(加谷 珪一:経済評論家

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 このところ大規模な配置転換に踏み切る日本企業が増えている。

 先進諸外国と比較した場合、日本企業の労働生産性は半分から3分の2程度といわれているが、生産性が低い最大の理由は、過剰雇用と硬直化した人事システムにある。働き方改革をきっかけに、いくら既存の業務プロセスを見直したところで、既存業務に過剰に人員を配置したままでは生産性は向上しない。

 大規模な配置転換は、雇用の流動化を促し、一部の社員は転職を余儀なくされるだろう。だが、社会全体で余剰人員の再配置が進めば、生産性が向上するだけでなく人手不足の解消にもつながる。この動きは避けて通れないだろう。

従来の配置転換とは大きく異なる

 富士通は2018年10月、グループ全体で5000人という大規模な配置転換を実施する計画を明らかにした。対象となるのは人事、総務、経理などの間接部門で、2020年度をメドに営業やSE(システムエンジニア)など、収益部門への異動を促すという。

 同社は通信機器事業の低迷に加え、携帯電話事業からの完全撤退、パソコン事業の売却などビジネス環境が悪化している。現在の主力事業は、政府系システムを中心とした情報システムの構築や運用だが、政府系システムには予算上の制約があるため、業績を大幅に拡大することは難しい。

 民間システムを対象とした事業にはそうした制約はないが、システムの構築・運用はどちらかというと労働集約的なビジネスであり、人員を投入しないと業績を拡大しにくい性質がある。このため同社では、余剰となっている間接部門の社員に研修を実施し、営業やコンサルタント、SEなどへの配置転換を促していくという。

 しかしながら、長年、間接部門で仕事をしてきた社員が、スムーズに営業マンやコンサルタントに転身できるとは考えにくい。同社は、どうしても新しい業務にシフトできない社員については「新しい道を切り拓いてもらった方がよい」と説明しており、事実上の転職斡旋であると受け止められている。

 現在、グループ全体で2万人が間接部門で働いているが、今回の配置転換はその4分の1を異動させるという、かなり大がかりなものである。従来の配置転換とは異なる措置といってよいだろう。

日本型人事制度は限界に達している

 似たような動きは他の業種にも見られる。通信大手のソフトバンクは2018年11月、通信事業に携わる社員約6800人を新規事業に配置転換する方針を明らかにした。既存業務をRPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)に置き換え、余剰となった人材を収益部門にシフトする。

 RPAは、既存業務を新規にシステム化するのではなく、既存システム上での操作をソフトに覚えさせ、一連の業務を自動化するという手法である。RPAを使えば、既存のシステムに大きな変更を加える必要がないので、低コストで自動化が可能だ。

 RPAを使った業務の自動化については、メガバンク3行もすでに実施を表明している。各行は昨年、大規模なリストラ計画を発表しており、三菱UFJフィナンシャル・グループは9500人分の業務量削減、三井住友フィナンシャルグループは4000人分の業務量削減、みずほフィナンシャルグループは1万9000人の人員削減を行う見込みである。

 RPAは定型業務の自動化に最も効果を発揮するが、銀行の業務や通信事業の業務は定型比率が高く、早いタイミングでの導入が決まった。だが、他業種においても業務の大半は定型的なものである。経営陣が本気で合理化を考えた場合、かなりの数の社員が配置転換の対象となるだろう。

 これまで日本企業が大規模なリストラを決断するのは、巨額損失の計上など、経営危機が発生した時だけだった。しかし富士通やメガバンク各社は、業績が伸び悩んでいるとはいえ、赤字に陥ったわけではない。ましてやソフトバンクの業績は絶好調である。

 こうした中で、各社が大規模な配置転換を実施するのは、日本型人事制度の継続がいよいよ困難になったことを示している。

配置転換は日本企業に残された最後の手段?

 日本企業の人事制度を特徴付けているのが、終身雇用年功序列であることは説明するまでもないだろう。日本型人事制度の最大の欠点は、重要ポストに就けなかった中高年社員をうまく処遇できないことだが、高度成長期であれば、事業が拡大し、たくさんのポストを作ることができたので、この問題はあまり顕在化しなかった。

 しかし、市場拡大のペースが遅くなり、新しいポストの創設が難しくなると、この制度は一気に逆回転を始めてしまう。

 こうした事態に対し、多くの日本企業では、中高年社員の待遇を維持するため、若手社員の給与体系を見直すことで総人件費の抑制を図った。これが限界に達すると今度は役職定年制度を設け、重要ポストに就けない中高年社員の年収引き下げを実施した。だが、余剰人員を抱えているという点では何も変わっていないので、依然として日本企業には過大な総人件費という問題が重くのしかかっている。

 雇用に手を付けないことを前提にした場合、大規模な人員の配置転換は、日本企業に残された最後の手段ということになるだろう。

 これまでコストでしかなかった社員を、収益の上がる部門に再配置すれば、当該社員の人件費は自らが生み出してくれる。生産性は付加価値を社員数で割って求められるが、収益部門への配置転換は、分子の拡大につながるので、全体の生産性が向上するというロジックだ。

 ただし、この理屈が成立するためには、配置転換の対象となる人材がスムーズに対応する必要がある。現実はそう簡単ではないだろう。配置転換がうまくいかない社員は、最終的に転職などの形で会社を去る可能性が高い。

外国人労働者の受け入れを巡る不都合な真実

 若年層の給与引き下げや役職定年は、あくまで雇用の維持を前提にした制度である。生産性向上を目的とした人員の配置転換も同様だが、この施策を実施した場合、現実には雇用の流動化を促す結果となるだろう。

 日本企業には、事実上、社内に仕事がない状態の社員(いわゆる社内失業者)が多数、在籍している。リクルートワークス研究所は、日本全体で約401万人の社内失業者がいると推定しており(2015年時点)、2025年には497万人に拡大すると予想している。

 今後、日本企業が本格的な人員の配置転換を進めた場合、社内失業者の何割かは確実に労働市場に出てくることになる。

 日本経済は深刻な人手不足に陥っており、安倍政権は大量の外国人労働者を受け入れる事実上の移民政策に舵を切った。初年度には4万人の新規受け入れが計画されているとの報道もあるが、実は日本国内には失業者が500万人も存在している。

 大量の社内失業者がすべて新しい仕事にシフトすれば、外国人労働者の受け入れなど必要ないというのが、偽らざる現実なのだ。

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