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Point
マーベルヒーローの「アントマン」は、質量と強さを保ったまま虫サイズに縮む能力がある
・昆虫の呼吸系を模した装置を開発、解析したところ、アントマンは深刻な酸素不足を経験することが示される
・ヘルメットに呼吸を補佐する装置を組み込むことで、問題を回避することは可能

マーベルヒーローの「アントマン」や「ワプス」は、体を虫の大きさにまで縮める能力を持っています。それでいて、質量と力は縮む前と同等であることから、スーパーパワーを発揮できるのです。しかし、この能力を科学的に本気で検証した結果、アントマンは、「酸素不足による高山病の可能性」など、重いハンデを背負っていることが分かりました。

71st Annual Meeting of the APS Division of Fluid Dynamics
http://meetings.aps.org/Meeting/DFD18/Session/E19.3

バージニア工科大学の大学院生マックス・ミケル=スティティス氏ら研究チームは、先週行われたアメリカ物理学会の流体力学部門の第71回会議で、液体のマイクロ流体技術を用いてこの問題に取り組み、発表を行いました。彼らはふだん昆虫の呼吸や体液の流れなどの生物学的流体力学の研究を行っており、今回、昆虫の呼吸系から発想を得たマイクロ流体装置を開発。これは、個別の流体経路の量や方向の調節を、弁を使うことなく行える装置です。

解析では、装置に流れる空気の密度を算出。するとその値は、アントマンにとってエベレストの高みで「デスゾーン」として知られる、酸素濃度が不十分な環境に置かれた場合に相当することが分かりました。もちろん実際の大気密度は、人間にとっても虫にとっても等しいですが、虫サイズに縮小したアントマンが経験する主観的な大気密度は下がることになります。つまり、小さなアントマンの一呼吸で吸収できる酸素の量は、圧倒的に少なくなってしまうのです。

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アントマンは小さくなってもその強さが変わらないことから、酸素の消費量も変わらないと考えられます。計算によると、アントマンは7998メートルの高山環境にいるように感じることになります。つまり、高山病にかかる恐れがあるのです。酸素を取り込むために呼吸は早くなり、肺や脳に血液が増えて、頭痛、めまいが起き、死に至る可能性もあります。

さらに、動物の大きさと代謝率が相関しているとするクライバーの法則によると、アントマンの質量あたりの代謝率は、およそ2桁増えることになります。そして、それに従って酸素の必要量も増すのです。

しかし、研究者はきちんと解決法も提示しています。温度勾配を利用した“Kundsenポンプ”と超小型のコンプレッサーアントマンのヘルメットに組み込めば、問題なく呼吸をサポートできるでしょう。

 

高山病にかかって自滅するスーパーヒーローなんてかっこ悪いですが、この研究のおかげでそれも回避できそうです。将来アントマンスーツが開発されたときのためにも、この研究は重要なものとなるでしょう。…多分。

 

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via: EurekAlert!/ translated & text by SENPAI