確認を強化している。提出書類の審査に時間がかかっているが、失効した売上金は補填する」「確認審査に3カ月以上かかり、数十万円が失効したケースもあったが、本人確認後に補填した」と話しました。しかし、利用者からの不安の声は続いています。

 売上金凍結の法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

Q.フリマアプリで一時的にせよ、売上金を出せなくなることに法的問題はないのでしょうか。

牧野さん「消費者契約法第10条に『(前略)消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする』とありますので、メルカリ運営側が決めているルールが『消費者の利益を一方的に害するもの』と裁判所が判断すると、メルカリが定めた売上金引き出しルールが無効とされる可能性があると思います」

Q.結果的に「利用者が規約に違反した」などとメルカリが判断して売上金が失効した場合、問題はないのでしょうか。

牧野さん「メルカリが決めているルールが消費者契約法第10条に違反して無効とされる可能性があると思います」

Q.凍結状態のまま90日間が過ぎ、売上金が失効した利用者はメルカリに賠償を請求できるのでしょうか。

牧野さん「メルカリのルールが消費者契約法第10条に違反して無効とされる場合には、一般の民法の規定に従うことになり、一般債権の時効10年が適用されますので、裁判上の請求を行った日から、この売上金の全額プラス利息(法定利率年5%)の請求が可能になると思います」

Q.仮に3カ月以上たって「本人確認で問題がなかった」とメルカリが判断し、利用者が売上金を手にした、あるいは補填された場合、売上金を3カ月間手にできなかったことによる賠償(利息など)は請求できるのでしょうか。

牧野さん「メルカリのルールが消費者契約法第10条に違反して無効とされる場合には、裁判上の請求を行った日から、この売上金の利息(法定利率年5%)の請求が可能となると思います」

Q.複数の利用者がこの3カ月間、メルカリに問い合わせをしても「本人確認をしています」とのみ返答され、利用制限の理由も分からず、不安を訴えていました。売上金失効の不安について慰謝料は請求できるのでしょうか。

牧野さん「この不安により精神的な病気になったことを証明することができれば、慰謝料の請求が不可能ではありませんが、認められたとしても数万円など非常に少額でしょう」

集団訴訟の呼び掛け人に聞く

 メルカリを相手取った集団訴訟を呼び掛けている、埼玉県在住の「りくっ」さんは、2017年1月からメルカリを利用。日用雑貨などを2カ月に1回程度出品し、総額4万円ほどを売り上げていたそうです。

Q.売上金が凍結になったのはいつですか。

りくっさん「2018年8月11日で9000円でした」

Q.失効した売上金がありますか。

りくっさん「10月18日に売上金振込申請期限が来て、9000円が一時失効しましたが、10月31日になって凍結が解除され、返金されました。ただ、失効した売上金の振り込み申請期限がなぜか10日間となっていて、解除後10日を過ぎたら、ポイントに換えてメルカリ買い物をするしかなくなるところでした。私は偶然、解除のメールに気付きましたが、メールに気付かない利用者もいるようです」

Q.利用制限について、何か心当たりはありますか。

りくっさん「ありません。ほとんどの被害者に共通しているのは、出品後に落札され、売上金を『出金申請』したと同時に利用制限され、凍結されている点です。理由は明かされず、『本人確認』を求められるだけです」

Q.集団訴訟の希望者は何人くらいいますか。被害の総額は。

りくっさん「一時は31人が希望し、総額約550万円でしたが、テレビ局メルカリに直接取材した翌日、8月の凍結分がほぼ全員解除され、激減しました。現在は4人ほどで、総額は200万円程度です」

Q.集団訴訟では、具体的にどのような請求をするつもりですか。

りくっさん「請求趣旨は売上金の返金及び遅延損害金請求です。100人での提訴が目標でしたが、10人程度でもやろうと考えています。地元の弁護士に依頼する予定で、被害内容などは相談済みです」

Q.メルカリ幹部は11月8日の決算説明会で、「失効した売上金は、本人確認ができて問題ないと分かれば補填する」と発言したそうです。

りくっさん「問題の本質は『いつか売上金は返還されるという事実』ではなく、『なぜ、明確な理由も示さずに売上金を凍結し、本人確認書類を複数回にわたって求めたのか。調査の期間、内容、目的の解明。本人確認書類をどう扱い、調査後、どう処理するか』などが争点です。説明会での発言は、論点のずれた無意味なもので、そもそも私たちが知りたい情報とかけ離れたものでした。

例えば『本人確認後返金する』といいますが、本人確認調査がどの程度の期間行われるかも示していないので、1年たっても3年、10年と経過しても『調査中』とされたら取得時効も成立します。せめて時限制とし、3カ月調査して結論に達しない場合はユーザーを強制退会させ、売上金も返金するというルールを設けるなどしなくては。

現行規約はメルカリの専決権が強大すぎて、ユーザーの抗弁権さえない、一方的かつ専断的で不均衡な規約です。それが諸悪の根源であると感じます」

Q.メルカリに「これだけは言いたい」ということがあれば。

りくっさん「せめて電話対応を可能にすべきです。現在の『お問い合わせ』は、質問に回答するかどうかがメルカリ側の任意で、メルカリにとって不利益な質問は黙殺するシステムが構築されています。 ユーザーの売上金を扱う一部上場企業としての自覚と責任を全く果たしていない。顧客の声、特に自社にとって耳の痛い声を封殺することは、企業倫理に反していると抗議します」

 なお、利用制限を受けた人たちの情報交換の場をツイッター上に開設している「メルカリ運営被害者の会」は、消費生活センターに相談して直接メルカリに電話をかけ、売上金失効を回避したそうです。メルカリ幹部の「補填」発言について「一切信用できません。最初からその気があれば、サポートの回答でそう伝えればよいだけです。逃げられない回答の場で思いついたでまかせにすぎません」と断じています。

メルカリ運営側の主張は?

 メルカリの運営側は、利用者の訴えをどのように受け止めているのでしょうか。オトナンサー編集部はメルカリ広報に、利用者から受け取った本人確認書類の扱いや、失効した売上金の扱いについて質問しました。この2点について、広報担当者は「お客さまの大切な個人情報として適切に扱っております」「本人確認の結果、不正な取引がないことが確認され次第、売上金は再付与しております」と回答しました。

 しかし、「売上金凍結の明確な理由の説明がないのはなぜか」「本人確認書類を複数回求めている理由」「遅延損害金請求などで提訴されたら、どう対応するか」「電話対応窓口を設けていない理由」なども同時に書面で質問しましたが、これらの問いには下記のような回答がありました。

メルカリでは、すべてのお客様に安心・安全にご利用いただけるプラットフォーム運営のため、利用規約違反や悪質な行為等を行う利用者の排除に尽力しております。その中で、以前より、登録情報や利用状況等を基に、随時お客さまにご本人確認をお願いしております。個別のアカウントの利用状況・制限の理由・本人確認の内容等については、センシティブな個人情報と関係するため、また個別で事情が異なるため、回答を控えさせていただきます」

オトナンサー編集部

集団訴訟への参加を呼び掛けるツイート(「りくっ」さんのツイッターより)