森保監督の就任から4勝1分と無敗継続、ウルグアイベネズエラ戦がベスト布陣

 日本代表は11月の国際親善試合でベネズエラキルギスと対戦。ベネズエラには酒井宏樹のゴールで先制も、その酒井がPKを与え1-1のドローに終わった。続くキルギス戦は、ベネズエラ戦から先発メンバー11人を総入れ替えしながらも4-0の勝利を飾った。

 これで森保ジャパンは、9月からの国際親善試合をほぼ同じようなメンバーで5試合を消化。海外組をメインにしたレギュラーチームと、国内組を多く起用したバックアッパーチームで融合と若返りを図った。そして来年1月にUAEで開催されるアジアカップで、タイトル奪還に挑む。

 その5試合から見えてきたことは、10月のウルグアイ戦(4-3)と11月のベネズエラ戦が現時点で森保ジャパンのベストメンバーということ。ベネズエラ戦は長友佑都を欠き、その穴の大きさと選手層の薄さを露呈したが、そのことについては後述しよう。

 ベネズエラ戦の前日会見で森保一監督は、記者からの「3バックは試すのか」という質問に、「はっきりとした形で3バックということは、試合の流れのなかでやっていきます。スタートのところは今まで通りやっていきます。4バックと3バックで戦い方が違うとは捉えていません。選手も自然に試合のなかで、状況を見てやっています」と、広島監督時代に採用した3バック、3-4-2-1は封印することを明言した。

 3バックを採用しているチームは、守備時には両サイドの選手がそれぞれ一列下がって5バックになることが多い。広島時代も相手ボールの時は5-4-1になるケースが多かった。しかし森保ジャパンの基本フォーメーションが4-2-3-1であることに変わりはない。

 この布陣を採用する一番の理由は、南野拓実堂安律中島翔哉ら攻撃的なタレントを同時起用するには2列目に三人を並べること。彼らを生かすパサーにはボランチに柴崎岳遠藤航青山敏弘)ら二人の選手が必要なこと。そして攻撃参加を得意とする長友佑都酒井宏樹を有効活用するには、4-2-3-1しか選択肢がなかったとも言える。

 システムありきではなく、選んだ選手の特長を生かすには、他の選択肢はなかった。そして森保監督が言っているように、青山がボランチに入った時はDFラインに落ちて両サイドバックを高い位置に押し出す3バックの形は自然とできていた。


対戦相手によって「3-4-3」にも「4-4-2」にも変化する

 さらにベネズエラ戦では新たなシステムも、偶然ではあるが発見できた。試合前日の会見で、ラファエル・ドゥダメル監督は「ベネズエラのストロングポイントは、柔軟な戦術で戦えるのが強み。日本の大きなポイントはパワフルな攻撃力です。試合開始から終わりまで高いインテンシティーを持って、最後まで戦えること」だと話していた。

 その言葉どおり、ドゥダメル監督は日本をよく研究し対策を講じてきた。ベネズエラは日本の攻撃の突破口である中島と堂安を抑えるのではなく、彼らにパスを供給する南野と柴崎、遠藤を抑えにきた。

 ベネズエラの基本フォーメーションは4-1-4-1だが、日本がボールを保持している時はアンカートマス・リンコンが南野を、4枚のMFのうちインサイドハーフジャンヘル・エレラとフニオル・モレノはそれぞれ柴崎と遠藤をマンマーク。このため両チームのシステムを記者席から俯瞰すると、4-3-3の攻防に見えたのである。

 そしてマイボールになると、DFラインでボールを回しつつ、左MFダルウィンマチスと左SBジョン・チャンセジョルが攻め上がって攻撃の起点となり、右サイドに展開して日本DF陣を崩しにかかった。

 対する日本は、相手ボールになると中島と堂安の二人が下がり、南野が前線に上がる4-4-2にシフトした。中盤はボックス型で守りを固めつつ、大迫勇也の1トップでは相手DFのパス回しにプレスがかからないため、南野を前に出してプレス要員にするシステムである。試合後の南野は「状況にもよりますが、僕が一つ落ちて(相手の)アンカーに行く時もあれば、(前で残って)2トップになることもあります。そこは臨機応変です」と話していた。

 森保ジャパンの基本システムは4-2-3-1であること。対戦相手によっては3-4-3になるケースもあれば、4-4-2にもなる。このシステムの柔軟性こそ、森保監督の目指す「選手も自然に試合のなかで、状況を見てやっています」というチーム作りの原点を確認できたベネズエラ戦でもあった。


中島、南野らが投入されてから「SBが上がる前に攻撃が完結している」

 そして先発11人を入れ替えたキルギス戦でも、攻守の状況により変化するシステムは同じだった。ただし、試合経験の違いから至るところでノッキングを起こしていたのは仕方のないことかもしれない。

 キルギスは前後半を通じて放ったシュートが2本(公式記録は1本)と、日本DF陣を脅かすシーンは皆無だった。このため守備陣を評価することに意味はない。そのうえで、チームとして機能していたのは右サイド伊東純也、室屋成、守田英正の3人による崩しと、守田と三竿健斗によるボランチコンビくらいだった。

 1トップの杉本健勇はポストプレーがままならず、攻撃の起点となることができない。原口元気カットインするものの、そこでフリーズして効果的なパスを出せないし、オーバーラップした山中亮輔を生かすこともできなかった。日本は引いて守りを固める相手に、山中の“出会い頭”のような鮮やかなシュートと、原口のFKを相手GKパベル・マティアシュ(31歳/所属クラブなし)が後ろに逸らすミスから2点を先制したが、決定機と言えるのはこの2回だけだった。

 ところが後半14分、杉本に代わり大迫勇也、三竿に代わり柴崎岳、伊東に代わり堂安律、さらに同27分に北川航也に代わり中島翔哉、原口に代わり南野拓実ピッチに立つと、俄然日本の攻撃はスピードアップ。27分に大迫が3点目を奪うと、1分後には大迫、南野、堂安とつないで最後は中島がダメ押しの4点目を奪った。

 そのシーンについて右サイドバックの室屋は、「(中島)翔哉とか(南野)拓実はゴールに向かってドリブルする選手で、シンプルに切り裂いていくので、攻撃がシンプルになった。4人で前に行ける。サイドバックが上がる前に攻撃が完結しているシーンが多かったので、バランスを見てやるしかないなと。試合をオーガナイズして、失点しないようバランスを考えた」と攻撃面の変化を語っていた。


1タッチ、2タッチのパス交換を連続させ守備側を“無力化”

 4人が絡んで決めた4点目もそうだし、ベネズエラ戦の得点も、1タッチ、2タッチのパス交換を複数の選手で連続することで、守備側の能力を“無力化”していた。彼らカルテットの攻撃力がどこまで通用するのか、アジアカップは楽しみな一方、キルギス戦を見る限り、バックアッパー組との戦力差の大きいことを改めて痛感させられた。そして長友の代わりは、右利きの佐々木翔では攻守に見劣りするだけに、アジアカップに向けては見切り発車になるという懸念材料もある。

 長友の経験値を上回る選手などいないが、彼の後継者探しも森保ジャパンにとっては急務である。森保監督は武藤嘉紀久保裕也ら、これまで呼んだことのない海外組も追跡していると言う。現在UAEへ遠征中の東京五輪組も含め、果たしてアジアカップの招集メンバーにサプライズがあるのかどうか。こちらも楽しみに待ちたい。


(六川亨 / Toru Rokukawa)

(左から)MF南野、FW大迫、MF中島、MF堂安【写真:Getty Images】