野木亜紀子脚本、新垣結衣主演の水曜ドラマ『獣になれない私たち』。5人のダメな男女が交錯しながら恋愛に喜んだり苦しんだりする“ラブかもしれないストーリー”もいよいよ後半戦。

先週放送の第6話では、自由奔放でトラブルメーカーでもある呉羽(菊地凛子)と恒星(松田龍平)の関係、いまだに宙ぶらりんのままの晶(新垣結衣)と京谷(田中圭)の関係がさらにジワッと深く描かれていた。ふたつのカップル、知れば知るほど一筋縄ではいかない。

呉羽と恒星の場合 その1
「誰が誰と何しようが、お互いに良ければ自由。だよねー、タクラマカン!」

恒星とかつて「都合の良い、名前のない関係」だった呉羽は、恒星と晶がキスをしているところを見てもあっけらかんとしたもの。呉羽の前で晶の彼氏面(づら)する恒星だが、どこか意地を張る子どものよう。呉羽が去ると、晶が楽しそうに恒星をからかう。

「恒星さんって、呉羽さんのこと、すっごい好きだよね」

屈託のない笑顔になる晶。先週までの「しあわせなら手をたたこう(パンパン)」という感じではない。暖色の光に包まれたクラフトビールバーは彼女にとって特別な空間なんだろう。

自らのブランドを立ち上げ、ショップもオープンし、寝たい男とは寝てしまう。怖いもの知らずに見える呉羽だが、不穏な噂が聞こえてきた。呉羽と夫の橘カイジは偽装結婚だと言うのだ。

噂を聞いた恒星はすぐに行動する。呉羽のショップの店員に聞き込みをすると、そこでも「偽装結婚」の言葉が。さらに呉羽が以前所属していた事務所に訴訟を起こされていたことも判明する。橘カイジと呉羽を訴えた事務所はかかわりがあるらしい。一方、橘カイジの会社と呉羽の会社は提携している。呉羽と橘カイジが結婚すれば、訴訟は取り下げられる可能性は高い。だから呉羽は橘カイジと偽装結婚をした――。

呉羽は運命の人と出会ったとき、頭の中で鐘が鳴ると言っていた。では、橘カイジとは?

「鐘は鐘でも、ベルの鐘とは限らない」
「賠償金を払うよりは結婚。マネーの鐘が鳴った。呉羽ならやりかねない」

晶と話しながら冷静に分析している恒星だが、窮地に陥っていたのに呉羽は体の関係がある恒星に相談していなかった。なんだか恒星、カッコ悪い。

「都合良く使ってるほうは気づかないんだよ。相手の気持ちを踏んづけてることに」
「挙げ句に呉羽さんは不本意な結婚をしてしまいましたとさ。あーあ」

追い打ちをかけていく晶がイキイキしている。クラフトビールバーという空間とアルコールの酔い(このときはそんなに飲んでないけど)、そして恒星との会話が晶の凍てついた心を溶かしているようだ。

恒星と呉羽の場合 その2
晶に自分の不甲斐なさを指摘された恒星は、手元にあった札束をカバンに詰めて呉羽のもとへ出向く。「不本意な結婚」をした彼女を助けるつもりだ。恒星の気持ちはいつも行動で現れる。

呉羽にはもう一つ、恒星に言っていないことがあった。子宮筋腫で子宮を全摘する手術を受けていたのだ。術後は良好で性欲もある。だが、何でも手に入ると思っていた彼女に、唯一手に入らないものができてしまった。

呉羽はやってきた晶に、恒星には言えなかった、と打ち明ける。

「恒星はきっとこう言うのよ。“子どもがつくれないから何なんだ。そんなのたいしたことじゃないだろう”って。……でも、私にとってはたいしたことだったの」

呉羽が「でも」というところがこれまでになく小声で弱々しかった。ここで呉羽が言う「たいしたこと」とは何だろう? 普通に考えれば「子どもを生むこと(生めなくなったこと)」だ。もう一つ考えられるとしたら「自分の気持ちに寄り添ってくれること」だったんじゃないだろうか。

呉羽は恒星が冷たい男だとは思っていない。「そんなのたいしたことじゃないだろう」という言葉は、呉羽を突き放すものではなく、子どもなんかいなくなってふたりで楽しく過ごしていこうという宣言だろう。だけど、そのときの呉羽が求めたものは、そうじゃなかった。結局、呉羽は恒星に自分のことを話さず、橘カイジには話していた。

