大河ドラマ「西郷どん」(原作:林真理子 脚本:中園ミホ/毎週日曜 NHK 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時) 
第43回「さらば、東京」11月18日(日)放送 演出:盆子原誠

西郷どん 完結編 (NHK大河ドラマ・ガイド) NHK出版

西郷さん、政府辞めたってよ
この小見出しの元ネタを使用するのはちょっと古いか……昨年「おんな城主 直虎」で「信長、浜松来たいってよ」というサブタイトル(48話)がついたとき盛り上がった頃からの時の流れを感じながらの43回。

これまで一緒に歩んできたふたり・西郷(鈴木亮平)と大久保(瑛太)がついに袂を分かつことに……。
「西郷に勝ち、いまの政府をぶっ壊したいのです」
大久保はそんなことを密かに思っていた。
明治6年、岩倉を交えた最初の閣議で、西欧化する日本に批判的な朝鮮国の居留民を守るため自ら朝鮮に行くことを決意した西郷を、大久保は「私は断固、承服しかねます西郷さんに」と阻む。
すっかり口調が変わってしまった大久保。冷たく乾いた声で西郷を否定する。
富国強兵が肝要、鉄道を国の端から端まで通す、軍備の拡大増強、欧米列国に並べば朝鮮国も自ずと従うという大久保
一方、西郷は朝鮮国と清国と手を繋げば欧米に対する強い壁ができるし、廃藩置県によって行き場のなくなった人たちの拠り所にもなりそれが富国強兵につながると言うが、交渉がうまくいかなかったら一気に欧米の力が及ぶと大久保は一歩も引かない。

西郷の主張を見ていると、朝鮮国の居留民は西郷が流された島の人たちと同じような存在の気がしてくる。西郷は島暮らしもしていたから国に打ち捨てられた人の気持ちがわかるのだろうと思える。このドラマを見ている限りは。

結果、西郷の朝鮮国使節派遣は、三条実美(野村万蔵)が倒れて太政大臣代理に岩倉(笑福亭鶴瓶)がなったことで延期となり西郷は政府を辞める。
続いて、江藤新平(迫田孝也)、後藤象二郎(瀬川亮)、板垣退助(渋川清彦)も政府を辞めた。西郷にとってはなんとも口惜しいことであろう。

ちなみに野村万蔵は天子さまを演じている野村万之丞の父。親子で雅な役割。それに比べて「脅しがこおうてまつりがやれるか」「これがまろのやり方や」とわめく鶴瓶師匠はなんとも庶民感覚にあふれている。天上人も下々の者のどっちがいいとか良くないというわけではなく、生まれ育った環境による雰囲気の違いはあるなあと思うだけである。

最後の別れ
東京を去ろうとしている西郷のもとへ、木戸孝允玉山鉄二)が訪ねてくる。
「朋あり 遠方より来る」と子どもたちが長屋で暗唱しているところに。

条約改正に失敗し、長州の者(山県、井上)が汚職に塗れたことの責任を感じている木戸に西郷は、
「人は皆過ちを犯すもんじゃ。じゃっとんその過ちを認め、どう明日へ向かうか。そいでその人の器量がわかるちゅうもんじゃ」と言う。すてきな考え方だ。

西郷は大久保に会いに行く。取り次ぐなと言い含められていたゆう(内田有紀)は子供・達熊に取り次いだことにして西郷と大久保を会わせる。
「詭弁を弄するな」と怒りながらしぶしぶ西郷と向き合う大久保
あくまで穏やかに大久保に話しかけていた西郷だが、徐々に声が大きくなっていく。
大久保が西郷を陥れるまで思いつめていたことについて腹を割って話せなかったことを悔やむ西郷。

「憎め すべて覚悟の上だ」という大久保に、「おはんを嫌いになれるはずがない」と西郷は苦悩する。
涙する西郷の表情は、政治家のそれではなくて、少年の頃に戻ったよう。なぜってふたりは幼馴染なのだから。
そこを感じさせるための前半の、少年期、青年期のグループ男子描写であったことよ。
ここに回想シーンを入れなくていいんだろうか。ふたりで山道を走った青春の思い出とか、西郷が島流しになったとき手紙を一杯書いたこととか、それこそ糸(黒木華)をめぐる甘酸っぱい三角関係とか……。それはもっと後にとってあるのか。

自分が陥れられてもなお大久保を信じたい西郷は、政治を大久保に任せて鹿児島で農業をやると去る。
冷たくあしらっていた大久保も泣いている。止めようとしても涙は止まらない。
「これが最後の別れ」(ナレーション・西田敏行)になることになるからか鈴木亮平も瑛太も感極まっている。

実際のところいろいろあるのだろうけれど、このふたりがこんなにも哀しい別れをすることになるまでの葛藤があまり描かれないまま唐突に感動の別れのシーンになってしまっている。このドラマでは。
鈴木と瑛太からは青春の傷みが素直に伝わってきてとても良かっただけに、ちょっと惜しい。
彼らを取り巻く仲間たちも、いい俳優を起用しているので、青春群像劇を見たかった。

視聴率は11.6%(ビデオリサーチ調べ 関東地区)。
9時からの日曜劇場下町ロケット2」(TBS)は13.1、10時30分からの「今日から俺は!!」(日本テレビ)は9.4%。
大河ドラマと「今日から俺は!!」の差を見るに、大河ドラマの権威は失墜したと思えてくる。
もし視聴率(それも若い世代)を優先するなら「銀魂」大河化を検討したほうがいい(やるならいましかねー 攘夷がJOY )。

あと4回!
(木俣冬)