TBSの日曜劇場「下町ロケット」(夜9時〜)の第1部にあたる「ゴースト編」が先週放送の第5話をもって完結した。今夜放送の第6話からは新たに「ヤタガラス編」が始まる。

弁護士二人の仲違いに思わず笑ってしまいました
「ゴースト編」終盤は、裏切り者が続出する展開となった。まず一人目の裏切り者は、トランスミッションメーカーのギアゴーストの顧問弁護士・末長(中村梅雀)である。末長は、外資系メーカーのケーマシナリーがギアゴーストを特許侵害で訴えるにあたり、情報をケーマシナリー側に漏らしていた。第5話ではついにケーマシナリーがギアゴーストを相手取って裁判が行なわれるのだが、前回、末長の情報漏洩があきらかになった時点で、原告側の敗北はほぼ見えていた。

そもそもケーマシナリーの顧問弁護士の中川(池畑慎之介)は3年前の第1シリーズでも佃製作所を訴えて敗北を喫し、社長の佃航平(阿部寛)の手ごわさを痛感したはずなのに、彼がバックについたギアゴーストをあまりに舐めていた。せめて、中川と末長がじつは旧知の仲であることに、ギアゴースト側が感づき始めた時点で、それを察知して二人が距離を置くなり何らかの対処をしていればよかったのに。それなら、末長が中川に電話しているところを、ギアゴーストの副社長・島津(イモトアヤコ)に隠し録りされ、証拠として法廷に突きつけられることもなかったはずだが……。

とはいえ、これはほぼ原作どおりの展開である(中川が法廷で怒り狂う描写などはドラマ独自の演出だが)。視聴者としてみれば、スカッとする展開で、これぞ日曜劇場池井戸潤ドラマと思わせた。裁判後、中川と末長が仲違いする場面にいたっては、ヒール役の無様な結末として、むしろ笑ってしまった。

新天地に旅立った殿村と財前
第5話では、裁判以外にも見せ場が用意されていた。佃製作所の経理部長だった「殿さん」こと殿村(立川談春)の退職だ。

殿さんは前回、佃と約束したとおり裁判を見届けて、いよいよ新潟の実家の農業を継ぐため退職の日を迎える。その日の夕方、彼がひとり職場をあとにしようとしたところ、狭い廊下に佃以下、社員が勢ぞろいして待ち受けていた。

見送る社員たちからは、締まり屋の殿さんはなかなか経費を出してくれなかったという声が口々に上がるが、だからこそ佃製作所はこれまでやってこれたのだとあらためて彼に感謝の念が伝えられる。第1シリーズからの回想も差し挟まれ、佃製作所の社員でなくとも、これまでドラマを見続けてきた視聴者には目頭が熱くならずにはいられない場面であった。

これに先立ち、佃は社員たちとともに、ロケット開発でタッグを組んだ帝国重工の財前(吉川晃司)を誘って、殿村の実家の田んぼで稲刈りを手伝っていた。このとき財前もまた、準天頂衛星「ヤタガラス」の7号機の打ち上げを花道に、ロケット開発の一線から退き、宇宙航空部から宇宙航空企画推進グループに異動を命じられていた。すべては次期社長候補の的場(神田正輝)の差し金であったが、財前は稲刈り体験から、次の部署では「瀕死の日本の農業を救う」と決意する。果たして農業と宇宙がどう結びつくのか? 財前にはアイデアがあるらしい。

こうして殿村と財前はそれぞれ新天地に希望を見出して再出発する。いかにも第1部の終幕らしいが、これから第2部に向かうとあって、話はそれだけでは終わらない。そこでキーとなるのが二人目の裏切り者、ギアゴースト社長の伊丹(尾上菊之助)である。

伊丹の裏切りが第2部へ話をつなげる
裁判が終わってギアゴーストに対し、佃製作所が賠償金の肩代わりのため買収する必要はなくなったとはいえ、今後も両社の協力関係は続くものと思われた。それが突然、伊丹の独断で、ギアゴーストは佃製作所の商売敵である小型エンジンメーカーのダイダロスと提携することになったと、島津を通して佃たちに伝えられる。ダイダロスは裁判前、ケーマシナリーを介して伊丹に買収を打診していたが、裁判が終わった以上、こちらの話も白紙に戻ったはずなのに、一体なぜ──? そこにもまた、伊丹の古巣・帝国重工で上司だった的場の存在があった。

前回も描かれたように、ダイダロス社長の重田(古舘伊知郎)はかつて父親の経営していた帝都重工の下請け会社を、的場から契約を打ち切られたせいで倒産に追いこまれていた。失意のうちに死んだ父に代わり、従業員から非難を浴びるなど苦い経験を味わった重田は、父の隠し財産を元手に新たにダイダロスを設立、「安さは一流、技術は二流」をスローガンに顧客に食い込み、急速に業績を伸ばす。

その重田から伊丹は、帝国重工で自分を閑職に追いやったのは、じつは的場の差し金だと教えられる。かつて上司としていつも自分を買ってくれていたはずの的場が、じつは社内の“墓場”へ追放した張本人だったとは……。それを知るや、伊丹のなかに復讐心が湧きあがってきた。重田はそんな彼の心につけ入るようにあらためて買収話を持ちかけ、ともに的場に復讐しようと焚きつけたのである。

それにしても、重田を演じる古舘伊知郎の嫌らしさ、凄みにはおおーっと驚いた。「報道ステーション」のキャスター時代にたびたび世間から叩かれ、たまっていたものがここへ来て爆発したのか、それとも俳優になった息子の佑太郎に触発されたのか……なんて、ついそんな勘繰りをしてしまうほど、ヒール役がハマっている。

キャスター(古舘)と歌舞伎役者(菊之助)という異種タッグの行方は果たしていかに。それとあわせて、過去のしがらみにとらわれる伊丹と訣別し、ギアゴーストを退社した島津の今後も気になるところだ。彼女ほどの天才エンジニアなら、きっと引く手あまたではあろうが、ここは佃社長が動くのを期待したい。
(近藤正高)

※「下町ロケット」はTVerで最新回、Paraviにて全話を配信中
【原作】池井戸潤『下町ロケット ゴースト』『下町ロケット ヤタガラス』(いずれも小学館)
【脚本】丑尾健太郎
【音楽】服部隆之
【劇中歌】LIBERAリベラ)「ヘッドライト・テールライト
【ナレーション】松平定知
【プロデューサー】伊與田英徳、峠田浩
【演出】福澤克雄、田中健
【製作著作】TBS

イラスト/まつもとりえこ