先日、某新聞社主催イベントの申込者1900人分の個人情報を保存したノートパソコンをその新聞社の記者が紛失した、という報道がありました。個人情報は、申込者の氏名や住所、メールアドレス、生年月日など。紛失から1週間後にパソコンは見つかり、個人情報の流出による被害も確認されていないとのことですが、類似事例は頻発しています。

 個人情報流出の法的問題について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

Q.個人情報を保存したパソコンや書類を紛失した場合、法的責任を問われる可能性はありますか。

牧野さん「事業者を規制する行政法規としての個人情報保護法では、個人情報取扱事業者に取り扱う個人データの安全管理義務などの法的義務を課していますが、義務に違反しても、いきなり刑罰が課されることは原則ありません。

まず、監督官庁から是正勧告があり、それに従わない場合は行政命令が出され、さらに、行政命令に従わない場合には罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)となります。つまり、いきなりレッドカードで処罰されることにはなりません」

Q.紛失した個人情報が悪用された場合、紛失した人が罪に問われる可能性はありますか。

牧野さん「プライベートな情報を意図的にSNSで公開し、個人情報の保有者の名誉を毀損(きそん)しようとするなど、特に個人情報や個人データを意図的に流出させて損害を与えようとしない限り、犯罪に問われることはないでしょう。今回のように過失で紛失した場合、罪に問われる可能性はないと思います」

Q.紛失した個人情報が悪用された場合、個人情報の当事者は、紛失した人に損害賠償などを請求できますか。

牧野さん「紛失した個人情報が悪用されて損害が発生した場合、紛失した人やその人が所属する会社などの組織は、民法の不法行為(709条)に基づく損害賠償責任を問われる可能性はあります。ただし、個人情報や個人データの流出による損害が通常予見できる、という因果関係が必要です」

Q.損害賠償請求は、相当の時間が空いた場合でも可能なのでしょうか。

牧野さん「被害者からの損害賠償請求権は、加害者と損害を知ってから3年経過すると、時効により消滅します。損害に気付かなかった場合でも、当該不法行為から20年間経過すると消滅します」

Q.紛失した個人情報が悪用されなかった場合でも、個人情報の当事者は慰謝料の請求はできますか。

牧野さん「悪用されなかったケースでも、民法の不法行為(709条)を根拠として、個人情報の保有者が被った精神的な損害(慰謝料)の賠償を求めることができます」

Q.個人情報の紛失や流出に関する判例があれば教えてください。

牧野さん「これまでの裁判例では、宇治市住民基本台帳データ流出事件(約22万人の個人データが流出)で、1人当たり慰謝料1万円+弁護士費用5000円が認められています(2002年7月11日最高裁判決)。

約3万7000人のスリーサイズや施術コースを含む個人データが漏れた、エステティックサロン顧客情報漏洩(ろうえい)事件では、高い秘匿性が要求される個人データが流出したことから、2次被害があった被害者には高額の慰謝料、すなわち、1人3万円+弁護士費用5000円、2次被害がなかった被害者には1人1万7000円+弁護士費用5000円が認められています(2007年8月28日東京高裁判決)。

しかし、ベネッセの集団訴訟の判決では、東京地裁が今年6月、すべての被害者へベネッセ500円図書券を配布したことも考慮し、『慰謝料が発生するほどの精神的苦痛があるとは認められない』として、原告が請求した1人当たり3万~10万円の損害賠償の請求を棄却しました」

オトナンサー編集部

個人情報が入ったパソコンを紛失したら…