「呉羽の想像どおり。だってそうだろ? 呉羽は、呉羽なんだから。じゃ、ふたりで一緒になって悲しむ? 優しく話聞いて慰める? そんな男、俺に求められてもないものはないし」
残念だったねぇ……」

ここでも晶は容赦なかった。事務所に帰った恒星は、行き場のなくなった札束をふたたび戸棚の中にしまいこむ。自分の心をしまいこむかのように。

晶と京谷の場合
第6話を見た視聴者(特に女性視聴者)からの非難を一身に浴びたのは、恒星ではなく、出番が少なかった京谷だ。

晶が務めるツクモ・クリエイトジャパンと京谷が務める樫村地所が組んで仕事をすることになった。両社の顔合わせの飲み会でまず視聴者の話題になったのは、意外や(?)晶の同僚・松任谷(伊藤沙莉)と京谷の後輩・筧(吉村界人)だった。

早々に酔っ払った筧は、なぜか女性をディスる発言を繰り返す。

ディベロッパーって言うと寄ってくるんですよね、肩書に弱い女性が」
「どんな事情で路チューすんだよ。しなきゃいけない事情ないでしょ? 隠れてやれよ。何世界に浸ってんだよ。いるんだよなぁ、そういうの喜ぶ女」

筧に敢然と反論したのが松任谷だ。

「ねぇ、それなんで女の問題になってんの?」
「え?」
「キスはふたりでするものでしょ? だいたいさ、どうして女の浮気はだらしないって言われて、男の浮気は甲斐性みたいに言われんの?」

筧のようなナチュラルになんでも女性のせいにするような男ってのはたしかにいる。京谷は筧をたしなめる側だったが、内実はそれほど変わらなかった。酒席が終わった後、恒星とキスしていた晶を非難する京谷。晶はそれに反論するが……。

「そうだよな。相手の気持ちなんかわかんないよな。晶に俺の気持ちなんかわかんないよな」
「は?」
「今の晶、可愛くない」

「可愛くない」とはなかなかパンチのある一言だ。京谷と晶の今のにっちもさっちもいかない状況をつくったのは、ひとえに元カノ・朱里(黒木華)を追い出せない京谷の優柔不断さが原因である。そういうことを全部棚に上げて、自分に逆らう晶を「可愛くない」と言い放ったのだ。視聴者のヒートを買ってしまうはずである。

京谷は自分に従順な女性を「可愛い」と思っているのだろう。そして女性には可愛くあってほしいと思っている。「男を立てて」ほしいと思っているのかもしれない。「男を立てる」なんて死語だと思っていたが、ネットを検索してみると「こんな彼女なら思わず自慢したい! 男を立てる『いい女』の特徴は」みたいな女性向けの恋愛ハウトゥー記事がいくつも出てきて驚かされた。晶は九十九(山内圭哉)の指示に従うように、京谷を立てて生きてきたのだと思う。

そういえば、京谷は第1話の冒頭、呉羽の服装を見て、「あれ、好きな男、そうそういなくない?」と晶に囁いていた。男目線で女性の行動をジャッジしていたのだ。ドラマや映画などでの第1話の最初のセリフは、その人物の性格をすべて表していることが多いが、京谷の性格はこの一言に凝縮されている。

「してもないのに、イーブンか私のほうが悪いみたいな感じで、なんで? ぜんぜん納得いかなくて! でも、言う相手もいなくて、よくよく考えたら呉羽さんが発端だから」

これは怒った晶が呉羽に言った言葉。「言う相手」は京谷だよ! と思った視聴者も少なくないはず。晶はこの期に及んでも京谷にストレートに怒りをぶつけることができない。彼女はやっぱり「獣になれない私たち」なのだなぁ。

晶と恒星の仲は進展するのだろうか? 晶と京谷の関係にケリはつくのだろうか? そしてちょろちょろ行動しはじめた朱里は何をしでかすのか? 第7話は今夜10時から。
(大山くまお

「獣になれない私たち」
水曜22:00~22:54 日本テレビ系
キャスト:新垣結衣松田龍平田中圭黒木華、菊地凛子、田中美佐子、松尾貴史、山内圭哉、犬飼貴丈、伊藤沙莉、近藤公園、一ノ瀬ワタル
脚本:野木亜紀子
演出:水田伸生
音楽:平野義久(ナチュラルナイン
主題歌:あいみょん「今夜このまま」
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:松本京子、大塚英治(ケイファクトリー)
制作著作:日本テレビ
Huluにて配信中

イラスト/まつもとりえこ