今年で2回目の開催を迎えた「アニメーション・イズ・フィルム映画祭」において、細田守レトロスペクティブとして、『時をかける少女』(06)、『サマーウォーズ』(09)、『おおかみこどもの雨と雪』(12)、『バケモノの子』(15)の上映、そして『未来のミライ』(18)の北米プレミアが、11月30日(金)のアメリカでの劇場公開を前に行われた。ロサンゼルスは12年前に訪れて以来2度目という細田監督。現地では、ファンから驚くほどの歓迎を受け、上映後のQ&Aでは予定の終了時間を過ぎても細田監督に質問しようとする挙手が絶えなかった。ハリウッドの地で作品を上映する感慨について、細田監督にインタビューを行った。

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未来のミライ』の上映前に「この映画はなにも起こりません。大冒険も大事件もないし、大災害も大恋愛もない。ただ小さな子どもと一緒に過ごす家族の日常を淡々と描いているだけです。それでもそこから日常にある大切な何かを見つけて気に入ってくれたらうれしいです」と挨拶をした細田監督。ハリウッド映画の対局にあるような今作を上映するにあたり、少々心配していたそうだ。

「でも実際は、この映画をしっかり受け止めてくれたようで正直ホッとしました。立って拍手をしてくださる方もけっこういて、とてもうれしかった。いわゆるハリウッド映画とはまるで異なる表現の映画なのに、しっかり伝わっているな、という実感がありました。Q&Aでは、子どもからのかわいらしい質問から映画ファンの突っ込んだ質問まで幅広くあって、アメリカ人が『未来のミライ』をいかに楽しんで観てくれたか、ということを肌で確認できて大きな喜びを感じました。いままでロサンゼルスっていうと、ハリウッドの映画産業の中心地なので、ハリウッド的娯楽映画以外は受け付けない場所のような印象を持っていたんですが、全然そんなことはなかった。とても映画愛に満ちた場所なんだなと思いましたね。ハリウッドにおいて、“映画”という共通項の中で、いろいろな国の作品を通して世界の現在を知ったり、僕らの生活の意味みたいなものをみんなで考えたり大事なことを発見したりするのは、映画の意義として重要だと思うんです。その想いを共有できたことがすごく収穫でした」。

未来のミライ』は、今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭でお披露目され、多くの海外映画祭を旅してきた。アメリカでも11月30日(金)より劇場公開が決まっている。海外映画祭への参加は海外配給への第一歩であり、世界中の人々に作品が届く。「最初は海外配給の意義がピンとこなかった」と言う細田監督だが、その時の経験が作品作りにおいても大きな転機になったそうだ。

「12年前に作った『時をかける少女』は高校生の女の子が主人公なので、なるべく同じような世代の女の子たちに観てほしいと思っていたんです。が、実際に映画館に来てくれたのは30代以上の男性がほとんどで、女子高生はおろか女性の姿は皆無でした(笑)。しかしその時の彼らが作品を強く評価してくれたおかげで、様々な国際映画祭へも呼ばれるようになったんです。韓国の釜山映画祭が僕にとって初めての国際映画祭だったのですが、最初は参加することの意味もわからず、ただ上映をしてQ&Aをやっただけで終わっていたんです。しかしそのあともいろんな映画祭に呼ばれるうちに、だんだんそのことの意義がわかってきた。たとえば現地に行って舞台挨拶すると、アニメーションなんて明らかに見ないような田舎のおばあちゃんなんかが観客席に座っているんですよね。それを見た時に、このおばあちゃんの存在を絶対に無視できないと思ったんです。つまり、地球の裏側に住んでいる人も、巡り巡って僕らの映画を観てくれる可能性がある。だったら、日本文化とまったく関わりのない人がたまたま観てもちゃんとおもしろいと思ってもらえるように作るべきだって、強く思わされました。以降の作品から、たとえば若い女性向けだ、とかアニメーション映画が好きな人向けだ、とか日本人向けだ、とかとターゲットをあえて限定せず、なるべく広い観客を想定して作るように心がけるようになったんです。振り返ってみたら、それが自分自身の映画作りに対する認識が変わった瞬間だったんですね」。

アメリカでの配給会社であるGKIDSは、スタジオジブリの作品を多く手掛けるアニメーション配給の老舗。今年は『未来のミライ』(英語タイトルは『MIRAI』)を賞レースの目玉として推していくつもりのようだ。ハリウッドにおけるこの時期の上映は、アカデミー賞に向けたPRとして、大いに役立つ。

「だからと言って、僕自身はアカデミー賞がどういうものなのか、自分と関わりのあるものかどうかは、正直よくわからないです。ただ上映時の観客の反応を見ていうちに、僕自身がアメリカの観客やアカデミー賞に対して偏見を持っていたことを感じました。今回それが払拭され、認識を新たにさせてもらった気がします。ノミネートされるかどうか、なんてあまり気にしていないですし、それよりはアメリカの観客に純粋に楽しんでもらいたい。こういう種類の映画もあるんだ、こういう子どもの描き方もあるんだっていうことを世界中の皆さんと共有したいです。だって、同じ家族を扱っていたとしても、それをヒーロー化するようなアメリカ文化と、この『未来のミライ』は完全に対局にあるでしょ? カリカチュアライズしてウェルメイドに見せるばっかりがエンタテインメントじゃない。もっと家族の日常を丹念に描写しながら子どもが持っている真実を浮かび上がらせ、娯楽映画としてしっかり作ったのがこの『未来のミライ』という作品だと思います」。

細田監督の作品作りの根本には、この世界に生きている者として、次の世代になにを伝えられるかという想いがある。『未来のミライ』はそれが特に顕著に表れている作品だと言えるだろう。

「子どもが世の中をどんなふうに見ているのか、すごく気になるんです。大人が大人の社会の中だけで納得して見ているものより、子どもはもっと広い視野で見ているんじゃないか、と。子どもたちは彼らなりの視点で、この社会や世界というのは果たして信用するに足るのだろうか、と品定めしていると思うんです。それに対して大人は応えていかないといけない。子どもが観て、これだったらいいよと信じてくれるような、子どもがこの世界を認めてくれるような映画を作っていきたいんです」。(Movie Walker・取材・文/平井伊都子)

上映後のQ&Aでの細田守監督