健康のためには「運動」が一番とわかってはいても、なかなか腰が上がらないというインドア派の方もおられることでしょう。そんな方には耳寄りな話かもしれません。

今回ご紹介するのは、読書に関する研究です。



「毎日座ってばかりいる」と聞くと、あまり健康という印象は受けませんよね。しかし、座ってばかりでも「読書」をしている人たちはそうでもないようです。この度、アメリカのイエール大学の研究チームは、読書と寿命の関係を調べる研究を行いました。



アメリカでは国立老化研究所の援助によって、「定年後の健康に関する疫学研究」として1992年から50歳以上を対象に、2年に一度、電話での聞き取り調査が行われています。2001年からは調査項目に読書に関するものが加わり、研究チームはこの調査の結果を解析しました。対象となったのは3635人で、調査は12年にわたって行われました。



読書に関する質問項目は「先週、何時間読書をしましたか?」といった、読書時間に関するものです。同様に、新聞や雑誌を何時間読んだかについても調べました。被験者全体の平均読書時間は週に3.92時間、雑誌や新聞を読んだ時間の全体平均は6.10時間でした。



研究チームは、得られた回答と生存率との関係について解析を行いました。生存率とは、ある集団において、一定の期間が経過した時点で生存している人の割合のことです。12年の調査期間内に亡くなった人は、被験者全体の27.4パーセントでした。



解析の結果、読書をするグループのほうが、読書を全くしないグループよりも、生存率が高くなることが分かりました。下のグラフは、両グループの生存率の時間推移を表したものです。



グラフ:読書と生存率との関係(文献内Fig.1を日本語訳)

次に、それぞれのグループの中で亡くなった人の割合が20パーセントに達するまでの機関を比較したところ、読書を全くしないグループでは7.08年であったのに対して、読書をするグループでは9.00年でした。以上の結果から、読書をするグループのほうが、読書をしないグループよりも長生きする傾向があることがわかりました。



研究チームはさらに、読書時間についても調べました。被験者を読書時間ごとに「まったく読まない(0時間)」、「3.5時間未満」、そして「3.5時間以上」の3つのグループに分け、それぞれの死亡リスクを解析しました。その結果、読書を全くしないグループの死亡リスクを1とすると、読書時間が3.5時間未満のグループのリスクは0.89、3.5時間以上読書をするグループは0.77となり、読書時間が長いほうが死亡リスクは減る傾向にあることがわかりました。この傾向は、新聞と雑誌を読む時間よりも、本を読む時間に顕著に表れることがわかりました。



調査では、被験者の認知機能を調べるテストも行われました。読書と認知機能、さらに長生きとの関係を調べたところ、読書をすることによって認知機能が向上し、その結果、長生きにつながることが示されました。



本を読むと、自分の知らない世界や過去についての知識や見聞が広がります。また、登場人物に共感することによって、いろいろな感情が呼びさまされるでしょう。これらの全てが、脳に刺激をもたらすと考えられます。さらに、現実から離れて本に没頭することは、脳の良い気分転換にもなるでしょう。その結果、たとえ体を動かさなくても認知機能を高める効果を生み出し、体に良い影響を与えるのだと考えられます。



寒くて外で運動するのがためらわれる季節には、ぜひお気に入りの本を見つけて、暖かい部屋の中で脳の健康維持に努めてみてはいかがでしょうか。



▼ご紹介した論文
A chapter a day: Association of book reading with longevity.
Bavishi A et al., Soc Sci Med. 2016 Sep;164:44-48. doi: 10.1016/j.socscimed.2016.07.014. Epub 2016 Jul 18.



読書が長生きにつながることを示した研究