いま、「史上空前」と言われる将棋ブームが来ているらしい。『レジャー白書2018』によると、「2017年に、一度でも将棋を指したことがある」と答えた人の数は、前年の530万人から30%以上増えた700万人に上るという。

理由はいくつもある。まず圧倒的な「藤井聡太効果」が一つ。さらに「ひふみん加藤一二三九段)効果」や「羽生永世七冠効果」などもあるだろう。

将棋に関連する書籍も大量に出版される中、「将棋を指すときの思考法」が仕事や日常にも役に立つと訴えている本が、加藤剛司・著『仕事は将棋に置きかえればうまくいく 戦略・交渉・人材活用へのロジック100』扶桑社)だ。

著者は将棋の有段者でもあるベテラン放送作家。「実際、将棋を指すと、ロジカルに物事を考えることができるようになるし、人間的な幅も広がる。私が浮き沈みの激しい世界で、25年もフリーで放送作家をやっていられるのも、他人と違う視点で世の中を見られるのも、『将棋思考』のおかげである」と振り返っている。

あなたはどの「駒」タイプ?
まずは性格タイプ分析からやってみよう。将棋の駒の特質から、自分自身、同僚、上司、部下、得意先のタイプを知ることができる。

前にひとつずつ進む「歩」タイプの人は「地道で努力家 人のために動く大器晩成型」。まっすぐどこまでも進む「香」タイプの人は「一本気で猪突猛進 研究的な持ち場で適性を発揮する」。ナナメ前に跳ぶ「桂」タイプの人は「社交性がよく フットワーク軽く話をまとめていく」。前後左右に動いて王を守る「金」タイプの人は「後ろに控えてどっしり構え 懸案を手堅く解決」。前後左右に大きく動く「飛」タイプは「社内・社外問わず奔走して推進させるプロデューサー役」……。

将棋を知っていれば「なるほど」と思うし、知らなくても駒の動き方の解説がついているので難しくはない。性格タイプを把握した上で将棋のことを知っていれば、どの駒とどの駒を組み合わせればいいか、どの駒をどう動かせば効果的かがよくわかる。

「棒銀戦法」は「仲間との連携プレー」の大切さを教えてくれる
次にタイトルにもある「戦略・交渉・人材活用へのロジック100」の部分。「004 “折衝中”の案件を多く抱えている人ほど仕事がデキる」という項を見てみよう。

将棋には「駒が3つぶつかっていたら初段」という言葉があるのだという。こちらが戦いを仕掛けたら、相手が別の場所で戦いを挑んできた。その手に乗ると、また別の場所で戦いが起きて……というように、一カ所だけでなく、三カ所同時で駒がぶつかり合うことがある。要するにマルチタスクであり、こんな局面をこなすことができれば有段者だというのだ。真っ先に対応すべきなのはどれか、放っておいてなりゆき任せにしてもいいのはどれか、指し手は判断力を磨く必要に迫られる。将棋で磨かれた判断力が、ビジネスに役立つわけだ。

「005 1人であれこれ動き回らずに仲間と連携プレーで正面突破」の項はどうだろうか。将棋をよく指す人は、この一文だけで何のことかわかるかもしれない。これは「飛車+銀」の協力で相手を攻める「棒銀戦法」を表している。

「棒銀戦法」は、飛車側の銀が敵陣を目指して進んでいき、攻撃の先導役を果たすという戦法。銀が切り込み隊長となって働くことで、飛車は自ら動かなくとも十分に威力を発揮できる。ビジネスなら、エースはあちこち動き回る必要はなく、その意図を正しく汲んでくれるメンバーが動いてくれれば効率は何倍にも上がる。逆に、一人で仕事をしようとしても思うように成果が上がることは少ない。何よりも大切なのは連携プレーなのだ。

将棋の有段者はビジネスマンとしても有能?
「待ち駒」という相手の逃げ道を塞ぐ戦法は、「相手が『ウン』と言うしかない状況を先回りして作る」というビジネススキルに通じている。
「金は引く手に好守あり」という将棋の格言は、「前に出るばかりじゃ能がない 一歩引いて部下に任せてみる」という管理職の心構えに通じている。
「金底の歩 岩より堅し」という将棋の格言は「バックアップ役を1人置くだけで仕事は順調に回り始める」という人事の戦略に通じている。
「歩のない将棋は負け将棋」という有名な格言は、「エースだけで仕事はまわらない たんたんとこなす人も必要」という職場の考え方に通じている。

……将棋の戦法や格言がこんなにビジネスにあてはまるとは思わなかった! たしかに将棋を指していると、ロジカルな思考が求められるし、俯瞰の見方や瞬時の判断力も求められる。カーッとしてるとちっとも勝てない。将棋の有段者はビジネスマンとしても有能なはず。将棋をやっている人はもちろん、将棋をやったことがない人でもそんなことがよくわかる1冊だ。そして本書を読み進めていくうちに、必ず将棋を指したくなるだろう。
(大山くまお