トランプ政権が軍事面における対中国強硬姿勢を鮮明にした(たとえば10月4日に行われたペンス副大統領の演説)直後、安倍首相が「中国と協調関係を構築する」と表明した。アメリカ側にとっては最も安全な(要するに何でも言いなりになる)同盟国である日本の首相がなぜそのような発言をしたのか、アメリカ側では真意を測りかねる雰囲気も生じている。

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 もちろん「どこの同盟国か分からない」と皮肉られている韓国ほどではないものの、日本政府が「あまりにも空気を読まない」対中外交を展開した事実に対する不信感が生じていることは無理もない。

 一方、日本とは対照的な動きを見せるのが台湾である。台湾は米国にとって日本や韓国のような表だった同盟国ではなく非公式同盟国であるが、トランプによる中国に対する冷戦開始という「空気を読んで」、中国に対する軍事的対抗姿勢を強化している。

アメリカから退役艦を直接輸入

 台湾海軍は11月8日、2隻のミサイルフリゲート(成功級フリゲート、FFG-1112「銘傳」、FFC-1115「逢甲」)を就役させた。もともと成功級フリゲートアメリカ海軍1977年から2015年までにわたって運用していたオリバー・ハザード・ペリー級フリゲートを基に生産された軍艦である。台湾の造船メーカーがライセンス生産する形で建造が進められ、1990年から2004年にかけて8隻が台湾海軍に引き渡された。

 台湾海軍は価格や性能などの面でドイツフリゲートを手にしたかったのだが、アメリカ海軍の退役艦を自国でのライセンス生産という形で調達した。そのような動きを探知した中国政府がドイツ政府に圧力をかけたため、ドイツからの調達が不可能になってしまったからであった。

 また、アメリカ海軍の退役艦を直接移転するという方式も、米中関係を気にするアメリカ国内勢力の存在などで、調達が難航する恐れがあった。そのため、台湾国内でのライセンス生産という手段によって、確実に近代的フリゲートを手にすることになった。このように、アメリカ側も中国に対して若干遠慮していたのが、台湾海軍フリゲートの調達であった。

 だが、今回の9番艦と10番艦の調達は、台湾でのライセンス生産ではなくアメリカからの退役艦の直接輸入という方式がとられた(ちなみにFFG-1112「銘傳」はアメリカ海軍フリゲート「テイラー」であり、FFC-1115「逢甲」はアメリカ海軍フリゲートゲイリー」であった)。

 すなわち、アメリカ側は中国に遠慮することなく中古軍艦を台湾に直接供与し始めた。台湾側も、より迅速に対中防衛態勢を強化するために、中国からのより強い反感を受けることを前提にアメリカからの直接調達に踏み切ったのである。

南沙諸島「太平島」における砲撃訓練

 台湾海軍のフリゲート調達に引き続いて、台湾沿岸警備隊も中国に対する軍事的対抗姿勢を明示する動きを示そうとしている。すなわち、南沙諸島「太平島」における砲撃訓練の実施である。

 太平島というのは、南沙諸島で唯一台湾が実効支配を続けている島嶼である。台湾は、中国、フィリピンベトナム同様に南沙諸島全体の領有権を主張している。しかしながら、台湾が実効支配を続けてきているのは太平島だけである。

 台湾当局は、2007年以来、太平島に軍用輸送機の発着が可能な滑走路を設置しており、警備隊を常駐させている。それとともに、沿岸警備隊の巡視船や補給のための民間輸送船、それに軍用輸送機などが定期的に台湾と太平島を結んでいる。

 しばしば本コラムで展開状況をアップデートしているように、現在南沙諸島には中国が7つの人工島を建設している。軍用航空施設や港湾施設をはじめとする各種軍事施設、巨大灯台や気象観測所なども設置し、少なくともそれらの人工島の実効支配態勢は確立させている。

 2014年に人工島の建設を始めるまでは、台湾、フィリピンベトナムマレーシアがそれぞれ1カ所ずつとはいうものの滑走路を設置した島嶼環礁を実効支配していた。中国はそのような島嶼環礁を有していなかった。そのため、軍事的に重要な意味を持つ滑走路という観点からは、中国による南沙諸島の実効支配態勢は後れを取っていたのだ。ところが、人工島・軍事基地群の建設という挙に出た中国は、4年も経たないうちに本格的軍用飛行場3カ所を含む7つの軍事拠点を手にしてしまい、一気にライバルたちの実効支配態勢を決定的に凌駕する強固な軍事的支配態勢を確立してしまった。

 それに対してアメリカは、トランプ政権が対中強硬姿勢に舵を切ったとはいえ、南シナ海で中国に直接軍事的圧力をかけるだけの“攻撃準備”も“補給態勢”も整っていない。そのため、南シナ海に関係する同盟友好諸国による対中対決姿勢が何よりも重要になっている。

台湾と日本の好対照の外交能力

 今年の10月下旬から11月上旬にかけて、台湾当局はこのような情勢を自国とって有利に導くため、太平島での島嶼防衛砲撃訓練を実施する予定を公表し、アメリカ海軍艦艇に太平島への寄港を打診した(あるいは「打診した」との情報をリークした)。

 当然のことながら中国当局は、“中国の海”である南シナ海の、“中国の領土”である太平島で中国海軍を打ち払う砲撃訓練を実施することに強烈に反発している。

 もしアメリカ海軍艦艇が太平島に寄港した場合、太平島の主権が台湾にあることをアメリカが公式に認めたことになる。それは中国にとっては大打撃である。

 ただしアメリカは、伝統的に第三国間の領域紛争には介入しないことを外交政策の鉄則の1つとして堅持し続けている。そのため、たとえ台湾当局が太平島への米海軍艦艇の寄港を招請したとしても、さすがのトランプ政権でもアメリカ伝統の外交鉄則から離脱することは至難の業といった状況だ。

 実際に、アメリカ軍艦の太平島寄港という“噂”はうやむやな状態になってしまった。しかしながら、台湾による一連の動きが、中国に対して若干ながらとはいえボディーブローを加えたことは間違いない。

 以上のように、トランプ政権の対中強硬姿勢への方針転換という機を捉えて、反攻態勢を強化しつつある台湾と、このタイミングで「空気」を読まずに中国との協調姿勢を打ち出して「常日頃頼り切っている」同盟国に不信の念を生じさせてしまう日本とは、好対照の外交能力を指し示しているといえよう。

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